混戦
第七十一話 宣戦布告
翌朝。
世界間掲示板を開いた瞬間。
昨日までとは。
空気が変わっていた。
【第一世界】
最上部。
一つの書き込みが固定されている。
投稿者の名前の横には。
第一世界最大同盟の印があった。
『第二世界の各同盟へ』
『統合後、我々は第二世界の主要同盟を敵対勢力とみなします』
『統合直後より行動を開始します』
『以上』
短い。
それだけだった。
「……もう?」
俺は声を漏らした。
周が横から画面を見る。
「宣戦布告でございますね」
「まだ統合してないんだけど」
「だからこそ、かもしれません」
返信は。
すでに大量についていた。
『やっぱり来たか』
『第一らしい』
『第二上位はどうする?』
『開始地点次第だな』
『どうせ戦うんだから早い方がいい』
驚いている者はいる。
でも。
止めようとする者は。
ほとんどいない。
「これが普通なの?」
「第一世界では」
周が答えた。
俺は少し下へ動かした。
そして。
もう一つ。
固定された投稿を見つけた。
【第二世界】
『第一世界各同盟へ』
『宣戦布告を確認しました』
『統合後の攻撃については、こちらも相応の対応を行います』
『なお、第一世界全体を一律に敵対とはみなしません』
『敵対行動を取った同盟のみを対象とします』
俺は。
何度か読んだ。
「……第二っぽいな」
「どのあたりがでしょう」
「全部まとめて敵にしない」
「なるほど」
「必要な相手だけ叩くんだ」
その下には。
第二世界の君主たちの書き込みが続いている。
『これでいい』
『戦う必要ない第一の同盟まで敵にする意味ない』
『統合後に話せるところとは話す』
『上位だけ潰せばいい』
第一世界。
戦う前提。
第二世界。
必要なら戦う。
昨日感じた違いが。
もう。
形になっていた。
*
「第三世界、会議するって」
同盟欄にも。
通知が来ていた。
主要同盟の代表。
副盟主。
役職者。
統合後の方針について。
世界全体で話したい。
そんな内容だった。
「行かれるのですか?」
「行く」
俺は答えた。
「さすがにこれは、話した方がいいと思う」
第一と第二は。
もう。
戦争の準備を始めている。
第三と第四が。
同じように戦う必要はない。
でも。
何も考えずに統合を迎えるわけにもいかなかった。
*
会議が始まる前。
新しい統合説明が公開された。
【領地に関する重要事項】
嫌な予感がした。
開く。
【統合時、現在保有している領地そのものは消失します】
「え」
思わず声が出た。
【ただし、これまでに取得した領地値は維持されます】
「……どういうこと?」
説明を読む。
現在。
俺が持っている領地。
木材。
石。
鉄。
穀物。
高級資源地。
それらの位置情報は。
統合と同時に消える。
新しい世界では。
全員。
新しい土地から始まる。
「じゃあ取り直し?」
「そのようですね」
「でも領地値は残るって」
さらに読む。
【統合後、旧世界における領地値が保持された状態で開始します】
【保持している領地値が上限に達している場合、新規領地を取得することはできません】
「……は?」
もう一度読む。
理解するまで。
少しかかった。
「これ」
「はい」
「今の領地を持ってる扱いなのに」
「実際の土地は存在しない」
「そういうこと?」
「おそらく」
続き。
【新世界で領地を取得するためには、保持領地を放棄し、領地枠を確保する必要があります】
「めんどくさ」
カイが後ろから言った。
「いたの?」
「今来た」
「見てこれ」
説明を見せる。
カイは。
しばらく読んだ。
「じゃあ」
「うん」
「昔の土地捨てないと、新しい土地取れない?」
「そう」
「土地ないのに?」
「数字だけ残ってる」
「なんで?」
「知らない」
俺も聞きたかった。
*
さらに。
もっと重要な変更があった。
【砦占領ボーナスについて】
【旧世界で保有していた砦による領地上限ボーナスは、統合時に消失します】
「これまずくない?」
第三世界では。
かなりの君主が。
砦ボーナス込みで領地を持っている。
つまり。
統合した瞬間。
領地上限が下がる。
「砦取り直し?」
「はい」
その下。
【新世界において砦を占領した場合、占領者および規定範囲の所属君主は領地上限+1を獲得します】
俺は。
画面を見たまま黙った。
「これ」
周も。
すぐ意味を理解した。
「砦の価値が、今まで以上に高くなりますね」
「うん」
土地を取る。
そのためには。
領地枠がいる。
領地枠を増やす。
そのためには。
砦がいる。
しかも。
新しい世界では。
全員。
同じように。
砦を探す。
昨日まで。
砦は。
重要な拠点の一つだった。
統合後は。
違う。
成長そのものに。
直接関わる。
「これ絶対揉める」
「でしょうね」
周が言った。
「第一世界などは特に」
俺は。
世界間掲示板へ戻った。
予想通りだった。
*
【第一世界】
『砦優先』
『開始地点出たら座標共有』
『土地より先に砦押さえる』
『第二に取らせるな』
『初日から戦争だな』
【第二世界】
『砦配置が一番重要』
『無理に全部取る必要ない』
『守れる範囲だけ確保』
『第一と競合する砦は捨てる判断も必要』
もう。
考えている。
第一は。
奪う。
第二は。
選ぶ。
そして。
第三世界でも。
会議が始まった。
*
『まず砦の取り合いになると思います』
最初に発言したのは。
東側の大同盟の盟主だった。
『第三と第四で争う必要はないと思う』
別の者が続ける。
『事前に分担できない?』
『第四側とも話した方がいい』
『開始位置分からないから今決めても意味なくない?』
『でも方針は決められる』
書き込みが。
次々と流れる。
第三世界らしい。
戦うか。
ではなく。
まず。
どうすれば揉めないか。
から始まる。
『第四の人たちも会議に入れませんか?』
誰かが書いた。
すぐに。
『賛成』
『それがいい』
『統合するなら今から一緒でいいと思う』
という返事が並ぶ。
俺も。
賛成を押した。
*
しばらくして。
第四世界から。
数人の代表が参加した。
『よろしくお願いします』
『こちらこそ』
『大城の件では助かりました』
『いえいえ』
昨日まで。
別の世界だった。
それなのに。
もう。
同じ世界になる前提で話している。
第一と第二が。
宣戦布告から始まったのとは。
まるで違った。
第四側の代表が。
書き込む。
『砦についてですが、第三世界の皆さんはどう考えていますか』
少し間があった。
第三側の大同盟盟主が答える。
『できるだけ争わないように分けたいです』
『ただし、統合後の配置を見ないと確定はできません』
『近い同盟同士で相談していく形が現実的だと思います』
第四側から。
『こちらも異論ありません』
と返る。
俺は。
少し安心した。
でも。
周は。
画面を見ながら言った。
「それでも、争いは起きるでしょう」
「やっぱり?」
「はい」
「第三と第四でも?」
「砦の数には限りがございます」
その通りだった。
全員が。
必要としている。
でも。
全員分。
都合よく近くにあるわけではない。
しかも。
一つ取れば。
領地枠が一つ増える。
近くに高級資源地があるなら。
価値は。
さらに上がる。
「最初は譲れても」
「はい」
「だんだん取りたくなる?」
「おそらく」
*
その日の夜。
また。
第一世界に新しい書き込みが上がった。
『統合初日』
『北部砦群を第一世界側で確保する』
『第二世界が進入した場合、攻撃対象とする』
ほとんど。
宣言だった。
第二世界。
『所有権は統合後の実占領で決まる』
『旧世界の主張は認めない』
すぐ返す。
俺は。
二つを見比べた。
「始まってるな」
まだ。
新しい世界は。
存在すらしていない。
なのに。
もう。
砦の取り合いが始まっている。
第三世界の会議では。
『第四側と砦の事前取り決めを作ろう』
そんな話が続いている。
俺たちは。
なるべく。
戦わずに済むように。
準備している。
でも。
統合後。
同じようにいくとは。
限らない。
カイが。
俺の横から画面を見る。
「大変そうだな」
「他人事みたいに言うなよ」
「俺、土地取る係じゃないし」
「戦うことになったら出るだろ」
「そのときは出る」
「軽いな」
「まだ始まってないし」
カイは。
少し考えてから。
「砦取れば一個多く土地取れるんだろ?」
「うん」
「じゃあ、みんな欲しいな」
「だから揉めるんだよ」
「なるほど」
ようやく。
そこまで理解したらしい。
それから。
少しだけ笑った。
「ゲームっぽくなってきたな」
俺は。
第一世界の宣戦布告を見る。
第二世界の返答を見る。
第三世界の会議を見る。
第四世界の代表たちを見る。
確かに。
ゲームっぽい。
たぶん。
今までで。
一番。
戦略ゲームらしい時間が。
もうすぐ。
始まる。




