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いわかん

第七十四話 少しずつ違っていた


 統合まで。


 残りの日数が。


 少なくなってきた。


 その頃。


 世界間掲示板に。


 一つの通知が出た。


【世界間交流機能について】


【統合予定にない世界間の通信を順次停止します】


 俺は。


 少し嫌な予感がした。


 開く。


【第三世界・第四世界間の交流は継続されます】


【第一世界・第二世界間の交流は継続されます】


【それ以外の世界間交流は停止されます】


「……見れなくなる?」


「そのようですね」


 周が答えた。


 第一世界。


 第二世界。


 第三世界。


 第四世界。


 この四つが。


 初めて繋がったとき。


 世界が一気に広くなった気がした。


 それが。


 また。


 二つに分けられる。


「なんでわざわざ切るんだろ」


「統合準備に必要がないから、でしょうか」


「必要ないなら最初から繋げなくてもよかったじゃん」


 周は。


 少し考えた。


「それも、そうでございますね」


     *


 交流停止前。


 第一と第二の掲示板は。


 以前にも増して。


 戦争の話が多くなっていた。


 どこを取る。


 どこを捨てる。


 誰を入れる。


 誰を外す。


 統合後。


 どこへ進む。


 そんな話ばかりだった。


 一方。


 第三と第四。


 こちらは。


 相変わらず。


 会議が多かった。


 方面。


 配置。


 砦。


 遅れて入る者への対応。


 同盟同士の距離。


 大型城。


 トラブル時の連絡先。


 何度も。


 何度も。


 話した。


     *


 その日の会議で。


 誰かが。


 妙なことを言った。


『前から思ってたんですけど』


 第三世界の。


 別同盟の副盟主だった。


『世界ごとに性格違いすぎません?』


 一瞬。


 書き込みが止まった。


『第一は戦争好き』


『第二は効率優先』


『第三は話し合い』


『第四は小さい集団のまま』


『偶然にしては綺麗すぎる気がする』


 俺は。


 画面を見た。


 別の者が返す。


『環境の違いでは?』


『俺も最初そう思った』


『でも最初から少しそうじゃなかった?』


『どういう意味?』


『同じ判断でも、この世界だと穏便な方が選びやすい気がする』


 俺の手が。


 止まった。


     *


『誘導されてるってこと?』


『そこまで強くはないと思う』


『命令されてる感じはない』


『でも、なんとなくそっちを選びたくなる』


『第一も戦いたくなるように?』


『第二は切り捨て判断しやすくなる?』


『第四は大きくまとまりにくい?』


 誰かが。


 冗談っぽく。


『性格補正でも入ってるんじゃない?』


 と書いた。


 でも。


 誰も。


 笑わなかった。


     *


「周」


「はい」


「そんなことある?」


「分かりません」


「否定しないんだ」


「私にも把握できない領域がございます」


 それが。


 少し怖かった。


 周は。


 この世界のことを。


 かなり知っている。


 でも。


 全部ではない。


     *


 話は。


 少し変な方向にも進んだ。


『もう一個いいですか』


『何?』


『こっち来てから恋愛してる人います?』


 俺は。


 思わず。


 画面を見直した。


『急だな』


『いや真面目に』


『ゼロではない』


『でも少なくない?』


『少ない』


『そういう店もほぼないよね』


『そもそも欲が弱くない?』


 会議の空気が。


 少し変わった。


     *


 性欲が。


 ないわけではない。


 綺麗な人を見れば。


 綺麗だと思う。


 誰かを好きになることも。


 たぶん。


 ある。


 でも。


 元の世界と比べると。


 妙に。


 静かだった。


 争いになるほど。


 誰かを求める者も少ない。


 大きな問題にも。


 ほとんどなっていない。


『これも調整されてたりして』


 誰かが書いた。


『人口増えすぎると困るから?』


『分からん』


『でもありそうで怖い』


 俺は。


 何も書けなかった。


     *


 考え始めると。


 他にも。


 気になることはあった。


 戦争に。


 どれだけ本気になれるのか。


 ずっと続いたら。


 どうなるのか。


 最初は。


 楽しい。


 土地を取る。


 城を攻める。


 武将を育てる。


 同盟で勝つ。


 でも。


 毎日。


 決まった時間に集まり。


 何時間も。


 戦い続ける。


 負ければ。


 取り返す。


 また負ければ。


 また取り返す。


 それが。


 何か月も続いたら。


 楽しいはずのものが。


 作業になる。


『第一第二、よくあれ続けられるな』


 誰かが書いた。


『好きなんじゃない?』


『最初はな』


『でも統合後ずっと戦争ならしんどいだろ』


『実際脱落者出ると思う』


『勝ち筋あっても、そこまでやる気保てるかだよね』


 それは。


 俺も思っていた。


 勝てるか。


 だけではない。


 勝つまで。


 続けられるか。


 そっちの方が。


 大事なのかもしれない。


     *


 最近。


 城下でも。


 小さな問題が。


 増えていた。


 酒場での喧嘩。


 資源の盗難。


 兵士同士の揉め事。


 宿での騒ぎ。


 統合が近づき。


 先が見えない。


 不安なのか。


 暇なのか。


 理由は。


 分からない。


 ただ。


 少しずつ。


 治安が悪くなっていた。


「前より増えたよね」


「はい」


 周も。


 否定しなかった。


「統合前だから?」


「可能性はございます」


「みんな落ち着かない?」


「それもあるでしょう」


     *


 同盟の中も。


 穏やか。


 とは言い切れなかった。


 第三世界は。


 比較的。


 話し合いを好む。


 だから。


 争いがない。


 わけではない。


 表に出にくいだけだ。


     *


『統合後も盟主続けますか?』


 ある日の会議で。


 そんな確認が出た。


 何人か。


 返事が遅かった。


『正直、降りたい』


 一人が書いた。


 続いて。


『俺も』


『統合後まで責任持つのしんどい』


『今でも連絡多すぎる』


『揉めた時全部こっち来るし』


『ゲームなのに仕事みたいになってる』


 俺は。


 その一文を。


 しばらく見ていた。


 ゲームなのに。


 仕事みたい。


 たぶん。


 それだった。


     *


 盟主だから。


 人をまとめる。


 問題があれば。


 対応する。


 攻城時間を決める。


 不参加者へ連絡する。


 他同盟と交渉する。


 揉めれば。


 謝る。


 統合情報が出れば。


 また会議。


 それが。


 毎日。


 続く。


『誰か代わってくれるなら代わってほしい』


 そう書いた盟主に。


『お疲れ』


『分かる』


『無理しない方がいい』


 そんな返信が並んだ。


 第三世界らしい。


 でも。


 その裏で。


『今降りられると困る』


『統合前に盟主交代はまずい』


『責任持って最後までやってほしい』


 という声も。


 当然あった。


 温厚でも。


 利害がなくなるわけではない。


     *


「結局」


 俺は。


 周に言った。


「どの世界も同じなのかな」


「何がでしょう」


「人間関係」


 第一は。


 戦争で揉める。


 第二は。


 切る判断で揉める。


 第三は。


 話し合いすぎて疲れる。


 第四は。


 まとまり切れない。


 違う。


 でも。


 どこも。


 完璧ではない。


「世界が少し誘導してても」


「はい」


「最後に決めるのは本人ってことかな」


 周は。


 少しだけ考えた。


「そうであってほしいと思います」


 珍しい答えだった。


「周がそういう言い方するんだ」


「私にも、分からないことはございますので」


     *


 その日の夜。


 第一世界と第二世界への。


 接続が。


 停止された。


【交流対象外となりました】


 それだけ。


 向こうの掲示板が。


 消えた。


 俺は。


 少しだけ。


 寂しいと思った。


 怖い世界だった。


 考え方も。


 かなり違った。


 でも。


 見えなくなると。


 気になる。


 次に。


 第一と第二の情報を見るとき。


 どんな世界になっているのか。


 分からない。


 カイが。


 後ろから。


 画面を覗いた。


「消えた?」


「うん」


「じゃあもう見れない?」


「統合終わるまでは」


「そっか」


 それだけ言って。


 カイは。


 窓を開けた。


 外から。


 夜の風が入る。


 遠くで。


 誰かが。


 言い争っている声がした。


 少し前なら。


 珍しかった。


 今は。


 そこまででもない。


 世界が。


 変わっているのか。


 俺たちが。


 変わっているのか。


 それとも。


 最初から。


 少しずつ。


 変えられていたのか。


 まだ。


 誰にも。


 分からなかった。

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