3話
気に病めば病むほど時間が過ぎるのは早く、あっという間に放課後になってしまった。自席で荷物をまとめている間にも、至宝が王子に絡まれている。
「今日の放課後、一緒にカフェでもどうだろうか!」
「先約があるので結構です。」
「では明日はどうだろうか!」
「明日は部活があるので結構です。」
もはや鬼メンタルを感心せざるを得ない。
会話?をしている中でも、至宝は荷物をまとめ教室を出てしまった。自分も向かわなければと、椅子と一心同体になりそうな体を断ち切り校舎裏へ。
そして、校舎裏に続く廊下を今度は時速ナメクジで歩いている。昨日のことできっと怒らせてしまったに違いないので、とにかく謝って謝り倒して謝ろう。ウジウジしつつ辿り着いた扉の前で大きく深呼吸をし、いざ校舎裏へ。
扉の音でこちらに目線を移した至宝と目があった瞬間——土下座をかました。それも人生初土下座。やはり痛いのは嫌なので、プランクトン並みのプライドを捨て誠意を込める。
「き、昨日は逃げ出して、ごめんなさい!ちょっと混乱してたというか……とにかく本当にごめんなさい!」
地面を見つめた狭い視界に影が落ちた。何かと思い顔を上げると至宝が至近距離でしゃがみ、こちらを見つめている。こんな時でもドキッとしてしまうのは、彼女がきっと美し過ぎるからだろう。
「私も……昨日は突然ごめんなさい。一方的に呼び出してお願いまでしてしまって、反省してます。」
「い、いやそんな……。」
何となくしゅんとしているようにも見えるが、これは和解が成立したということでいいのだろうか。それならば、もう用は済んだはずだし帰ろう。
「謝罪を受け入れてもらえてよかったです。それじゃ——……」
敵意はありません、あなたより格下です。と意思表示するようにペコペコしながら立ち去ろうとしたが、手首を掴まれ阻止されてしまった。
「あの、何度も呼び出したり、突然お願いしたり……本当に申し訳ないと思ってます。でも、あなたにしか頼めないんです。私に毒林檎を作ってもらえませんか?」
昨日聞いたセリフにフリーズ。え、椋本さん話してくれたんじゃないのか……どうする。今ある選択肢としては逃げることだが、生憎、手首を掴まれているのでそれは叶わないだろう。
それにどうしてこんなに懇願しているんだ。理由を聞いてみたいが、きっとまた教えてはくれないだろう。
「……俺もちょっと作れないというか作りたくないというか……そもそも、しほ…白雪さんとはあまり話したことないし、友達でもないし。だからその〜仲良くない人のお願いは基本聞かないようにしてるんで……。」
途中から自分でも何を言っているのかわからなくなったが、ここで引いてほしい。未だに掴まれている手首に視線を移すも離してくれそうな気配がないため、至宝の顔を見ると何やら考えているようだ。空いている左手を顎に当てているが、何を思い悩む必要があるんだろう。
「友人関係であれば、作っていただけるということでしょうか。」
「……はい?」
「でしたら真継君が私と友達になって下さるよう努めます。仲良くなれるよう頑張りますね。」
「え、えっと……」
「昨日に続き、お時間いただきありがとうございました。それではまた明日。」
離されていた手首に熱が残る中、見慣れたお辞儀をして帰ってしまった。俺ってこんな情報処理能力低かっただろうか。全く理解が追いつかない。
要約すると、毒林檎を作ってほしいから俺と友達になれるように頑張ろうとしているってことか?正直これ以上関わりたくないし、どうしてあの王子といい至宝といい、顔のいい人たちは努力の方向がずれているんだろう。再度、地獄に落とされた俺はおぼつかない足取りで帰宅した。
いつもの日常生活がぶち壊されるのではないかと、最初こそドキドキしていたが、意外に何もなく二週間ほど経った金曜日の今日。
やっぱり陰キャと仲良くなるのは嫌だったんだろう。よかった陰キャで。
この二週間、至宝からは何もアクションがなくて落ち着いているが、王子は相変わらず至宝へアクションを起こしまくっている。
毎日のように
「放課後は空いているだろうか!」
「趣味を教えてほしい!」
などと追っかけ回しているが、当の本人はほとんど反応していない様子だった。まぁ、もう俺には興味も失せたようだし自由だなんて喜びながら、残り5分で入る昼休みを待つ。
ちょうど5分でチャイムが鳴り、教室内が一気に騒がしくなる。かくいう俺もお腹がペコペコなので、鞄から母お手製のお弁当を机に置く。
そういえば今日は水筒を忘れていたので、財布だけを持ち1階にある自販機へ向かった。教室を出る際も、王子が至宝に昼食を一緒に食べようなどと誘っていたが、いつも通り断られるだろう。
お茶を購入して教室へ向かうが、妙な騒がしさが廊下からでもわかった。昼休みは騒がしいがそれとはちょっと違うような……とりあえずお腹も空いているので、教室に足を踏み入れると、みんな一点を見てザワザワしている。それが自分の席付近な気がして、嫌な汗が頬を伝う。
元凶を見てみるとやはり自分の席で、前の人の椅子を借りたのか、至宝が俺の机にお弁当を置いてスタンバっている。さらには椋本さんまでも同じようにスタンバっている。あの時のように逃げたいところだが今回はそうはいかない。
なぜなら、俺のお弁当が人質に取られているようなものだからだ。




