そのじゅうよん
「おーい、ウィル~! 遊ぼうぜ~!」
ある日カイルが言ってきた。無論、いつものことだ。
もう1、2年で成人する身だ。もう少し遊んでおきたい、と言うのは仕方のない話だろう。
「いいよ。今日は何する?」
「東の森に行ってみようぜ」
「東の森って……」
東の森はその名の通り帝都の東に広がる大森林だ。獰猛な獣や魔物がいる一方、貴重な薬草や錬金術の材料があるため、狩人などがよく訪れるらしい。
言うまでもなく、俺たちのような子供が行っていい場所ではない。
「大丈夫だよ、大人達だってみんな無事じゃないか。
それに、ウィルは親父さんに剣を習っているんだろ? ならなにか出ても怖くないって」
カイルよ。それは危険は俺に押し付けると言う意味か。
さすがにそれは承伏出来ない。そもそも未だ訓練中の俺は模擬剣しか持ってないし。バレたら親父の拳骨一発じゃすまないし。
ここは一つ、前世と合わせて40年近い人生の経験からくる論理的説得で諦めてもらうとしよう。
「……どうしてこうなった」
鬱蒼と広がる黒い森。上を見れば無数の木の葉に光は遮られ、周囲が薄暗い理由を理解できる。前を見れば無数の木々が視界を遮り、地の果てはおろか、1秒後に何が飛び出してきても不思議ではない。
見れば見るほど疑問の余地もなく、東の森である。
まあ、それはいい。あまりよくはないが、40年とほざいたところで、もともと口がうまいわけでもなかったし、子供のパワーはすごい。勢いでここにいることは、まあいい。準備はしてきたし。しかし。
「……なんでミリアたちまでいるんだ……」
「何よ、私がいちゃいけないの?」
「お兄ちゃん……ダメだった?」
独り言聞きとがめたのだろう、ミリアとアリスに突っ込まれる。いや、ダメも何も、危険地帯って自覚ある?
「だ~いじょうぶよ。モンスターなんかが出てきても、私が倒してあげるから!」
力強く請け負うミリアと、不安からだろう。俺の服をきゅっと握るアリス。うむ。我が妹ながら可愛らしいことこの上ない。なぜか外に出かけるときは義務付けられている帽子の上から、アリスの頭をなでる。
「で。そんだけ力強く請け負ってくれるからには、ミリアは何か戦いの心得があったのか? 喧嘩が特別強かった記憶はないけど、魔法が使えるとか?」
「え? 使えないわよそんなもん」
…………。
「実は最後にケンカしてからこっそりと剣か何か習ったとか?」
「習ってるわけないじゃない。大体、私無手でしょ」
……そうだな。武器どころか最低限の防具もつけてない、いつも通りの服装だな。俺以外全員そうだけど。
「じゃあどうやって倒すんだよ?」
「なんとかなるんじゃないの?」
……恐ろしい。何が恐ろしいって、この子本気で言ってる。
子供同士のけんかでさえ、口と同時に手が出る以上のアドバンテージを持たない年相応の女の子が、森に出る魔物相手に素手でどうにかできると本気で思っているのだ。これほど恐ろしいことはない。
俺はため息を一つつくと、担いだ剣を動かしやすいよう担ぎなおした。
「というかウィル。お前模擬剣しか持ってないって言ってなかったっけ?」
「そうだよ。これは全部父さんの」
親父の倉庫にこっそり入り、予備として置いてあった片手半剣と、親父がまだ子供のころ、初陣のときに着たという革鎧を持ち出してきたのだ。
革鎧はそれでもサイズが合わず、適当にベルトをきつく締めることでごまかしている。バスタードソードも、腰に差すと俺の背と比べて刃が長いのだろう、鞘から抜くときに引っかかってしまう。無論、鞘に入れたまま背負ったら抜けるはずはない。結局、抜身のまま背中に括り付け、森の入り口ですぐ振り回せるように担ぐことにしたわけだ。
魔物に遭遇し、剣を鞘から抜いてる間にやられました、では笑うに笑えない。
「でも、危なくないの?」
「そりゃあ、剣に向かって体当たりしたら危険だよ。でも、刃をなぞったら切れるって程切れ味がいいわけでもないしね。気をつけてくれれば大丈夫」
何せ西洋剣だしなあ。かの日本刀のごとき切れ味は得られないのである。つーか構造上西洋人だって切れ味追求して剣を作ったらあの形状になるって生前の知人が言ってた。
「あの……お兄ちゃん」
「ん? どうした、アリス」
こちらの会話がひと段落したのを見計らい、アリスがおずおずと上目づかいで声をかけてきた。クソ、かわいいなおい。嫁になんてやらねえぞ! 親父とタッグを組んで「妹(娘)が欲しければ俺たちに勝ってからにしろ」とか言ってやる!
ちなみに、いたずら好きのカイルだが、アリスに手を出したことはない。カイルがアリスに惚れてる、というわけでもなく、単に年下に対しては面倒見がいいだけだ。まあ、惚れるのなんだのにはアリスは幼すぎるしな。
「勝手についてきちゃって、ごめんね?」
わがままを言って嫌われる、とでも思ったのだろうか? 半泣きで謝るアリス。
確かについてこられたのは、困った状態である。純粋に戦力で言えば、戦えるのは俺だけで、それも絶対の自信なんてない。さらに一人だと思ってた足手まといが三人。まあ、アリスに関しては強く出れずにつれてきちゃった俺のせいだが。
「いいよ、別に。けど、次からは本当に危ないところにはついてこないでね?」
「うんっ」
優しく声をかけ、嫌ってないアピールをしたのが功を奏したのだろう。アリスは元気良くうなずいてくれた。
……さて、神様仏様。どうか魔物に遭遇せず、無事に帰れますように。




