そのじゅうさん
あれから数日後。とりあえず算術と言語の授業はおいておくが、歴史や度量衡の授業は役に立った。
記録すらない神話の時代、7000年続いた亜人の時代を経て、現在人間種が大陸の中心に屹立している。
現在はそれから5000年近くたつ第四帝国紀と呼ばれる時代。大陸の宗主たる帝国の王朝が変遷し、4朝目。第三王朝の折に、帝国の宗主としての権威が崩壊する事件があり、必ずしも現在の帝国は無条件で大陸の君主とは言えなくなっているが、それでももっとも強大な国力を持つ国として君臨しているらしい。
以上、歴史の授業の内容。まだこれしか習ってない。概要をつかんだところで細かい事件などを追っていくそうな。
一方、単位絡みはより以上に学びやすかった。何せ、概念が前世とほとんど変わらないのだ。
1キロは1キグラだし、1センチは1セメルト。1メートルは1メルトなのだ。もはや「ほとんどまんまじゃねーか」という領域である。
一日の長さは地球と同じ……だと思う。体感的に。13年も前の事なのでうろ覚えだが。ただ、時分の基準は違った。一日を八等分し、その一つを刻と呼ぶ。一刻は地球時間に換算して3時間に相当するはずだ。
帝国において、春の万等節という日がある。これは、帝国の気候観測所において、昼と夜の時間がちょうど四刻ずつになる日だ。この日の朝日が昇る時間――多分、午前6時くらい――を始まりの刻とし、そこから労働の刻(午前9時)、天頂の刻(午後12時)、休息の刻(午後3時)、終わりの刻(午後6時)、眠りの刻(午後9時)、深夜の刻(午後12時)、そして霊集の刻(午前3時)と定められている。
一方、分にあたる表現はなく、秒に相当する「拍」が存在する。これらを合わせて七日で一週間、4週でひと月、13か月で一年、というのがこの世界の暦らしい。ちなみに計算してみると、7×4×13で締めて364日。閏年を考慮しても、地球とこちらで1歳分差がつくには300年くらいかかりそうだ……。
◆ ◆ ◆
「それでは、これより神学の授業を始めます」
教師役である侍祭のおばさんがそう言った。……前世の記憶を持つ俺の視点から見れば。これこそが日曜学校なるものを開いた最大の理由なのだろう。
宗教において、信者の数はそのまま力となる。魔法や奇跡のない地球でさえそうなのだ。魔法があり、中世レベルの文明でしかない――厳密には欧州は中世より古代の方が文化的に優れていた気がしなくもないが、慣習的に――この世界においては尚更だろう。それゆえ、純粋に言われたことを吸収できる子供に説法をすることで、信者を増やそう、というわけだ。
「皆さんが普段神様と祈ってる存在ですが。正式には七大神様といいます。聞いたことはありますね?」
侍祭様の質問に、無言でうなずく生徒たち。
「世界は、七大神様を筆頭とする神々により統治されています。我々人類は、神々の教えに従い、尽くすことで人々は死後、神の国へ行けるのです」
胡散臭っ!?
「神々は世界を正すもの。その数は無数にいますが、その筆頭であらせられる七大神様。彼ら七柱の神が身について、詳しく話していきましょう。
まずはあらゆる神々の王にして支配者、人々に誇りを与え、人として立つべき寄り辺を示すスペビア様。
そしてスペビア様の妻。純潔と貞節の守り手インヴィア様。
神々の矛にして盾。あらゆる悪魔を滅ぼす戦女神イーラ様。
あらゆる神々の母にして疲れた神々を休める者アーケディア様。
スペビア様の息子であり、商人の庇護者アヴァリツィア様。
あらゆる神々の父にして人々に日々の糧を与えてくれる豊穣神グーラ様。
最後に、スペビア様の最後の娘。最も美しく、神々に愛を与えた女神ルクスリア様。
これが我々が信仰する、七大神様です」
……豊穣神は女神じゃないのか、珍しい。
「七大神様は教えます。
――一つ、誇りを忘れず、胸を張って生きよ。
――一つ、貞節を尽くし、ただ一人を伴侶とせよ。
――一つ、魔神、悪魔を許さず、怯むことなく立ち向かえ。
――一つ、疲れたもの、老いたものは休むべし。
――一つ、人と人との誠実なつながりが富をめぐらせる。
――一つ、自然を愛し、自然の恵みに感謝し、汝らも地に満ちよ。
――一つ、愛と尊び、美を尊べ、と」




