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近況

第八十四話 宛名の残る場所


 晴の同盟に入りたいという話は、砦を取った翌日から少しずつ増えた。


 最初は、巨嶽の名前を聞いて来るのだと思っていた。


 実際、それもあった。


 強い武将がいる。


 砦を取れる。


 土地枠が増えれば、自分の城も育てやすくなる。


 同盟を選ぶ理由としては、十分だった。


 けれど、加入した者と話していると、それだけでは説明のつかない返事も返ってきた。


「盟主さんに、魚をもらいまして」


 そう言ったのは、川の下流に城を持つ君主だった。


「魚?」


「はい。先日、釣りに来られた時に」


 以前、杏が声を掛けた相手だった。


 土地を広げるつもりは、しばらくない。


 砦にも参加できない。


 そう言っていたのを覚えている。


「同盟の話をしたのか」


「いえ。その日は、ずっと魚の話でした」


 俺は返事に困った。


 相手は少し笑った。


「入らないと、もらえないのかと思ったんです。さすがに、聞き方は変えましたけど」


「晴は何て?」


「多すぎて食べきれないから、持って帰ってくださいって」


 それは、言いそうだった。


「そのあと、また誘われまして」


「同盟に?」


「釣りに」


 俺は口元を押さえた。


 相手も、今度は声を出して笑った。


     *


 その君主は、釣りのあとで同盟について尋ねたらしい。


 参加できることは少ない。


 攻略の時間に合わせられるかも分からない。


 以前のように、土地のために一日を使うつもりも、今はない。


 晴は最後まで聞いてから、頷いたという。


『じゃあ、できる時に教えてください』


 それで話が終わったので、逆に不安になったそうだった。


『本当に、それでいいんですか』


『はい。あ、でも、来るって言って来られなくなった時は、分かったら教えてほしいです。待っちゃうので』


 俺は、そのやり取りを聞きながら頷いた。


 何も求めないわけではない。


 晴が困ることは、晴が言う。


 ただ、まだ起きていない失敗まで並べて、相手を試そうとはしなかった。


「それなら、と思いまして」


 君主は言った。


「ここにいれば、また何かやりたくなった時に、聞けそうだったので」


     *


 別の日には、攻略で出兵を間違えた者がいた。


 到着が遅れ、予定していた順番に間に合わなかった。


 幸い、砦は取れた。


 それでも本人は、何度も謝った。


『次は気をつけます』


『兵は大丈夫でした?』


 晴が最初に返したのは、それだった。


『大丈夫です。ただ、皆さんにご迷惑を』


『帰ってきたならよかったです。どこで時間がずれました?』


 責める声がなかったので、その者はようやく説明を始めた。


 部隊を組み直したあと、所要時間が変わっていた。


 最初に見た数字のまま、出発した。


 岳が途中から話へ入り、次に確かめる場所を教えた。


 葉は、出兵前の確認事項へ一行だけ書き足した。


 話が済むと、晴が言った。


『次も出られます?』


『……いいんですか』


『一緒に育てたい武将がいるって言ってましたよね』


 その返事は、少し遅れて届いた。


『います』


『じゃあ、次は間に合うようにしましょう』


 数日後、その者は、以前の仲間を二人連れてきた。


 晴は喜んだ。


 人数が増えることにも喜んでいたが、二人が持ってきた変わった形の干し魚にも、同じくらい喜んでいた。


     *


「増えたね」


 杏が、同盟の名簿を見ながら言った。


「増えたな」


「晴、全員の名前、覚えてるみたい」


「俺は、まだ何人か怪しい」


「でしょうね」


「なんでだよ」


「昨日、川の人って言ってた」


 言っていた。


 俺は名簿を開き直した。


 晴は、強い武将を持っている者だけに話しかけるわけではない。


 昨日、魚を逃がした者。


 土地の副将を初めて置いた者。


 城の倉庫を大きくした者。


 そういう話にも、いちいち楽しそうに返事をする。


 質問しておいて、返ってきた答えをちゃんと覚えている。


 本人は、何かをまとめているつもりですらないのかもしれなかった。


 けれど、話しかけられた側には、それが残る。


「巨嶽を見に来た人も、いるだろうけど」


 杏が言った。


「残る理由は、晴かもね」


 俺は名簿から顔を上げた。


 否定する理由がなかった。


     *


 書簡が増えたのも、そのころだった。


 同盟への加入相談だけではない。


 差出人を見て、思わず姿勢を変えるような手紙が、何通か届いた。


 最初は湊だった。


 冒頭には、こちらの砦攻略を祝う言葉があった。


 その下に、現在の城の位置。


 新しく所属した同盟の名前。


 そこまでは、普通の近況報告だった。


 俺の手が止まったのは、その次からだった。


『今の同盟では、出兵の時間をまとめる役をしています。


 最初の攻略は、失敗しました。


 兵が足りなかったのではなく、こちらが勝手に、皆その時間なら動けるだろうと決めたのが原因です』


 俺は椅子へ座り直した。


『一人は城の作業が終わらず、一人は別の土地へ兵を出していました。来られなかった二人は、あとで謝りに来ました。


 謝られるまで、こちらが先に聞いていなかったことを、うまく言えませんでした』


 湊の顔が浮かんだ。


 昔、五人で砦へ行く時間さえ揃わなかったころ。


 俺たちのところへ来た時には、今よりずっと言葉を選んでいた。


 その湊が、今は人を待つ側にいる。


『北西にいた時、予定を聞かれるのが当たり前になっていました。


 あれを誰かが聞いて、並べて、無理なところを直していたのだと、自分でやってみて分かりました』


 俺はその一文を、もう一度読んだ。


     *


 湊の手紙には、失敗したあとも書いてあった。


 出られる時間を、一人ずつ聞き直した。


 先に戻さなければならない兵がいるなら、それも教えてもらう。


 全員で行くのが難しい日は、行ける人数でどこまでできるかを考える。


 二度目は、砦を取れた。


『帰還を確認したあと、食事を出したのですが、用意が多すぎました。


 北西の猫にいた時の感覚で頼んでしまったようです。


 鍋が一つ、ほとんど残りました』


 俺はそこで笑った。


 大きな同盟を離れても、人数の感覚だけが、すぐには戻らなかったのだろう。


『翌朝も同じ汁物でした。


 昨日は喋らなかった者が、さすがに飽きたと言ったので、少し安心しました』


 笑いながら読んでいたのに、その先で胸が詰まった。


『そちらへ戻りたいという話ではありません。


 こちらでも、もう少しやってみようと思っています。


 ただ、うまくいったので、一度、知らせたくなりました』


 俺は、しばらく筆を持たなかった。


 湊が、また困っているのかと思っていた。


 何か手伝えることがあるかと、手紙の先を探していた。


 違った。


 あいつは、取れた砦の話をしに来た。


 帰ってきた兵と、残った鍋と、ようやく文句を言った仲間の話を。


 俺は紙を引き寄せた。


『攻略、おめでとう。


 鍋が一つ余るくらいなら、次は玄を呼べばいい』


 そこまで書いてから、続けた。


『そっちの人たちの名前も、今度教えてくれ』


     *


 佐伯の書簡は、湊のものより整っていた。


 最初に、現在の所属と担当範囲。


 次に、巌が立ち上げた同盟の近況。


 そのあとに、今後の連絡先。


 必要なことが順に並んでいて、読みながら確認しやすかった。


 以前なら、そのまま律へ回していたと思う。


 今回は、最後まで自分で読んだ。


『こちらでは、当面、私が対外窓口を担当しています。


 巌殿は、今度こそ最初に分担を決めるとおっしゃっていましたが、昨日、私が知らない取得予定を二件、約束してこられました』


 俺は、思わず声を漏らした。


「……やってるな」


 窓辺のカイが振り返る。


「誰が?」


「巌さん」


「何を?」


「先に約束」


「しそう」


 俺は笑って、続きを読む。


『幸い、重複はありませんでした。


 ただ、相手からは「巌殿に話してあります」と言われ、こちらは何も知らないという、懐かしい状態になりました』


 懐かしい。


 その言葉を読んだ途端、前の城の広間が浮かんだ。


 机に三通の書簡を並べた佐伯。


 紙の端を揃える、少し丁寧すぎる手つき。


 俺たちが猫の絵を作り、その話を各地へ送っていたころ、佐伯は停戦後の土地返還を処理していた。


 こちらが楽しそうな相談を受けている間に、足りない一マスや、帰らない兵の話を聞いていた。


 そのことを、俺は怒られるまで、ちゃんと見ていなかった。


     *


『今回は、その日のうちに分かりましたので、前よりは進歩しています。


 巌殿にも、帰城後に話していただければ間に合うと伝えました。


 以後、帰ってこられるたびに私のところへ寄るようになりました。今度は話が長くなりました』


 俺はとうとう笑ってしまった。


 佐伯が困った顔で椅子を勧め、巌が座る前から大声で話している。


 見ていないのに、光景が浮かんだ。


 手紙はそこで、少し調子が変わった。


『先日、新しく入った方に、小さな地上絵の相談を受けました。


 土地へ置ける副将のことを考えると、無駄にはなるのですが、城の前に何か形を作りたいそうです』


 俺は、先をゆっくり読んだ。


『周囲の取得予定を確認してから、下書きを見せてもらいました。


 魚だそうです。


 私には、少し曲がった槍にも見えましたが、そこは言わずにおきました』


 猫の右のひげが好きだと、佐伯は言っていた。


 完成した絵だけを見せて、それで十分だと思っていた自分を思い出す。


『今回は、最初から相談してもらえました。


 そういう近況も、一つくらいお送りしておこうと思いました』


 俺は、その一文のところで手を止めた。


 仕事の報告に紛れていたが、たぶん、ここを伝えたかったのだ。


 俺は返信に、完成したら見せてほしいと書いた。


 それから、もう一つ。


『こちらでも魚の話が多いです。


 律には、俺から伝えておきます。きっと喜びます』


     *


 巌からは、別に手紙が来た。


 佐伯と同じ同盟にいるのに、こちらへ送る内容はまるで違った。


『晴のところへ入ったそうだな。


 お前が誰かの下へ入ると聞いて、少し笑った。


 俺が誘った時は、あれだけ頑固だったのに』


「……覚えてるのか」


 声に出してから、そりゃ覚えているかと思った。


 あの日、巌は西端ごと来いと言った。


 俺は、仲間の出兵を決める権限まで預けられないと答えた。


 食事はうまかった。


 話も、分かるところが多かった。


 だからこそ、断るのが難しかった。


『あの時、来なかったことを責めているわけじゃない。


 今は、自分で決めて入ったんだろう。


 だったら、それでいい』


 俺は背もたれに体を預けた。


 あの人にそう言われると、妙に落ち着かなかった。


 認めてもらうために決めたわけではない。


 それでも、肩の力が抜けた。


     *


 巌の近況には、最近取った砦の話があった。


 第四世界の君主が主力を出してくれたという。


 出兵前に、巌はその者へ兵を増やすよう言った。


 相手は、これで足りると答えた。


 念のためと重ねると、技能と損失の見込みを説明された。


『俺のところの者より、あいつのほうが自分の兵をよく見ていた。


 人数を増やせば安心するのは、俺の癖だな』


 俺は、その文を読んで少し驚いた。


 巌は、自分のやり方を堂々と話す人だった。


 必要なら出してもらう。


 その代わり、困った仲間がいれば皆を動かす。


 その強さに、助けられたこともある。


 今の手紙には、その人が知らない相手の説明を聞き、出す兵を任せたことが書かれていた。


『砦は取れた。損失も、ほぼ言われたとおりだった。


 帰ってから一杯やろうと言ったら、先に帰還記録をまとめたいと断られた。


 お前たちみたいなのは、第四にもいる』


 俺は笑った。


 記録を先に見たいと言うのは、俺より葉か朔だろう。


『待っていたら、結局、佐伯と三人で飲むことになった。


 悪くなかった。


 知らんやつと始めるのも、悪くないな』


 最後に、短い追伸があった。


『晴に伝えておけ。


 そのうち飯を食いに行く。カイにも、今度は腹を空かせて来いと言っておけ』


 俺はその部分をカイに見せた。


「覚えてる」


「何を」


「この人、飯くれた」


「もっとほかにあるだろ」


 カイは少し考えた。


「声が大きかった」


 俺は笑いながら、返信にそのまま書いた。


     *


 瀬名からの書簡には、最初、仕事の用件が書かれていた。


 旧南西中央同盟の幹部。


 以前、天衡との戦争を終わらせる席でも顔を合わせた相手だった。


 俺たちの味方だから何でも賛成する、という人ではなかった。


 天衡を残すことには反対しない。


 ただし、攻め込んだ先の足場まで残すのは別だ。


 あの席で、そう言った声を覚えている。


 今、瀬名は南東にいた。


 あの巨大同盟の内側だった。


 俺は同盟名を見て、手紙を机へ置き直した。


『ご所属が変わりましたので、今後の窓口を確認させてください。


 晴殿の同盟に関する話は、まず晴殿へお送りする形でよろしいでしょうか』


 俺はすぐに頷いた。


 それでいい。


 俺へ送れば全部が決まるという形には、戻したくなかった。


 続きを読む。


『こちらも、一つの同盟名になりました。


 ただ、内側まで一つになったかと言われると、返事は少し難しいところです』


     *


 瀬名の手紙には、南東の大連合の内側が、慎重な言葉で書かれていた。


 詳しい配置や兵数ではない。


 会議の様子だった。


『先日の砦攻略では、三つのまとまりから、それぞれ責任者が来ました。


 誰も全体の失敗を望んでいません。


 ただ、誰も自分の仲間だけを、長く待たせたくはない。


 そのため、皆が少しずつ正しいことを言い、出発が遅れました』


 俺は読みながら、机の端を指で押さえた。


 ありそうだと思った。


 人数が増えれば動ける。


 その人数が、同じ時刻に同じ方を向くまでには、別の仕事がある。


『先行した集団からは、こちらが道を作ったのだから最初に攻めたいという話が出ました。


 主力を出す集団からは、損失を負う側の判断を優先してほしいという返事がありました。


 後から加わった集団は、いずれの話にも口を挟めず、兵を待機させていました』


 瀬名は、誰かを悪く書いていなかった。


 だから、かえって、その場の疲れが伝わってきた。


『攻略そのものは成功しました。


 順位にも、取得した砦が一つ加わりました。


 外から見れば、順調だったと思います』


 そこで、一行空いていた。


『待っていた方々にも、そう思ってもらえているかは、まだ確かめているところです』


     *


 俺は手紙から顔を上げた。


 順位表を見た時、巨大な人数と、増えていく砦の数に圧倒された。


 強い。


 速い。


 こちらが迷っている間に進んでいる。


 それは今でも間違いではない。


 けれど、その数字の中で待たされている者の顔までは、見えなかった。


 瀬名の手紙は続いていた。


『それでも、集まった意味はあります。


 以前なら挑めなかった方々が、今回は兵を出せました。


 攻略後、自分の武将の成長を何度も見ている方がいました。誰かに話したかったらしく、近くにいた私へ説明してくださいました』


 俺は、少し笑った。


 その君主は、瀬名がどんな交渉をしてきた人なのか、知らなかったのかもしれない。


 あるいは、知っていても構わなかったのだろう。


『私も、新しい技能のことは教わっている最中ですので、助かりました。


 その方は、次も参加したいそうです。


 その言葉まで聞けると、今日の会議も無駄ではなかったと思えます』


 俺は読み終えたところで、しばらく手を止めた。


 瀬名は、以前と同じように大きな集団の中にいる。


 俺は、晴の同盟へ入った。


 別の道を選んだ。


 けれど、何を気にして働いているのかは、思っていたほど遠くなかった。


     *


 手紙の最後には、仕事ではない話があった。


『北西の猫の地図は、控えを残しています。


 新しく知り合った方に見せたところ、どうやって目の部分を空けたのかと聞かれました。


 以前、私も似たことを尋ねましたね』


 覚えている。


 猫の完成を祝う書簡に、目を埋めずに残すほうが難しそうだと書いてあった。


 あれを読んだ時、巨大な同盟にも、そんなところを見る人がいるのだと思った。


『こちらでは今、土地を余らせて絵を描こうという空気には、まだなりません。


 いずれ、そういう話もできればと思っています』


 最後の一文は、短かった。


『ご多忙とは思いますが、近況だけでもお聞かせください』


 俺は、返信の最初に晴の名を書いた。


 同盟の窓口について、正式な返事をする。


 それから、何を書こうか考えた。


 砦を取った。


 技能の育て方を教わっている。


 土地へ副将を置き始めた。


 そんな報告も、もちろんあった。


 けれど、最初に浮かんだのは、干し魚だった。


     *


『こちらは、少しずつ人数が増えています。


 巨嶽を頼って来る方もいますが、晴と話して、ここにいたくなったと言う方もいます。


 昨日は、新しく来た方が干し魚を持ってきました。盟主がそれを気に入ったので、加入の挨拶が途中から保存食の相談になりました』


 書きながら、俺は笑った。


 これを大同盟の幹部へ送るのかと思うと、少し迷った。


 それでも、消さなかった。


『砦の話もしています。


 ただ、それ以外の話がなくならないのは、今のところ、ありがたいです』


 湊の鍋。


 佐伯の魚の絵。


 巌が待った酒。


 瀬名へ技能を説明した、知らない君主。


 地図だけを見ていたら、どれも分からなかった。


 俺は筆を置き、届いた書簡を重ねた。


 以前なら、誰がどの同盟にいて、何を求めているかを先に整理していたと思う。


 今日は、読んだあとに、顔が残った。


     *


「いっぱい来てますね」


 晴が広間へ入ってきた時、俺はまだ返信を書いていた。


 今日は近くまで来た帰りに、城へ寄ると言っていた。


 カイが先に気づき、何を持ってきたのかと聞いた。


「魚じゃないですよ」


 晴が笑った。


「今日は果物です」


「それもいい」


 カイは受け取る気で椅子を引いた。


 晴は机の手紙を見て、少し遠慮するように足を止めた。


「仕事中でした?」


「いや。近況の返事」


「前の仲間ですか」


「ああ。それと、昔、話をした同盟の人たち」


「元気でした?」


 俺は、重ねた手紙を見た。


 失敗した話もあった。


 忙しい話も、少し疲れたような話もあった。


「元気みたいだよ。いろいろあるけど」


「よかった」


 晴はそれで、嬉しそうに笑った。


 誰がどれほどの兵を持っているのかも、どの巨大同盟の内側にいるのかも、先には聞かなかった。


 俺は椅子を勧めた。


     *


「巌さんが、そのうち飯を食いに来るって」


「いいですね。何が好きなんですか?」


「量は、あったほうがいいと思う」


 カイが頷いた。


「声が大きい人だから」


「食べる量と関係あるか?」


「ありそう」


 晴が笑った。


 俺は果物を切り分けながら、同盟の人数が増えていることを話した。


「このままだと、晴が一人ずつ返すの、大変になるぞ」


「そうですね」


「無理なら、誰かに頼んでいいからな」


 晴は頷いたあと、少し考えた。


「でも、最初に来てくれた時は、なるべく話したいです」


「全員と?」


「はい。何が好きなのか、分からないので」


 俺は包丁を止めた。


 何ができるか、ではなかった。


 何が好きか。


 晴は切り分けた果物を一つ取り、続けた。


「砦に行きたくて来た人に、釣りばっかり誘っても困るでしょう」


「それはそうだな」


「釣りに来た人へ、いつ出兵できますかって聞いても」


「困るだろうな」


 俺は笑った。


 晴も笑った。


     *


 その夜、返信を書き終えてから、湊の手紙をもう一度開いた。


 そちらへ戻りたいという話ではありません。


 あの一文が、最初に読んだ時とは少し違って見えた。


 別々になった。


 それぞれの場所で、仲間ができた。


 それでも、鍋が余った話を送る相手として、俺の名前を思い出してくれた。


 巌はもう、俺の盟主ではない。


 佐伯と、同じ同盟の窓口を分けることもない。


 瀬名へ、北西全体の返事をする立場でもない。


 宛名だけは、変わらなかった。


 俺は手紙をしまう場所を一つ空けた。


 地図や攻略の資料とは、少し離したところに置く。


 次に返事を書く時、すぐに取り出せるように。


 広間の外で、晴が誰かと話していた。


 新しく加入した者が、帰る前に挨拶へ来たらしい。


「名前、もう一回教えてもらってもいいですか」


 晴の声が聞こえた。


「読めるんですけど、呼び方を間違えたくなくて」


 相手が答える。


 晴が、その名を呼び直す。


 それから、二人で少し笑った。


 俺は書簡の束から手を離し、灯りを一つ、そのまま残した。

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