ランキング
第八十二話 順位の向こう側
ランキングが開いたのは、近隣との話し合いが一段落したころだった。
最初に気づいた者が、連絡の途中で言った。
『同盟順位、見られるようになっています』
俺は、書きかけていた返事を止めた。
どこかが砦を取ったのだろうか。
その程度の気持ちで、表示を開いた。
そして、しばらく、何も言えなくなった。
上位に並ぶ同盟の人数が、おかしかった。
いや、数字が間違っているわけではないのだろう。
ただ、昨日まで聞いていた話と、合わなかった。
北東。
南東。
それぞれに、周囲から頭一つどころではなく抜けた同盟がある。
その下にも、見覚えのない名前が続いていた。けれど上の二つだけは、人数の増え方が違った。
一度閉じ、もう一度開く。
増えていた。
「……もう?」
思わず口に出した。
まだ、始まったばかりだった。
*
玄から連絡が来た。
『見たか』
『見た』
『でかいな』
『でかすぎるだろ』
返した直後、律からも文が届いた。
『上位二つについて、少し分かりました』
俺は地図と順位を並べて開いた。
『もともと一つの同盟だったわけではありません』
『合併?』
『形としては、そうです。ただ、中は複数の中小同盟がまとまった連合に近いようです』
続けて送られてきた説明を読む。
以前の仲間同士で、一つのまとまりを残す。
それぞれのまとめ役も残す。
全員の細かい動きを、一人の盟主が見るわけではない。
近い砦を、近い集団が担当する。
別の集団は、別の砦へ向かう。
そのうえで、同じ旗を掲げる。
『全員を一つにする話し合い、もう終わったのか』
俺が聞くと、律は少し間を置いて返した。
『終わっていません』
『でも、同盟にはなってる』
『先に枠だけ合わせたんです』
俺は背もたれに体を預けた。
昨日、北西で届いていた誘いと同じだった。
まず、近隣で集まる。
北東と南東では、その集まり同士まで、先につないでいた。
*
『方針は、かなり単純です』
律が続けた。
『一度、取れる砦を取り切る』
俺はその文を読み返した。
『そのあとで分かれるのか』
『残るか、分かれるかも含めて、あとで考えるようです』
『揉めそうだな』
『揉めると思います』
律は否定しなかった。
『ただ、揉めている間に砦を他へ取られるより、取ったあとで話すほうがいい、という考えです』
隣に置いていた紙を見る。
昨夜、近隣の君主と話し合った内容が並んでいた。
砦を取ったあと、どうするのか。
誰が指揮をするのか。
普段、どれくらいの参加を求めるのか。
どれも必要な話だと思っていた。
今も、不要になったとは思わない。
けれど、向こうは答えが出るまで待っていなかった。
『中小のままだと、また外から見ているだけになる』
律が、先方の説明を伝えてきた。
『そう言っている方が多いそうです』
俺は画面から目を離した。
以前、取れなかった者たちがいる。
少人数で相談を続けているうちに、砦の周りを埋められた者たちがいる。
あの人たちは、今回、同じ順番では動かない。
*
順位が見えるようになってから、土地の動きはさらに速くなった。
少なくとも、俺にはそう見えた。
砦へ向かっていた道が、途中から二つに分かれる。
一つの砦へ隣接した同盟が、兵を集めながら、もう次の砦への足場を作っている。
掲示板には、募集が増えた。
近隣歓迎。
砦攻略参加者募集。
小規模同盟ごとの加入相談可。
以前なら、名前や方針を長く説明していたような募集にも、まず場所が書いてあった。
どの砦の周辺か。
どこまで道が届いているか。
あと何人いれば、攻略に入れるか。
加入する側も、同じものを見ている。
どんな同盟かを知る前に、地図で道を確かめる。
俺は、北東の巨大同盟をもう一度開いた。
人数の多さが目についたのは、最初だけだった。
今は、その人数が、それぞれ別の場所で動けることのほうが気になった。
*
最初の攻略報告が届いたとき、俺は日程を読み違えたのだと思った。
「もう終わったのか?」
周が、表示を確認する。
「攻略完了の報告です」
「準備完了じゃなくて?」
「はい」
砦の所有者が変わっていた。
道をつないだ。
兵を送った。
落とした。
言葉にすれば、それだけのことだった。
しかし、その間隔が、俺の感覚よりずっと短い。
俺は戦闘の記録を追った。
見慣れない武将の名があった。
その名だけでは分からなかったが、率いていた君主の出身は確認できた。
旧第四世界。
別の砦も確かめる。
そちらの主力も、第四世界の君主だった。
*
『武将が強いです』
朔から届いた文は、いつもより短かった。
『比較できる範囲ですが、こちらが考えていた以上に』
『どれくらい違う』
岳が聞く。
『同じ土地へ出す前提でも、こちらほど兵を積まなくて済んでいる例があります。移動も速いです』
俺は、自分の部隊の所要時間を見た。
土地を取る。
戻す。
次へ出す。
一度の差なら、まだ追いつけるかもしれない。
それが、道を伸ばすたびに積み重なっていた。
俺たちが一つ先の準備をしている間に、向こうはもう、次の土地を見ている。
『第四は、小さい同盟が多かったんだよな』
玄が書いた。
『はい』
律が答える。
『だから、弱いと思ってたわけじゃないけど』
そこで文が途切れた。
俺も同じだった。
大きな同盟を作っていなかった。
大城で苦労していた。
その話から、いつの間にか、自分たちのほうが戦えるような気になっていた。
『人数をまとめることと、一人ずつが強いことは別です』
律の文が続く。
『私たちは、前者についての話を多く聞いていました』
朔が補足した。
『その人たちが、今はまとまっています』
誰も、すぐには返さなかった。
*
もちろん、第四世界の君主全員が強いわけではない。
土地を取らずにいる城もある。
周囲の動きに関心を示さない者もいる。
第三世界の側にも、早くから道をつないでいる同盟はあった。
それでも、最初に目につく攻略報告には、第四世界の名が続いた。
速い武将が、道を開く。
強い武将が、損失を抑えて土地を抜く。
開いた道を使って、同盟の兵が砦へ向かう。
第三世界の君主が混じっていても、先端に立っているのは第四世界の者であることが多かった。
地図の上で、俺たちは出遅れていた。
それを認めるまでに、思っていたより時間がかかった。
*
近隣の同盟について、返事をしなければならなかった。
俺は昨夜の相手へ連絡した。
『参加する方向で相談させてくださいとお伝えした件ですが、もう一度、お話ししてもいいでしょうか』
返事は早かった。
『こちらからも、ご相談がありました』
嫌な予感がした。
続く文を待つ。
『もう少し広い範囲で、まとまる話が来ています』
俺は地図を開いた。
昨夜、名前を書き留めた城の、そのさらに向こう。
砦へ道をつないでいた同盟からだった。
俺たちが近隣で組もうとしていた範囲を、まとめて受け入れたいらしい。
『人数がいたほうが、次の砦にも向かえますので』
相手はそう書いた。
昨日までなら、心強い誘いだと思ったかもしれない。
今は、その先まで見えてしまった。
次の砦へ向かう。
その近くの者が入る。
さらに次へ向かうために、また人数を増やす。
それが悪いわけではない。
ただ、自分がどこへ入ろうとしているのか、また分からなくなっていた。
『少し、待っていただけますか』
俺はそう返した。
『分かりました。ただ、こちらは先に話を進めます』
『はい。それはもちろん』
その返事を送ってから、俺はしばらく机を見ていた。
待ってもらえないことに、腹が立ったわけではない。
自分が迷っている間にも、相手は決めなければならない。
それが、ようやく身に染みただけだった。
*
七人の進路が決まったのは、その日の夜だった。
きっかけは、玄だった。
『俺、作った』
短い文と、新しい同盟の情報が届いた。
『早いね』
杏が返す。
『これ以上待っても、近所が全部どっか入る』
『何人?』
『まだ少ない。でも話はついてる』
俺は玄の城の周囲を見た。
近くの城が、いくつか同じ旗に変わっている。
あそこから始めるのだと思った。
前なら、その中に自分の城があるのが当たり前だった。
今は、少し遠い地図を見ている。
『おめでとう』
そう送ると、玄からすぐに返事が来た。
『まだ何もしてないぞ』
『作っただろ』
『まあな』
その、まあな、に、いつもの玄の顔が浮かんだ。
*
朔も、自分で同盟を立ち上げた。
近い城の君主たちと、土地や資源の分担を相談しているという。
『無理に広く取るより、まず回る形にしたいです』
朔らしい言い方だった。
律も、予定していた者たちと近隣の君主を合わせ、新しい同盟を作った。
『連絡の窓口を先に決めました。砦については、これからです』
『砦より先に窓口か』
玄が笑うように書く。
『連絡が通らないまま道を伸ばすほうが怖いので』
『それはそう』
三人が、それぞれの場所で旗を立てた。
同じ北西にいる。
けれど、別の同盟になった。
俺は新しい同盟名を、一つずつ登録した。
手順は簡単だった。
数回、表示を切り替えるだけで終わった。
それなのに、終わったあと、しばらく次の操作ができなかった。
*
『俺は、晴のところへ行こうと思う』
ようやく、そう書いた。
少し間が空いた。
玄から最初に返事が来る。
『近所の話は?』
『断る。まだ加入はしてない』
『そっか』
それから、もう一行。
『晴なら、いいんじゃないか』
簡単に言ってくれたことが、ありがたかった。
葉が聞いた。
『何か決め手があった?』
俺は返事を考えた。
巨嶽がいる。
晴自身も強い。
今、第四世界の武将が速さと強さで先へ出ていることを考えれば、それは大きい。
けれど、それだけなら、近隣の大きな集団へ入る選択もあった。
『砦を取ったあとのことを、少し想像できた』
俺はそう書いた。
『あいつ、釣りもするって先に言ってたから』
玄が笑った。
『大事な条件だな』
『今は、結構大事だと思ってる』
少しして、葉から返事が来た。
『私も、そっちに入りたいです』
俺は文を読み返した。
続いて、杏。
『じゃあ、私も晴に聞いてみる』
岳からも届く。
『俺も行く。場所は離れるが、動き方は考えられる』
俺は急いで書いた。
『俺に合わせなくていいぞ』
杏が返した。
『合わせるだけなら、最初からそう言ってるよ』
葉も続ける。
『また全員分の記録を持つつもりはありません。そこは、先に言っておきたいです』
岳の返事は短かった。
『自分で決めた』
俺は椅子に深く座り直した。
断られる心配ばかりしていたのに、一緒に行くと言われると、それはそれで言葉が出なかった。
*
晴へ伝えると、すぐに返事が来た。
『四人ともですか!』
『それぞれ、直接連絡すると思う』
『うれしいです。よろしくお願いします!』
続けて、同盟への案内が届いた。
俺はその表示を開いたまま、少し迷ってから尋ねた。
『俺は、盟主の仕事を引き受けるつもりではないけど、大丈夫か』
書く必要があると思った。
入ってから、言えなくなる気がした。
晴の返事は、いつもと変わらなかった。
『はい。盟主は私がやります』
そのあとに、もう一文。
『分からないことは聞くので、その時は教えてください』
俺は笑った。
『それなら』
『でも、砦は行きたいです』
『知ってる』
『釣りもです』
『それも知ってる』
加入の表示へ、手を伸ばした。
*
北西の猫の七人は、四つの同盟に分かれた。
玄。
朔。
律。
三人は、それぞれ自分の旗を持った。
俺と、葉と、杏と、岳は、晴の旗の下へ入った。
地図の位置は変わらない。
離れた城が、急に近づくわけでもない。
それでも、名前の横についた同盟の表示が変わると、朝とは違う気持ちで周りを見られた。
どこへ入るかを考える時間は、終わった。
次は、ここからどう動くかだった。
*
順位を開く。
北東と南東の巨大同盟は、さらに人数を増やしていた。
砦の取得数にも、数字が並び始めている。
その下で、いくつもの同盟が順位を入れ替えていた。
晴の同盟も、そこにあった。
小さい。
上の二つと比べれば、驚くほど小さかった。
『最初の砦、どこにしましょう』
晴から、同盟全体への連絡が届いた。
俺はすぐには答えず、加入者の位置を開いた。
知っている名と、知らない名が混じっている。
第三世界の者も、第四世界の者もいる。
巨嶽の強さだけで決めてはいけない。
誰がどこへ届き、誰の土地枠が空いていて、戻ってきた兵を次にどこへ出すのか。
以前より速い相手を前に、以前と同じ時間をかけてはいられない。
『候補を出そう。今、道が届いている場所も教えてほしい』
送ると、すぐに何人かが返した。
葉が位置をまとめ始める。
岳が、遠回りになる道を指摘する。
杏が、近隣との連絡を引き受ける。
俺はそれを見て、口を開きかけた。
また、いつものように全部を決めそうになった。
その前に、晴の文が入った。
『ありがとうございます。じゃあ、この三つを比べたいです』
俺は、書きかけていた文を消した。
代わりに、一つ目の砦へ向かう道を確かめた。
地図の向こうでは、また別の旗が砦の隣へ届いていた。
俺たちも、動き始めなければならなかった。




