↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
79/200

交わす盃

第七十八話 盃


 玲山城の所有権が確定したのは。


 統合前日の昼だった。


【玲山城 最終所有同盟 北西の猫】


 表示を見たとき。


 最初に声を上げたのは。


 玄だった。


「よし!」


 そのあと。


 少し遅れて。


 杏が笑った。


「本当に最後まで守ったね」


 葉は。


 すでに記録をまとめ始めている。


 朔は。


 報酬一覧を開いていた。


「札、かなり来ますね」


「そこ?」


「大事です」


 岳は。


 玲山城の周辺を見ながら。


「もう攻めてくるのはないな」


 と小さく言った。


 律は。


 届いていた最後の連絡を閉じる。


「攻めていた同盟からも、確認が来ています。これで終わりです」


 俺は。


 玲山城の表示を見たまま。


 少しだけ息を吐いた。


「終わったな」


     *


 最後まで。


 来るところは来た。


 守るところは守った。


 玲山城だけじゃない。


 第三世界の各地で。


 大城の最終所有を巡る戦いが続いていた。


 でも。


 その全部が。


 もう終わった。


 これ以上。


 取っても。


 取られても。


 統合まで。


 もう時間が足りない。


 世界全体で。


 一斉に。


 肩の力が抜けたような空気があった。


     *


 北西の猫の掲示板に。


 玄が書き込む。


『お疲れ様会しよう』


 それを見て。


 杏がすぐ返した。


『急だね』


『だって終わったぞ』


『終わったね』


『玲山城守り切ったし』


『やるなら参加したいです』


 葉も。


 珍しく早かった。


 岳も。


『少しなら出る』


 と返す。


 朔は。


『数字の整理が終わったら』


 律は。


『他同盟からも、似た話が出ています』


 と書いた。


「ほかも?」


 俺が聞くと。


 律が頷く。


「はい。どこも、最後の所有が決まったので」


「じゃあ世界中で?」


「ええ。小さな打ち上げのようなものが、あちこちで始まっています」


     *


 その夜。


 北西では。


 本当に。


 ささやかな会になった。


 北西の猫の者。


 それから。


 玲山城を最後に攻めてきた同盟の者も。


 何人か顔を出した。


「普通に来るんだ」


 俺が言うと。


 玄が肩をすくめる。


「もう終わったし」


 その相手が笑う。


「今日は取りに来てません」


「今日はって何だよ」


「明日統合ですから」


 それもそうだった。


     *


 酒。


 簡単な料理。


 最後に残った食料を持ち寄る者もいた。


 誰かが。


「うち、城は取れなかったけど、大城二回入れたから満足」


 と言い。


 別の者が。


「うちは最後まで外周で道切ってた」


 と言う。


 それを聞いた玄が。


「お前のところか」


 と笑う。


 つい昨日まで。


 玲山城を巡って。


 本気でぶつかっていた相手だった。


 でも。


 今はもう。


 その続きはなかった。


     *


「第三世界っぽいな」


 俺が言うと。


 葉が少し考えた。


「どうでしょう」


「違う?」


「最後だから、かもしれません」


「それもあるか」


 たぶん。


 その両方だった。


     *


 会の途中。


 世界全体の掲示板に。


 一つの書き込みが上がった。


 発言者は。


 中央の大同盟の盟主だった。


『最後に、一つ提案があります』


 人が集まっていたので。


 すぐに話題になる。


『何でしょう』


『明日で第三世界は終わります』


『統合後は、もう今の地図に戻ることはありません』


『せっかくなので、最後に何か形を残しませんか』


 そこまでは。


 普通だった。


 でも。


 続きが。


 少し変わっていた。


『盃を作りませんか』


     *


「盃?」


 俺は読み返した。


 説明が続く。


『土地の形で』


『大きさは問いません』


『一マスでも、十マスでも、百マスでもいいです』


『それぞれの場所で、盃の形を作る』


『最後に、世界全体で門出の印にしませんか』


     *


 会場で。


 少しざわつく。


「地上絵ってこと?」


 杏が言う。


「多分そう」


「盃って、杯の形?」


「うん」


 玄が笑った。


「面白いな」


 朔は。


「無駄に土地を使いますね」


 と真面目に言った。


 葉が。


「最後ですから」


 と返す。


     *


 世界掲示板では。


 すでに返事が増えていた。


『やる』


『いいですね』


『最後っぽい』


『桃園の誓いみたいだな』


『じゃあうちは南側で作ります』


『大きさ自由なら参加しやすい』


『小さいのでいい?』


『むしろ小さくても数が増えた方が面白い』


 律が。


 画面を見ながら言った。


「広がりそうですね」


「第三世界全体で?」


「はい」


「第四は?」


「統合相手なので、向こうへも伝えるかもしれません」


 俺は。


 少しだけ。


 その光景を想像した。


     *


 世界のあちこちに。


 盃の形。


 大きいもの。


 小さいもの。


 綺麗なもの。


 ちょっと歪なもの。


 それが。


 統合前日の地図へ。


 ばらばらに現れる。


 妙だった。


 でも。


 悪くなかった。


     *


「やる?」


 玄が聞く。


「北西でも」


「やるか」


 俺が答えると。


 すぐに。


「じゃあ少し大きめにしたい」


 と玄が言った。


「なんで?」


「せっかくだし」


「場所ある?」


 岳が地図を見る。


「少し外なら」


「玲山城の近く?」


 葉が聞く。


 少しだけ。


 みんなが黙った。


 そして。


 律が言った。


「それ、いいですね」


     *


 結局。


 北西の猫は。


 玲山城から少し離れた平地に。


 盃の形を作ることにした。


 大きすぎると。


 途中で完成しない。


 小さすぎると。


 見つけにくい。


 だから。


 近くの土地を使って。


 ほどほどに。


 でも。


 地図で見れば。


 ちゃんと盃に見えるくらいの大きさ。


「ここが縁で」


 葉が下書きをする。


「こっちが底」


「持つところある?」


 カイが聞いた。


「取っ手?」


「盃って持つところないだろ」


「ないの?」


「多分」


「じゃあいい」


 そう言って。


 カイは。


 普通に一マス埋めた。


     *


 世界全体でも。


 次々と盃ができていった。


 大同盟のものは。


 やっぱり大きい。


 中小同盟のものは。


 少し可愛い。


 一人だけで作ったらしい。


 本当に小さな盃もある。


 でも。


 どれも。


 ちゃんと盃だった。


『できました』


『うちはこれです』


『東側の盃ちょっと潰れてない?』


『地形が悪かった』


『西のやつ綺麗』


『南、大きすぎる』


『北西は玲山城の近くか』


『いいね』


 見ているだけで。


 少し楽しかった。


     *


 誰かが。


 世界掲示板へ書いた。


『最後に、乾杯しましょう』


 すぐに。


 返事が並ぶ。


『いいね』


『明日の統合直前で』


『時間合わせる?』


『合わせましょう』


『全世界で』


 それで。


 最後の時間が決まった。


     *


 統合一時間前。


 第三世界の君主たちは。


 それぞれの場所で。


 自分たちの盃を見ていた。


 城の近くで。


 地図の上で。


 同盟の仲間と。


 一人で。


 形は違う。


 人数も違う。


 でも。


 みんな。


 同じことをしていた。


     *


 北西の猫でも。


 最後に全員が集まった。


 玄。


 葉。


 朔。


 律。


 杏。


 岳。


 それから俺。


 最初の七人。


 少し離れて。


 カイと。


 晴と。


 巨嶽もいる。


 途中から入った者たちも。


 何人か来ていた。


「結局」


 玄が言う。


「解散するかも、まだ確定じゃないんだよな」


「うん」


「でも、こんな感じか」


「何が?」


「最後」


 俺は。


 盃の地上絵を見る。


 少し歪んでいる。


 でも。


 ちゃんと。


 盃だった。


     *


 世界掲示板に。


 最後の書き込みが上がる。


『それでは』


『第三世界、お疲れ様でした』


『次の世界でも、よろしくお願いします』


『乾杯』


 それを見て。


 北西の猫でも。


 それぞれが盃を上げた。


 本物の酒を持つ者。


 茶の者。


 水の者。


 何もないので。


 手を上げるだけの者もいた。


 晴は。


 なぜか果物を持っていた。


 カイは。


 普通に酒だった。


「いつ用意したんだ」


「さっき」


「ちゃっかりしてるな」


     *


「乾杯」


 俺が言う。


 六人も。


 それに続く。


「乾杯」


 その声は。


 地図の向こう。


 見えない別の城でも。


 きっと同じように上がっていた。


     *


 桃園の誓い。


 そこまで。


 立派なものではない。


 この先も。


 ずっと一緒だと。


 誓ったわけでもない。


 同じ同盟で。


 戦い続ける約束でもない。


 むしろ。


 次は。


 別々になる者の方が多い。


 でも。


 門出には。


 ちょうどよかった。


     *


 今までありがとう。


 次もよろしく。


 どこへ行っても元気で。


 近くならまた会おう。


 そんな。


 はっきり口にしない言葉が。


 盃一つで。


 だいたい伝わった。


     *


【統合まで十分】


 表示が出る。


 誰も。


 もう騒がなかった。


 地図を見る。


 世界のあちこちに。


 盃がある。


 本当に。


 大きさはばらばらだった。


 でも。


 それでよかった。


     *


「綺麗だな」


 葉が言った。


「うん」


 俺も頷く。


 第三世界は。


 終わる。


 でも。


 最後の地図が。


 戦争の跡だけじゃなくて。


 盃で埋まっているのは。


 少し。


 嬉しかった。


     *


【統合まで一分】


 玄が。


 盃を持ち直す。


「次、敵だったらどうする?」


「その時はその時」


 杏が答える。


「でも、まずは話すんじゃない?」


 律が言う。


「第三世界ですから」


 岳は。


 小さく笑った。


 朔は。


「必要な時に集まれれば十分です」


 と静かに言った。


 葉は。


 最後の地図を見ている。


 俺は。


 その六人と。


 少し後ろにいるカイたちを見た。


     *


 七人で始まった。


 北西の小さな同盟。


 そこから。


 ここまで来た。


 もうすぐ。


 この地図は消える。


 でも。


 たぶん。


 消えないものもある。


     *


【統合開始】


 表示が切り替わる。


 世界が。


 少しだけ。


 光った。


 俺は。


 最後にもう一度。


 地図の盃を見た。


 それから。


 目の前の新しい表示へ。


 手を伸ばした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。