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2話

転校生が玉砕した直後、HRの終わるチャイムがなり、本人含め放心状態だったクラスメイトもようやく我に返った。


「……え?ふ、振られた!?この僕が!?」


 転校生はありえないといった様子で動揺しているが、初対面で求婚して良い返事がもらえるわけないだろう。一方求婚された至宝はというと、一限目の移動教室に颯爽と向かったようだった。


 クラスメイトたちは転校生の周りに集まると


「大丈夫?」

「ナイスファイト!」


などの声を掛けている。


ある種の奇行も顔の良さでカバーされることもあるのかと、少し羨ましい気持ちもあるが、今世は希望もないため、移動教室へ向かった。


まぁ、玉砕直後で大人しくなっているものかと思っていたが、やはりイケメンの考えることなどわからないもので……。


 休み時間の度に至宝の元へ行っては


「名前を教えてくれ!」

「あいにく僕の辞書に諦めるの文字はない!結婚してくれ!」


と、とんでもポジティブを発揮している。


さらにその様子を見に他のクラスからも人が集まり、教室が狭苦しい。せっかくの昼休みも落ち着けないため、教室の一つ上の3階、空き教室に避難する。


実はここ、前扉が壊れて開け閉めできず、後ろ扉からしか入れないこともあり、ほとんど人が来ないのだ。

憩いの場としてたまに使用する程度だが、今日はうってつけである。


昨日の夜から学校へ来ることをかなり恐れていたが、良くも悪くもあのイケメン転校生のおかげで事なきを得た気がするので感謝を伝えたい。心の中で拝みながらお弁当を食べ終え、昼休みがまだ30分ほど残っていたため少し眠ることに。よほど気を張っていたのか、すぐに意識は沈んでいった。


 予鈴の鳴る10分前、スマホでアラームを設定していたので、その音で目を覚ました。頭がスッキリしたな〜なんて思いながら、腕を上げ伸びをしていると、隣の椅子に誰かがいるような……視界に何かが入った。

 

ギギギと効果音でもつきそうな動かし方で首を横へ向けると、予想外の人物が。


「やっと起きた。話があるんだけど。」


 右手で頬杖をつきながらこちらに話しかけてきたのは


椋本《むくもと》 鏡華《きょうか》


同じクラスで至宝と唯一仲良くしている人だ。茶色がかった長い髪に、透明感のある肌、切長の目はまつ毛の影が落ちており、より一層彼女の美しさを際立たせている。そんな彼女も容姿が整っていることから、学校内でも人気があるが、あの至宝と並ぶと神々しさが増すので、誰も話しかけられない人物だ。


そんなツートップと言われているツーの方は俺に何の用だろうか。昨日トップの方に意味のわからないことを頼まれたため(断り済み)、自然と身構えてしまう。


「お、俺に何の用でしょうか……。」


「昨日の放課後、校舎裏であなたと琳が話していたようだけど、何を話していたのか教えて欲しいの。琳に聞いても何も教えてくれないから。」


 感情こそ読み取りづらいが、少し拗ねたように話す彼女はきっと、ゴシップ的な意味で聞きたいのではなく、心配しているのだろう。突然こんな陰キャと2人で話していたらそりゃ気になるか。本人が話さないということは、あまり知られたくない内容だと思うが、止めてもらうにもここは致し方ない。


昨日の出来事を簡潔に話すと、椋本さんは顎に手を当て、眉を顰め考え込んでいる。自白もしたので、そろそろ教室に帰りたい。帰りたい欲が頭を占めていると、椋本さんは立ち上がりこちらを見つめた。


「話してくれてありがとう。それじゃ。」


 片手を上げ、空き教室を出て行ってしまった。


てっきり咎められたりするんじゃないかと、身構えていたのに特に何もなく去って行ったので、話して正解だったのかもしれない。彼女ならきっと、親友を止めてくれるだろう。ちょうど予鈴もなったので、スッキリした頭と心で教室に戻った。


 教室前の廊下は相変わらず人だかりがあり、いつまで続くんだと思いながら席に座る。転校生はちょっかいをかけ尽くしたのか大人しく席に着いているが、諦めている様子でもない。すると、どこからか


「王子かっこいいよね」


と女子たちが話している声が聞こえ、王子?と小首を傾げているとチャイムが鳴った。


「王子またね!」

「王子ばいばい!」

「ああ!また」


こいつか!


どうやら転校生は知らぬ間に王子と呼ばれるようになったらしい。当の本人は今朝見せたキラキラスマイルを振り撒いており、自分のクラスに帰って行った女子生徒の黄色い悲鳴だけが聞こえる。世の中顔か〜なんて思いながら教科書を取り出すと、二つ折りにされた小さい紙が地面に落ちたので拾い上げる。


 自分で入れた覚えはないが、開いて見てみると見覚えのある綺麗な文字が。


『放課後、校舎裏で待ってます』


 冷や汗が落ちた右下にも見覚えのある名前があった。白雪 琳——その名を見た途端、先ほどまで回復に向かっていた精神がまたもや地獄に落とされる。


授業中なので聞こえない程度のため息を吐き、窓の外を見つめ、また逃げてしまおうかと考えるが、昨日の件で怒っている上での呼び出しなら謝るしかない。普段関わりがないとはいえ、同じクラスで顔を合わせるので、あまりわだかまりを残すのは良くないだろう。


腹を括りつつ、黒板に目をやりノートをとるが、内容は入ってこない。再度窓の外に目を移し、自身の心とは相いれぬ青空に神頼みするしかなかった。


 (無事、帰れますように……。)

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