祭り
第七十七話 猫の最後の仕事
結局。
第三世界が出した答えは。
ずいぶん簡単なものだった。
*
第一世界。
第二世界。
半年先に始まった二つの世界。
人数も多い。
戦争の経験も。
俺たちより長い。
その二つと。
いつか戦うことになるかもしれない。
なら。
今から戦争中心の同盟へ作り直すべきなのか。
大きな同盟へまとめるべきなのか。
戦える者を選ぶべきなのか。
何度も。
話した。
でも。
まだ分からないことの方が多かった。
『結局、やれるようにやるしかなくない?』
誰かが書いた。
『俺もそう思う』
『今から第一世界みたいになろうとしても違う』
『第二みたいに全部まとめるのも違う』
『必要になったら、その時また考えよう』
『第三は第三でいいんじゃない』
俺も。
賛成を押した。
*
会議のあと。
律が言った。
「長かったですね」
「うん」
「それで結論が、やれるようにやる」
「うん」
律が少し笑った。
「第三世界らしいと思います」
「褒めてる?」
「褒めてます」
たぶん。
*
その日の夜。
表示が変わった。
【第三世界・第四世界統合まで】
【七日】
「始まった」
俺は言った。
カイが横から覗く。
「一週間?」
「うん」
「結構あるな」
「俺は短いと思ったけど」
「七回寝れる」
「そう考えるんだ」
カイは。
もう統合後に何をするかより。
「新しい川あるかな」
そちらを気にしていた。
*
残り六日。
五日。
数字が減るにつれて。
第三世界では。
妙なことが始まった。
*
『最後だし玲山城行きます』
最初に見たのは。
中規模同盟の書き込みだった。
「玲山城?」
俺は表示を開いた。
『今まで大同盟の城だから手を出してませんでしたが』
『統合まで残りわずかなので挑戦します』
『参加できる方いたら一緒にどうですか』
その下。
『うちも行きます』
『西から繋ぎます』
『初めて大城攻めます』
『取れたら面白い』
次々と。
返事が付いた。
*
「これ大丈夫?」
葉に聞く。
「何が?」
「玲山城」
葉が。
少し困った顔をした。
「大丈夫ではないと思います」
「だよね」
玲山城には。
今も。
所有同盟がいる。
統合すれば。
現在の城そのものは消える。
だから。
長期的な意味では。
あと数日しか価値はない。
でも。
価値が。
なくなったわけではなかった。
*
統合直前。
城の所有状況に応じて。
最後の報酬が配られる。
その中には。
登用に使える札もあった。
しかも。
大城は。
数が多い。
「これだけ貰えるなら」
玄が報酬一覧を見る。
「守るだろ」
「うん」
「俺でも守る」
「玄は何でも戦いたいだけじゃない?」
「札いっぱいだぞ」
「そこは俺も欲しい」
*
今までは。
大城には。
暗黙の順番があった。
どの同盟が狙っている。
どこが周囲の土地を繋いだ。
先に話を付けている。
下手に触れば。
その後の外交に響く。
だから。
中小同盟は。
行きたくても。
行かなかった。
でも。
もう。
その後がない。
*
『どうせ統合です』
『恨みなしでお願いします』
『取ったら取ったでおめでとうで』
『最後くらい好きにやりましょう』
そんな書き込みが。
第三世界のあちこちで増えていった。
無礼講。
そんな言葉まで。
出始めた。
*
ただし。
城を持っている側まで。
無礼講になったわけではない。
攻めていい。
だから。
守っていい。
邪魔していい。
取り返していい。
最後まで持っていれば。
札が貰える。
むしろ。
理由が。
はっきりしていた。
*
南では。
中小同盟が三つ集まって。
大城へ攻め込んだ。
所有していた大同盟は。
守備兵を追加した。
城へ続く土地を。
横から切った。
援軍を。
途中で止めた。
その隙に。
別の中規模同盟が。
反対側から城へ入った。
『そっちも来るの?』
『無礼講だから』
『じゃあ守る』
『どうぞ』
そんなやり取りまで。
流れていた。
*
「祭りっていうより」
俺が言う。
「戦争だな」
「最後の祭りが戦争なんだろ」
玄が答えた。
「第三世界も結構好きだったんだな」
「我慢してただけじゃない?」
杏が言った。
それは。
あるのかもしれない。
*
【統合まで三日】
北西にも。
当然。
その波が来た。
玲山城。
以前。
晴が巨嶽と二人で。
単独攻略してしまった城。
あのときは。
話し合って。
補填して。
所有も整理した。
今は。
北西の猫が。
防衛に関わる大城の一つになっている。
そして。
最後の所有報酬には。
かなりの数の札が並んでいた。
*
「来るね」
律が言った。
一覧を見る。
参加表明。
六同盟。
そのうち。
今まで。
大城を持ったことがない同盟が。
四つ。
「増えると思う?」
「増えます」
「断れる?」
「今までなら交渉します」
「今は?」
律が。
少し笑った。
「無理でしょうね」
*
俺たちは。
七人で集まった。
「どうする?」
聞く。
玄。
「守る」
即答。
岳。
「同じく」
杏も。
「札は欲しい」
朔は。
報酬一覧を見ている。
「統合後の登用仕様がまだ全部分かっていません。この数なら残したいですね」
葉も。
参加予定を確認しながら頷いた。
「向こうにも、攻めるなとは言えないよね」
「言えない」
「じゃあ普通に守る?」
「うん」
律がまとめた。
「攻撃自由。防衛自由。外交上の遺恨は統合後へ持ち越さない。それで各同盟へ確認します」
「それが一番いい」
*
玄が。
嬉しそうだった。
「最後に大きいの来たな」
「嬉しそうだな」
「だって六同盟だぞ」
「守る側だよ」
「知ってる」
「追いかけるなよ」
「それは状況次第」
「今決めろ」
「努力する」
信用できなかった。
*
攻城当日。
玲山城の周りは。
朝から。
いつもと違った。
土地の色が。
次々に変わる。
一本。
中小同盟が。
玲山城へ道を伸ばす。
そこへ。
北西の猫が。
横から入る。
道が切れる。
『猫さん、それやります?』
すぐに連絡が来た。
律が返す。
『守備なので』
『ですよね』
それで。
終わった。
怒ってはいない。
でも。
相手も。
また別の道を作り始めた。
*
「これ」
俺は地図を見る。
「忙しいな」
岳が答える。
「城だけ見てたら駄目だ」
攻城部隊。
道を作る部隊。
こちらの進路を切る部隊。
囮。
北側。
西側。
南側。
全部。
動いている。
*
「西、二部隊」
葉が言う。
「どこ?」
「第三同盟。玲山城じゃなくて、こっちの接続を切りに来てる」
「岳」
「見えてる」
「行ける?」
「行く」
杏。
「南の到着、あと四分」
「守備?」
「違う。向こうが一回引いて、時間合わせ直してる」
「何同盟?」
「二つ」
「協力してるの?」
「多分」
*
今まで。
中小同盟だからと。
侮っていたわけではない。
でも。
一つずつなら。
北西の猫の方が。
大きい。
今日は。
違う。
六つ。
七つ。
途中から。
さらに増えた。
それぞれ。
好きに動いている。
なのに。
玲山城を取る。
そこだけは。
同じだった。
*
最初の攻撃。
守る。
二度目。
守る。
三度目。
別方向から。
同時。
「来た」
杏が言う。
「三同盟」
「守備入れ替え」
「もうやってる」
「朔」
「修復資源、問題ありません」
「玄は?」
返事がない。
「玄?」
『西』
「何してる?」
『向こうの道切ってる』
「城内って言ったよね?」
『妨害も防御』
「戻れる?」
『二分』
「なら戻って」
『こっち取ってから』
「玄」
『取った』
「戻れ!」
『はい』
*
忙しかった。
でも。
妙に。
楽しかった。
*
誰かを。
本気で潰したいわけではない。
統合後まで。
恨みを残したいわけでもない。
攻める側は。
玲山城が欲しい。
俺たちは。
札が欲しい。
理由は。
それだけ。
*
『一回入りました!』
中小同盟から。
書き込みが来る。
『守備硬い』
玄が返す。
『まだいるよ』
『知ってます』
『もう一回来ます』
『どうぞ』
普段なら。
あり得ない会話だった。
*
晴も。
途中から来た。
「手伝います」
「どっちを?」
「猫です」
「聞いてよかった」
巨嶽が。
後ろにいる。
玄が。
晴を見る。
「前みたいに一人で落とすなよ」
「今日は守るんですよね?」
「そう」
「じゃあ大丈夫です」
本当に。
分かっているのか。
少し不安だった。
*
巨嶽が。
玲山城へ入る。
守備表示が。
一段。
大きく変わった。
「やっぱ強いな」
岳が言う。
晴は。
その数字を見ていなかった。
「終わったら川行っていいですか?」
「今日?」
「まだ明るかったら」
「城守ってから考えよう」
*
午後。
一度。
危ない時間があった。
北西の猫が。
西側の妨害へ兵を出しすぎた。
その隙に。
三同盟が。
ほぼ同時に。
玲山城へ入った。
「耐久減ってる」
「修復間に合う?」
「全部は無理です」
朔が答える。
「守備優先」
岳。
「戻る」
杏。
「次の到着二分」
玄。
『俺も戻る』
「今どこ?」
『遠い』
「なんで?」
『追った』
「追うなって言ったよね?」
『少しだけ』
「全然戻れないじゃん」
『ごめん』
*
結局。
玄なしで。
耐えた。
戻ってきた頃には。
攻撃が。
一度。
止まっていた。
「間に合った?」
「終わった」
「……そう」
玄が。
少しだけ。
寂しそうだった。
*
夕方。
攻める側も。
さすがに。
兵が減った。
北西の猫も。
無傷ではない。
玲山城は。
まだ。
こちらのものだった。
*
『今日は終わります』
最初に。
一同盟が離れた。
『楽しかったです』
別の同盟。
『明日は?』
『行けたら』
『こっちはもう兵いない』
『うちも』
次々と。
引いていく。
最後に。
玲山城を最初に狙った同盟から。
律へ連絡が来た。
『取れませんでした』
『強かったです』
律が。
返す。
『また新世界でよろしくお願いします』
少しして。
『こちらこそ』
*
俺は。
地図を見る。
土地は。
ぐちゃぐちゃだった。
朝とは。
まるで違う。
北西の猫の道。
中小同盟の道。
途中で切れた土地。
飛び地。
誰が見ても。
綺麗ではない。
でも。
あと二日。
それで。
全部。
なくなる。
*
「守ったな」
玄が言う。
「守った」
「札」
「まだ貰ってないよ」
「最後まで持ってればだろ?」
「うん」
「じゃあ明日も来るかな」
楽しそうだった。
「来てほしいの?」
「少し」
「なんで?」
「最後だし」
攻める側も。
守る側も。
同じことを言っていた。
*
その夜。
北西の猫の掲示板に。
一つの長い文章が上がった。
書いたのは。
途中から加入した君主だった。
*
『今日の玲山城を見ていて』
『北西の猫がなくなった後のことを考えました』
『多分、北西の猫は六つくらいに分かれるんだと思います』
*
『玄さんのところ』
『一番戦うと思います』
『今日も最後まで外にいました』
『多分、戦う時は本気で戦って、休む時は休む同盟になります』
『攻城や戦争が好きな人は合うと思います』
*
『朔さんのところ』
『内政と育成をちゃんと考えたい人が集まりそうです』
『今日も戦争中なのに、ずっと修復資源を計算していました』
『数字を見るのが苦じゃない人は楽しそうです』
*
『律さんのところ』
『一番、外との関係が安定すると思います』
『今日攻めてきた同盟とも、最後は普通に話していました』
『第三だけでなく、第四世界の人とも一番早く関係を作りそうです』
*
『巌さんのところ』
『最近かなりやる気があります』
『自分で同盟を作ると言っているのが、最初は意外でした』
『でも今なら、守るところと攻めるところを自分で決める同盟になりそうだと思います』
*
『晴さんのところ』
『まだ詳しくは分かりません』
『でも、多分一番自由です』
『今日も玲山城を守りながら、終わった後の釣りの話をしていました』
『強い人だけを集める感じにはならないと思います』
*
『六つ目』
『まだどこにも決めない人たち』
『一度、盟主や役職から離れたい人』
『自分の城を見直したい人』
『統合後に近くになった人と、一から関係を作りたい人』
『多分、最初は同盟ですらありません』
*
『今日』
『北西の猫は玲山城を本気で守りました』
『攻めてきた同盟も本気でした』
『でも、終わったら普通に話していました』
『多分、六つに分かれても』
『必要になれば、またこうやって集まれるんだと思います』
『だから前より、北西の猫がなくなることが怖くなくなりました』
*
俺は。
最後まで読んだ。
返信が。
増えていく。
『玄、今日怒られてたぞ』
『追うなって言われた』
『追っただろ』
『少し』
『晴さん本当に釣り行った?』
『行きました』
『巨嶽も?』
『来ました』
『釣れた?』
『カイが一匹』
いつもの。
北西の猫だった。
*
【統合まで一日】
玲山城は。
まだ。
北西の猫のものだった。
その周りには。
昨日の戦いで残った。
色の違う土地が。
いくつもある。
今日。
もう一度来る同盟も。
いるかもしれない。
俺たちも。
守る。
最後まで。
*
理由は。
格好いいものではない。
札が欲しい。
せっかく持っている城を。
最後に取られたくない。
攻められたら。
守りたい。
それだけ。
*
「猫っぽいな」
カイが言った。
「何が?」
「自分の場所、取られそうになったら本気」
「そういう意味?」
「あと」
玲山城の周りを見る。
「人の邪魔もする」
「それは猫なの?」
「多分」
「知らないんだろ」
「うん」
*
俺は笑った。
北西の猫。
最後まで。
大人しく。
終わる気はないらしい。
攻めてくるなら。
守る。
道を作るなら。
切る。
隙があれば。
邪魔もする。
それでも。
終わったら。
また話す。
最後の最後まで。
ずいぶん。
俺たちらしかった。




