予測
第七十九話 統合前夜
第三世界、最後の夜。
窓を開けると、風が少し冷たかった。
季節が変わったわけではない。
明日には、この場所そのものがなくなる。
そう思っているから、いつもの夜より静かに感じるだけなのかもしれなかった。
城壁の向こうには、まだ灯りがある。
兵舎にも。
工房にも。
城下の家々にも。
明日、地図が変わるからといって、今日の生活が止まるわけではない。
誰かが食事を作っている。
誰かが片付けをしている。
兵士たちは装備を外し。
明日のことなんて知らない子どもたちは、まだ道を走っている。
その向こう。
さらに遠く。
地図を開けば。
第三世界のあちこちに。
盃があった。
*
北西の猫が作った盃は。
玲山城から少し離れた場所にある。
上から見れば。
なんとか。
盃には見える。
少し右側が太い。
玄が途中で一マス間違えたからだった。
本人は。
「こっちの方が味がある」
と言い張っていた。
南側には。
とんでもなく大きな盃を作った同盟もあった。
完成するまで。
何人もの土地を一度放棄したらしい。
東には。
三マスだけで作った小さな盃もある。
それでも。
掲示板に画像が上がると。
『ちゃんと盃に見える』
と。
何人も反応を付けていた。
大きさは関係ない。
最後に。
第三世界にいたという。
それだけの印だった。
*
「まだ見てたんですか」
後ろから。
律の声がした。
振り返る。
広間の入口に。
律が立っていた。
腕に。
何枚かの紙を抱えている。
「もう終わったと思ってた」
俺が言う。
「私もです」
「じゃあ、その紙は?」
「最後に整理しておこうと思いまして」
嫌な予感がした。
「明日じゃ駄目?」
「明日には新世界です」
「じゃあ明後日」
「その頃には状況が変わっています」
「……会議?」
「会議というより」
律が。
一度。
言葉を止める。
「確認です」
最近。
その言葉を。
信用しなくなった。
*
結局。
七人が。
もう一度。
集まった。
玄は。
椅子へ座るなり。
「何分?」
と聞いた。
「分かりません」
律が答える。
「それが一番嫌なんだよ」
「帰ってもいいですよ」
「それはそれで気になる」
「じゃあいてください」
「はい」
杏が笑った。
葉は。
何も言わず。
机の端に。
紙と筆を置いた。
岳は。
壁際から。
地図を一枚取ってくる。
朔は。
すでに律が持ってきた資料を。
横から読んでいた。
七人が。
自然に。
いつもの位置へ座る。
誰も。
席を決めたことなんてない。
でも。
気が付けば。
毎回。
だいたい同じだった。
それも。
明日から。
変わるのかもしれない。
*
「では」
律が。
机の真ん中へ。
三枚の紙を置いた。
一枚目。
【確定していること】
二枚目。
【第三世界・統合後予測】
三枚目。
【第四世界・統合後予測】
玄が。
三枚目を覗き込む。
「予測ってことは、外れる?」
「外れます」
「言い切るんだ」
「全部当たる方がおかしいです」
律は。
当たり前のように答えた。
「じゃあ何のためにやるんだ?」
岳が聞く。
律は。
少しだけ考えた。
「今、私たちが何を根拠に判断しているかを残すためです」
葉が。
筆を止める。
「外れた時に、何が違ったのか分かる」
「そうです」
律が頷く。
なるほど。
そういうことなら。
意味はある。
*
「第一と第二は?」
玄が聞いた。
一瞬。
空気が。
少しだけ。
変わった。
世界間掲示板が切られてから。
第一世界と。
第二世界の情報は。
ほとんど入らなくなった。
最後に見たのは。
戦争。
合併。
天下統一を。
それぞれ違う方法で。
目指し始めたところだった。
「今は材料不足です」
律が答える。
「統合後にどうなっているかは、分かりません」
「第一が勝ってるかな」
玄が。
少し楽しそうに言う。
「可能性はあります」
「第二かもしれない?」
「あります」
「どっちだと思う?」
「予測したくありません」
「なんで?」
「当てるための材料がないので」
「律って、賭け事弱そう」
「しません」
杏が。
また笑った。
*
「まず」
律が。
一枚目を。
手前へ引いた。
「確定していることからです」
葉が。
その横へ。
まっさらな紙を置く。
上に。
【統合後ルール】
と書いた。
*
「一つ目」
律が言う。
「現在の土地は、統合時に消えます」
それは。
もう。
何度も聞いた。
でも。
実際に。
地図を見ると。
少し違う。
俺は。
手元の地図を。
ゆっくり広げた。
城から。
細く伸びた道。
石材の土地。
木材。
鉄。
穀物。
遠くまで。
無理をして取りに行った高レベル資源地。
誰かと。
取り合いになった土地。
譲ってもらった場所。
譲った場所。
昔。
玄と揉めた石材地も。
まだ。
地図の端にあった。
「これ」
俺が。
その場所を指す。
「明日にはないんだな」
「ありません」
律が答える。
玄も。
同じ場所を見る。
「最初これで喧嘩したな」
「喧嘩まではしてない」
「かなり険悪だったぞ」
「玄が先に取ったからだろ」
「先に着いたんだから俺のだろ」
「今言う?」
「最後だから」
笑いながら。
そんなことを言えるくらいには。
昔になっていた。
*
「土地そのものは消えます」
律が続ける。
「ただし、取得に使用している値は維持されます」
玄が。
顔をしかめた。
「それ」
「はい」
「何回聞いても気持ち悪い」
「私も、分かりやすい仕様だとは思っていません」
朔が。
紙の上に。
簡単な図を描いた。
四角。
その横に。
数字。
「例えば」
朔が言う。
「今、十個の土地を持っているとします」
「うん」
「統合すると、土地自体は消えます」
四角を。
全部。
線で消す。
「でも、取得済み十という値だけ残ります」
数字は。
消さない。
「だから、新しい世界へ行っても」
朔は。
新しい四角を描こうとして。
止める。
「このままでは、新しい土地を取れません」
「土地ないのに?」
「ないのにです」
杏が。
少し笑う。
「変だね」
「変ですが、そういうものです」
*
「じゃあ」
岳が聞く。
「新しい土地を取るには?」
「旧世界分を放棄します」
律が答える。
「一つ放棄すれば?」
「一つ分空きます」
「二つなら?」
「二つ」
「全部なら?」
「全部です」
玄が。
少しだけ。
考え込む。
「最初に全部捨てる必要はない?」
朔が。
すぐ答えた。
「ありません」
「じゃあ」
玄が。
地図を見ながら言う。
「新世界入って、近くに良い土地なかったら」
「保留できます」
「見つけた分だけ捨てる」
「それが一番無難だと思います」
「なるほど」
玄が。
珍しく。
真面目に頷いた。
*
俺は。
明日のことを。
少し想像した。
何もない地図。
初めて見る川。
山。
資源地。
知らない城。
そこへ。
昔の土地の。
数字だけを背負って。
入っていく。
なんだか。
荷物だけ持って。
家をなくすみたいだった。
*
「二つ目」
律が。
紙の別の場所を指す。
「砦です」
今度は。
全員が。
少し静かになった。
ここは。
今までの話より。
統合直後の動きに。
直接。
関わる。
*
「旧世界で得た砦ボーナスは」
律が言う。
「全部消えます」
岳が。
短く。
「全部か」
と確認する。
「全部です」
「北西の猫の分も?」
「もちろん」
「かなり減るな」
朔が。
自分の紙を見る。
北西の猫は。
これまで。
複数の砦を。
持っていた。
その分。
土地を取れる余裕も。
増えていた。
それが。
明日。
一度。
消える。
*
「新世界では」
律が続ける。
「砦を取得するごとに、土地取得枠が一つ増えます」
玄が。
椅子から。
少し身を起こした。
「一つ?」
「一つです」
「少なくない?」
杏が聞く。
朔が。
首を横に振る。
「全員が一つを必要とするなら、十分大きいです」
全員。
同じ条件で。
砦ボーナスを。
失う。
一つ取る。
一つ増える。
ただ。
それだけ。
でも。
その一つで。
高級資源地へ。
手が届くかもしれない。
城への道を。
一本伸ばせるかもしれない。
相手より。
一歩。
先に行けるかもしれない。
*
岳が。
地図の空白へ。
指を置く。
「最初に揉めるのは、砦だな」
律は。
ほとんど間を置かず。
「はい」
と答えた。
「第三と第四で?」
俺が聞く。
「それもあります」
「第三同士も?」
「あります」
「第四同士も?」
「当然あります」
玄が。
少し笑った。
「結局全部じゃん」
「そうなります」
*
昨日まで。
世界全体で。
盃を作っていた。
今日。
乾杯した。
明日。
砦で揉めるかもしれない。
人間って。
そんなものなのかもしれない。
*
「三つ目」
律が。
新しい紙を。
机へ置いた。
四つの文字。
北西。
北東。
南西。
南東。
「移動先です」
*
新世界では。
まず。
方面を選ぶ。
どこへ行くかは。
同盟ではなく。
君主個人が決める。
「北西の猫全員が北西に行かなきゃいけないわけじゃない」
葉が確認する。
「はい」
「玄だけ南東でも?」
「できます」
玄が。
嫌そうな顔をする。
「なんで俺だけ飛ばすんだよ」
「例」
「もっと他にいるだろ」
杏が笑う。
*
「ただ」
律が続ける。
「同盟で動くなら、当然近い方がいいです」
「そりゃそうだ」
岳が言う。
「兵を送り合うのも、城を取るのも」
「遠ければ時間が掛かります」
「じゃあ」
俺が聞く。
「方面は合わせる。でも」
「その中の位置までは選べません」
そこが。
問題だった。
*
統合後。
移動には。
猶予時間がある。
すぐ。
行かなければ。
消えるわけではない。
ただし。
配置は。
早く処理した者から。
決まっていく。
「つまり」
玄が言う。
「北西って押した順?」
「正確には移動処理が終わった順です」
「ほぼ早押し」
「まあ」
律が。
少しだけ。
諦めたように。
「ほぼそうです」
*
「同じ北西でも」
葉が言う。
「先に入った人の周りが埋まる」
「はい」
「遅い人は」
「空いている位置へ」
「じゃあ」
杏が。
地図を見ながら言う。
「知ってる人の近くに行きたいなら、できるだけ同じ時間に入った方がいい」
「そうなります」
「でも全員は無理だね」
「はい」
仕事。
用事。
寝ている者。
通知に気付かない者。
いろいろいる。
何百人。
全員が。
同じ瞬間に。
入れるわけではない。
*
俺は。
少し。
頭を抱えた。
「これまた話し合うんだよね」
「統合後すぐに」
律が答える。
「どこに落ちた」
「はい」
「誰が近い」
「はい」
「砦どこ」
「はい」
「土地どうする」
「はい」
「会議」
「はい」
「……」
玄が。
俺を見る。
「顔死んでるぞ」
「もう会議したくない」
「新世界最初の仕事だな」
「嫌なこと言うな」
*
律は。
少し笑って。
最後の項目へ移った。
「城所有報酬」
玲山城。
南の大城。
東の大城。
中央。
世界各地。
最後まで。
本気で。
守り。
奪い合った城。
その。
最終所有権が。
確定した。
*
「報酬は持ち越し」
玄が。
嬉しそうに言う。
「はい」
「札も?」
「もちろん」
「よし」
「何枚でした?」
葉が聞く。
「言いたくない」
「なんで?」
「使うまで秘密」
「みんな大体分かるよ」
「じゃあ聞くなよ」
*
札。
資源。
その他の報酬。
それらは。
明日。
新世界へ。
持っていく。
玲山城を。
最後まで。
守った意味は。
ちゃんと。
残る。
「これで」
律が。
一枚目を。
机の端へ置いた。
「確定しているルールは、主なところを全部確認しました」
玄が。
すぐ。
「次」
と言う。
「まだ元気ですね」
「ここから予想だろ?」
「はい」
「そっちの方が面白い」
*
二枚目。
【第三世界・統合後予測】
律は。
それを。
ゆっくり。
開いた。
「最初に」
少し。
間を置く。
「第三世界は、今より同盟が増えると思います」
*
「統合するのに?」
杏が聞く。
「はい」
「普通、減らない?」
「普通がどうかは分かりません。ただ」
律が。
こちらを見る。
「北西の猫だけで、どうなりそうですか」
みんな。
少し黙った。
*
玄。
自分で。
同盟を作る。
朔も。
小さく。
始めるつもりでいる。
律も。
近くの者と。
自分の同盟を。
考えている。
巌。
以前なら。
自分から前へ出るようには。
見えなかった。
今は。
やる気を出している。
晴。
強い同盟を。
作りたいわけではない。
ただ。
自分で。
何もないところから。
始めたい。
俺。
葉。
杏。
岳。
今すぐ。
盟主になるつもりはない。
しばらく。
誰かを支えるのか。
何も決めずに。
自分の城を見るのか。
まだ。
分からない。
*
「一つが」
俺が言う。
「六つくらいになる」
「そうです」
律が頷く。
「北西の猫だけで」
*
他の地域でも。
似た話が。
出ていた。
今の名前を。
そのまま残す同盟。
でも。
人数は。
半分になる。
副盟主が。
自分で作る。
攻城が好きな者だけ。
別れる。
内政を。
ゆっくりやりたい者が。
集まる。
何にも。
入らない。
そんな話。
*
「なんでだろうな」
岳が。
低い声で言った。
律は。
少し考えて。
答える。
「第三世界の大同盟は」
「うん」
「必要に迫られて、大きくなったところが多いからだと思います」
*
敵が。
いた。
大きな同盟が。
迫ってきた。
自分たちだけでは。
守れない。
だから。
合併した。
人数を。
増やした。
役割を。
作った。
外交を。
始めた。
攻城。
防衛。
巡回。
連絡。
参加確認。
報告。
誰かが。
やらなければならないことが。
増えた。
*
「大きくなりたくて、大きくなったわけじゃない」
葉が。
小さく言った。
「全部がそうとは言いません」
律が答える。
「でも、少なくとも北西はそうでした」
俺は。
何も言わなかった。
本当に。
そうだった。
七人。
それで。
よかった。
でも。
敵が来た。
仲間を。
守るため。
人を。
増やした。
増えれば。
また。
守るものが増えた。
*
「じゃあ」
杏が言う。
「戦う理由が一度なくなったら」
「小さく戻りたい人が出ます」
律が言う。
「自分が見られる人数に」
「それが」
俺は。
少し笑う。
「今の俺たちか」
「そうですね」
*
そして。
第三世界では。
もう一つ。
増えるだろうと。
律は考えていた。
「土地をあまり取らない人です」
玄が。
すぐ反応する。
「何するんだ?」
「玄は、その質問しますよね」
「土地取るゲームだろ?」
「それだけではないでしょう」
*
武将。
内政。
畑。
交易。
交流。
景色。
釣り。
収集。
何か一つ。
それだけを。
やる。
あるいは。
数日に一度。
城を見るだけ。
*
「晴みたいな?」
俺が聞く。
律は。
首を少し傾ける。
「晴さんは、意外とかなり活動しています」
「ああ」
「城も育てるし、出掛けるし、戦えば強い」
「確かに」
「もっと」
律は。
言葉を選ぶ。
「世界の競争から離れる人です」
*
領地。
ランキング。
城。
砦。
そこに。
積極的には。
入らない。
「一割くらい?」
杏が聞く。
「可能性はあると思います」
「多いな」
岳が言う。
「統合は」
律が続ける。
「やる気が戻るきっかけにもなります。でも」
「辞めるきっかけにもなる」
葉が言った。
「はい」
*
新しい世界。
全部。
やり直し。
それを。
楽しみだと思う者。
面倒だと思う者。
両方。
いる。
*
「第三世界は」
律が。
まとめる。
「大同盟中心から」
紙の中央へ。
小さな丸を。
いくつも描いた。
「中小同盟が多数存在する形へ変わると思います」
それぞれの丸を。
線で。
ゆるく結ぶ。
「必要な時だけ」
「集まる?」
俺が聞く。
「はい」
大城。
近くの砦。
外敵。
何か。
大きなことがあった時だけ。
「正式に一つにならない」
「多分」
「でも話せる」
「そこが残れば」
律が言う。
「第三世界の強みになると思います」
*
玄が。
図を見る。
「玲山城みたいな?」
最後。
中小同盟は。
自由に。
攻めた。
北西の猫は。
本気で。
守った。
所有権が確定したら。
皆で。
お疲れ様会をした。
「それを」
律が言う。
「もっと大きい範囲でできるなら」
少し。
笑う。
「第三世界らしいかもしれません」
*
三枚目。
【第四世界・統合後予測】
律は。
少しだけ。
長く。
黙った。
*
「第四世界は」
やがて。
話し始める。
「第三と逆に動くと思います」
「逆?」
玄が聞く。
「第三は小さくなる」
「うん」
「第四は少し大きくなる」
*
第四世界には。
大きな同盟が。
ほとんどなかった。
五人。
十人。
二十人。
その程度の。
小さい同盟が。
世界中に。
散っていた。
それでも。
普通に。
遊べた。
*
理由の一つ。
土地。
資源地。
第三世界とは。
条件が。
少し違った。
狭い範囲でも。
必要な資源を。
確保しやすい。
遠くまで。
土地を伸ばさなくても。
成立する。
「だから」
朔が言う。
「わざわざ大きくなる必要がなかった」
「そうです」
*
でも。
問題もあった。
大城。
*
一つの同盟では。
人数が。
足りない。
複数の同盟で。
集まる。
ただ。
誰が。
全体を見る。
何時に。
行く。
誰が。
先。
誰が。
後。
そこで。
何度も。
止まった。
*
「最初に第四から相談来た時」
俺が言う。
「雰囲気悪いって言ってたよな」
「はい」
律が答える。
失敗。
誰のせい。
次。
誰が指揮。
参加しなかった者。
そんな話で。
揉めていた。
*
第三世界から。
大城攻略の。
やり方を。
いくつか伝えた。
人数。
時間。
役割。
失敗しても。
責めすぎない。
そんな。
当たり前になっていたもの。
「第四は」
律が言う。
「その辺りをかなり取り入れ始めています」
「じゃあ」
杏が聞く。
「合併する?」
「一部は」
*
五人と。
十人。
合わせて。
十五人。
十人。
十五人。
二十人。
それを。
一つ。
二つ。
まとめる。
「二十から五十くらい」
律が言う。
「その規模は、かなり増えると思います」
「百人とかは?」
「少ないと思います」
「なんで?」
玄が聞く。
「第四世界では」
律が。
少し考える。
「大きくなりすぎる必要性を、まだ経験していないからです」
*
大同盟。
それは。
強い。
でも。
連絡も。
増える。
役割も。
増える。
指揮も。
必要。
誰かが。
負担する。
第四世界の者は。
そこまで。
大きな集団に。
慣れていない。
*
「でも」
岳が言う。
「少人数だけじゃ、大城でまた同じことになる」
「だから」
律が頷く。
「少しだけ、まとまる」
*
第三は。
大きすぎたものを。
ほどく。
第四は。
小さすぎたものを。
少し。
繋ぐ。
*
「真ん中くらいになるな」
玄が言った。
「私も」
律が答える。
「そう予想しています」
*
ただ。
第三。
第四。
その区切りも。
統合後。
ずっと。
残るとは。
限らない。
*
「これ」
律が。
第四世界の名簿を。
出した。
「すでに何人か」
「何?」
「第三世界の同盟へ、統合後の加入について問い合わせています」
「もう?」
俺が聞く。
「はい」
玄。
朔。
律。
そして。
晴。
それぞれ。
第四世界から。
声が。
掛かっている。
*
「晴のところにも?」
「あります」
「何て?」
「釣りをするのか、聞かれたそうです」
俺は。
笑った。
「そこ?」
「本人の募集方針からすると重要なのでは」
「まあ」
*
律が。
四方面の図を。
また。
机へ出した。
「統合後」
同じ北西へ。
第三。
第四。
両方が。
入ってくる。
隣が。
誰になるかは。
分からない。
*
第三世界だった。
第四世界だった。
そんなことより。
隣に。
いる。
その方が。
重要になる。
「砦一緒に取る」
杏が言う。
「はい」
「大城一緒に行く」
「はい」
「土地で揉める」
「それも」
「話す」
「そうです」
*
「一か月もしたら」
律が。
少し笑う。
「第三だった、第四だったと毎回言わなくなると思います」
「そんな早い?」
俺が聞く。
「近くにいる人の名前を覚える方が先です」
それは。
確かに。
そうかもしれなかった。
*
少し。
静かになった。
外から。
風が。
入る。
机の紙が。
一枚。
少し浮いた。
葉が。
手で押さえる。
*
「でも」
律が言った。
その一言だけで。
全員が。
また。
顔を上げる。
「統合直後は、かなり揉めると思います」
岳が。
「砦」
と。
すぐ言う。
「はい」
*
第三も。
第四も。
砦ボーナス。
ゼロ。
全員。
欲しい。
全員。
土地枠。
足りない。
*
新世界へ。
早く入った。
近くに。
砦があった。
土地を。
伸ばした。
あと少しで。
届く。
その時。
反対側から。
別の道が。
伸びてくる。
*
「そこ、うち狙ってました」
俺が言う。
「多分、それが何十件も来ます」
律が答えた。
「早い者勝ちじゃ駄目?」
玄が聞く。
「そう考える人もいます」
「話し合い?」
「そう考える人もいます」
「譲る?」
「譲らない人もいます」
「結局」
玄が笑う。
「揉める」
「はい」
*
第三世界は。
比較的。
温厚だった。
でも。
全員。
何でも。
譲るわけではない。
第四世界も。
小さな同盟が多い。
でも。
仲良しだけで。
生きてきたわけではない。
*
「多分」
律が言う。
「最初の一週間が、一番大変です」
俺は。
机へ。
ゆっくり。
突っ伏した。
「もう嫌だ」
「何が?」
玄が聞く。
「会議」
「まだ始まってないぞ」
「明日からまたいっぱいあるんだろ」
「あります」
律が。
普通に答えた。
「言わなくていい」
*
葉が。
三枚の紙を。
まとめた。
そして。
最後に。
一番下へ。
もう一枚。
白い紙を。
追加した。
「これは?」
俺が聞く。
葉が。
上に。
文字を書く。
【統合後・実際】
誰も。
しばらく。
何も言わなかった。
*
「予測の答え合わせ?」
杏が聞く。
「うん」
「外れたら?」
「それも書く」
「全部外れたら?」
「いっぱい書ける」
葉が。
少し笑った。
*
律も。
その白い紙を。
見ている。
「第四が」
ぽつりと。
言った。
「統合した瞬間、巨大同盟を作るかもしれません」
玄が。
「それは面白い」
と言う。
「第三が」
律は続ける。
「思ったより全然分裂しないかもしれません」
「北西はもう分裂しかけてるぞ」
「他です」
「なるほど」
「砦も」
「うん」
「意外と話し合いだけで終わるかもしれません」
玄が。
即座に。
「それはない」
「私も可能性は低いと思っています」
「そこは思うんだ」
*
少し。
笑いが起きた。
最後の夜。
未来の話をしている。
でも。
不思議と。
少し前より。
怖くなかった。
*
北西の猫は。
なくなるかもしれない。
七人も。
別々になる。
第三世界も。
明日には。
名前を失う。
でも。
誰かが。
どこかへ。
消えるわけではない。
*
玄は。
多分。
戦う。
朔は。
また。
数字を見る。
律は。
知らない同盟へ。
挨拶に行く。
巌も。
自分の旗を。
立てる。
晴は。
たぶん。
魚を探す。
俺たちは。
それぞれ。
次を。
始める。
*
その時。
広間の扉が。
開いた。
カイだった。
「まだやってたの?」
「今終わる」
「何の話?」
「明日からどうなるか」
「分かった?」
俺は。
机の紙を見る。
確定。
第三世界予測。
第四世界予測。
最後に。
何も書かれていない白紙。
「分からない」
「じゃあ」
カイが言った。
「明日見ればいいじゃん」
*
玄が。
ゆっくり。
机に。
額を付けた。
「今までの時間返せ」
「何?」
「何でもない」
*
俺も。
少し笑った。
カイの言うことは。
いつも。
簡単だ。
でも。
今回は。
その通りだった。
明日になれば。
少なくとも。
一つ目の答えは。
出る。
*
みんなが。
広間を出たあと。
俺は。
一人。
窓際へ戻った。
第三世界の。
最後の地図を開く。
玲山城。
北西の猫。
玄の城。
朔。
律。
岳。
杏。
葉。
晴。
今まで。
何度も見た。
位置。
*
その全部が。
明日。
変わる。
*
地図を。
少し。
引く。
盃が見える。
北西だけではない。
東。
南。
中央。
世界の。
あちこち。
*
第三世界。
大きくなった。
戦った。
話し合った。
揉めた。
助けた。
疲れた。
最後には。
みんなで。
盃を作った。
*
明日。
第四世界と。
一つになる。
第三は。
小さくなるのか。
第四は。
大きくなるのか。
それとも。
律の予測なんて。
全部。
外れるのか。
*
俺は。
北西の端を見る。
統合後も。
北西へ行く。
それだけは。
もう。
ほとんど決めていた。
理由を聞かれると。
困る。
資源が。
特別いいわけではない。
中央から。
近いわけでもない。
戦略的に。
最善だとも。
限らない。
*
でも。
最初に。
七人で。
集まった場所だった。
なら。
新しい世界も。
そこから。
始めてみたい。
*
画面の端。
数字が。
静かに。
変わった。
【第三世界・第四世界統合まで】
【あと 八時間】
俺は。
それを。
しばらく見た。
*
八時間。
寝れば。
すぐだった。
*
窓を閉める。
灯りを。
少し落とす。
机の上には。
葉が残した。
白い紙がある。
【統合後・実際】
その下には。
まだ。
何も。
書かれていない。
*
明日。
そこから。
始まる。




