そのはち
10歳になった。
月日が経つのは早いものだ。いや、日常じゃあ話すネタがないから飛ばしてるだけだけど。
妹のアリスも早5歳。髪も伸び、美幼女になった。先日など
「大きくなったらおにいちゃんとけっこんするの」
などと可愛らしいことを言ってくれた。親父達も
「はは、良かったじゃないかウィル。嫁さんができたぞ」
などとのたまい、微笑ましい日常。……気になったのは、親父達の目が割とマジに見えたことか。
……子供特有のお約束だよな?
今、俺は親父と剣の特訓をしている。
型の練習などは終わり、今は親父と打ち合い。要するにチャンバラ。
魔法の訓練も順調で、チャンバラの時は実戦での魔法使用の訓練も兼ねて割と何でもありになっている。
魔力量は順調に増えており、今は既に半日身体強化の魔法を使っても、魔力切れを起こさない。
まあ、所詮10歳児が身体能力2割強化したところで、たかがしれてるんだけどな。それでもこれと親父仕込みの技のおかげで、近所の喧嘩では負け知らずだ。無論、我が儘振りかざすために暴力を振るったりはしないので、友人からは正義のヒーローみたく扱われてる。
話が逸れたが、そんなチャンバラの中、それは起こった。
当然、10歳児が身体能力を強化したところで、大の、それも剣術を本業とする大人に勝てるはずがない。技も、力もである。
親父は騎士の基本的な形である剣と盾ではなく、両手持ちの剣を得意とする。俺が習っているのも両手剣の扱いになるわけだが、フェイントと小技でこちらのバランスを奪い、体勢が崩れたところに力押しの強打を見舞う、という戦術だ。もう何度もそれで負けているので、わかってはいるのだが、それでも反応してしまう。
ただでさえ体勢が崩れているため、親父と同じ筋力、いや、仮に5割増しで勝っていたとしても、最後の一撃は耐えられない。そういう風にバランスを崩されている上に、素の力でも負けている。要するに、今回も完封負けになるわけだ。
しかし、俺にだって意地がある。毎回毎回同じ負け方をするのでは芸がない。せめてここで、一瞬でも押し返して、親父を見返してやる――!
そう思い、全身の力を込めて押し返す。無論、そんなことで押し返しきれるはずもなく、いつも通りに無様に負けるはずだったのだが……
「なっ!?」
「へ?」
押し返せるはずのない状況で、完全なまでに押し返すことに成功し、驚愕する親父と、あっけなく押し返せてしまったことに逆についていけなくなった俺。数秒の間、お互いに動きが止まってしまった。
……あ。勢いで身体強化の魔法、魔力全部突っ込んでめちゃくちゃ強くなってた。
残っていた魔力をほぼすべて突っ込んだので、あの一瞬、身体能力が10倍以上になっていた。そりゃあ親父相手でも押し返せるってもんだ。
「ウィ、ウィル!? あなた大丈夫なの!?」
そんな俺たちの訓練風景を眺めていたお袋が、血相を変えて飛び込んできた。あわてて魔法を打ち切った俺をつかみ、全身をまさぐって調べるお袋。かなりくすぐったい。
「ウィル! 一度に魔法に使っていい魔力量はあれほど教えたでしょ! あなたの場合本当に命に関わるんですよ!?」
怒られた。目に涙をにじませて怒るお袋を見れば、素直に謝る以外、選択肢はない。
……が、なんで無事なんだ? 俺。
前にも語ったが、魔法を肉体に掛ける時、肉体が耐えられる魔力の量というのは決まっている。2割というのはほとんどその上限だ。先ほどかけたのは、その限界量の50倍以上。はっきり言って、かけた瞬間に爆散してない方がおかしい。
「むう。俺は魔法については詳しくないが、ウィルが無茶を通り越して、生きてる方が不思議なことをしたのはわかる。しかも、どうやら生きているどころか無傷のようだ。これはどういうことだ?
……浅学な俺が考えてもしょうがないか。大学に行って見てもらおう。それに、無事に見えて何か問題があるかもしれないしな」
……親父、あんた冷静だな。




