つかれたすぎる
第七十話 世界の向こう側
通知が来たのは、夕方だった。
いつもの資源報告でも。
同盟からの連絡でもない。
画面の中央に、見慣れない赤い枠が出た。
【重要通知】
俺は反射的に開いた。
【第三世界に所属する全君主へ】
【世界終了のお知らせ】
「……は?」
声が出た。
周が顔を上げる。
「どうされました?」
「世界、終わるって」
「はい?」
周もこちらへ来た。
二人で表示を見る。
【第三世界は、規定期間の終了に伴い閉鎖されます】
「閉鎖?」
胸の奥が少し冷たくなった。
ここまで育てた城。
集めた武将。
同盟。
周。
カイ。
全部。
なくなるのか。
そう思ったところで。
次の文章が表示された。
【第三世界・第四世界の統合を実施します】
「……統合?」
さらに続く。
【第一世界・第二世界についても統合を実施します】
俺は一度。
最初から読み直した。
「これ」
「はい」
「終わるっていうより」
「統合でございますね」
「なんだよ」
椅子へ背中を預けた。
力が抜ける。
「めちゃくちゃびっくりした」
「私もでございます」
「消えるのかと思った」
その直後。
追加の説明が開いた。
【城・武将・資源・装備・保有領地等は、統合時の調整を除き原則維持されます】
「ほら」
「問題なさそうですね」
「最初から統合って書いてくれればいいのに」
「世界終了の方が重要なのでしょう」
「心臓に悪いよ」
扉が開いた。
カイが入ってくる。
「何が?」
「世界終わるって通知」
「え?」
カイの顔が止まった。
「俺ら消えるの?」
「第四世界と一緒になるだけ」
「なんだ」
カイも。
すぐに気が抜けた顔をした。
「びっくりした」
「だろ」
「今日の夕飯どうなるかと思った」
「そこ?」
「もう頼んであるし」
世界が終わるかもしれない通知を見た直後に。
夕飯を心配している。
やっぱり。
少し変わっていると思う。
*
通知には。
統合までの準備期間。
統合後の土地再配置。
一部施設の補償。
細かな説明が続いていた。
全部読むには長い。
俺は一度画面を閉じようとして。
右上に。
見たことのない印が増えているのに気付いた。
「なんだこれ」
触れる。
【世界間交流掲示板】
そんな文字が出た。
「周」
「はい」
「これ、前からあった?」
「ございません」
説明を読む。
【一定の役職条件を満たした君主に限り、統合準備期間中の世界間交流を許可します】
「役職持ちだけ?」
「そのようですね」
俺には使える。
同盟での役職が条件に入っているらしい。
掲示板を開く。
そこには。
四つの分類があった。
【第一世界】
【第二世界】
【第三世界】
【第四世界】
「他の世界の人間と話せるのか」
「初めてでございますね」
俺は。
まず第一世界を開いた。
*
『第四って大城まだ残ってるらしい』
『攻略失敗したって見た』
『戦力足りてないだけだろ』
『複数同盟で殴れば終わる』
『指揮決めて時間合わせろ』
『一回失敗したなら次は取れるだろ』
少し読んだだけで。
なんとなく分かった。
「戦の話ばっかりだな」
「第一世界は、戦争が非常に多かったと聞いております」
「そうなの?」
「世界開始直後から、大規模な領地争いが頻発したようです」
読み進める。
どこの同盟が強い。
どの武将構成がいい。
どこを先に落とす。
補給線をどうする。
そういう話が。
普通の会話みたいに並んでいる。
「なんか」
「はい」
「ちゃんと戦略ゲームしてるな」
「第三世界も戦略ゲームではございます」
「それは分かってるけど」
俺たちは。
話し合って。
譲って。
困っているところへ応援を出して。
そういうことも多かった。
第一世界では。
戦うこと自体が。
ずっと身近だったのだと思う。
*
次に。
第二世界を見る。
『第四は参加率悪い同盟切った方がいい』
『人数揃わないなら統合すればいい』
『弱い君主まで抱える必要ないだろ』
『報酬配分で参加率変えればいい』
『攻略優先ならそれが一番早い』
俺は少し黙った。
「こっちは」
「はい」
「冷たいな」
「合理的、とも言えるかもしれません」
第一世界とは違う。
戦いたい。
というより。
勝つために。
必要な判断をする。
そんな感じだった。
「第三でこれ言ったら揉めそう」
「かなり」
「周もそう思うんだ」
「はい」
無理に参加させない。
困っているなら助ける。
誰かを外すなら。
かなり話す。
第三世界では。
そっちの方が普通だった。
*
第三世界の欄は。
もっと見慣れていた。
『第四の方、大城大丈夫ですか?』
『攻略編成なら共有できます』
『時間合わせるだけでだいぶ違います』
『必要ならうちの攻略記録出します』
『失敗したところ責めると次集まらなくなるから気にしなくていいと思います』
「これだよ」
思わず言った。
「何がでございますか?」
「いつもの感じ」
周が少し笑った。
たぶん。
世界が違えば。
普通も違う。
第三世界では。
温厚な判断。
できるだけ揉めないやり方。
それが。
受け入れられやすかった。
*
最後に。
第四世界を開いた。
書き込みは。
ほかより少ない。
『第三世界の方へ質問です』
その一文が目に入った。
開く。
『大型城の攻略について、ご相談があります』
『これまで複数回挑戦しましたが、攻略できていません』
『世界内に大規模同盟がなく、複数同盟で合同攻略を行っています』
『ただ、指揮がまとまらず、前回の失敗以降かなり雰囲気が悪くなっています』
俺は。
少し画面を見た。
「これ大変そうだな」
「大規模同盟が育たなかった世界なのでしょう」
「なんでだろ」
「環境によるものかと」
大きな争いが少なければ。
巨大な同盟を作る必要もない。
それぞれでやっていけたのかもしれない。
ただ。
大きな城を落とすとなれば。
話は違う。
一つの同盟なら。
指揮系統は簡単だ。
複数同盟なら。
誰が決めるのか。
誰の指示に従うのか。
それだけでも揉める。
俺は返信欄を開いた。
「書くんですか?」
「うん」
『第三世界では、大型城攻略前に参加人数を確定させています』
『その後、攻撃開始時間と部隊到着時間を揃えています』
『複数同盟でやるなら、同盟ごとに判断するより一時的に全体指揮役を一人決めた方が楽です』
少し考えて。
もう一つ書いた。
『あと、一度失敗しても責任者を責めすぎない方がいいと思います』
『次の攻略で人が集まらなくなるので』
送信した。
数分後。
返事が来る。
『ありがとうございます』
『最後の部分が一番難しいかもしれません』
俺は笑った。
「そこなんだ」
「雰囲気が悪い理由が分かった気がいたします」
別の第三世界の君主も。
次々と書き込み始める。
『攻城兵器の数も確認した方がいいです』
『主力部隊だけ先に突っ込ませない方がいいですよ』
『参加同盟ごとに役割分けると楽です』
第四世界側からも。
『参考になります』
『次回試します』
『第三世界はこういう話し合い多いんですね』
そんな返事が増えていった。
*
説明の下に。
世界情報という項目があった。
開く。
第一世界。
第二世界。
第三世界。
第四世界。
開始時期が表示される。
「……半年?」
第一世界と第二世界は。
俺たちより。
約半年早く始まっていた。
「周」
「はい」
「第一と第二、半年先輩なんだけど」
「そのようですね」
「しかも人数多い」
初期登録君主数も。
第一。
第二。
明らかに多かった。
第三と第四より。
一段大きい。
「向こうの方が強いってこと?」
「平均では、その可能性が高いでしょう」
「半年分?」
「はい」
武将育成。
城の発展。
装備。
戦争経験。
全部。
半年多い。
俺は。
第一世界の掲示板へ戻った。
『統合したら第二とすぐやる?』
『配置見てからだな』
『同盟ランキング楽しみ』
『第二の上位とは一回戦いたい』
第二世界。
『第一は戦争好き多すぎ』
『統合直後は無駄に動かない方がいい』
『まず配置と戦力把握』
『勝てるところだけやればいい』
まったく違う。
でも。
この二つが。
一つになる。
俺は。
第三と第四を見る。
第三では。
第四の攻略相談が続いていた。
第四では。
少しずつ。
雰囲気が柔らかくなっている。
こちらも。
一つになる。
「同じ統合でも」
「はい」
「全然違う世界になりそうだな」
「そう思います」
*
カイは。
途中から。
窓際で何か食べていた。
「カイ」
「ん?」
「聞いてた?」
「だいたい」
「半年先行してる世界あるって」
「へえ」
「人数も多い」
「へえ」
「第一と第二が統合する」
「うん」
「第三と第四も統合する」
「うん」
「反応薄くない?」
カイは。
手に持っていた焼いた芋を見た。
「今すぐ戦うわけじゃないんだろ?」
「まあ」
「じゃあ、今考えても分からないじゃん」
一本。
こっちへ出してくる。
「食う?」
「……食う」
受け取る。
まだ熱い。
周にも渡す。
「周も」
「ありがとうございます」
三人で。
芋を食べる。
画面の中では。
第一世界が戦争の話をして。
第二世界が効率を話して。
第三世界が第四世界へ攻略方法を教えていた。
世界は。
もうすぐ二つになる。
たぶん。
今までより。
ずっと大きくなる。
でも。
今日すぐ。
何かが変わるわけではない。
カイは。
芋の皮をむきながら言った。
「夕飯までに腹いっぱいになるな」
「さっき夕飯心配してただろ」
「だから一本だけにする」
「もう二本目じゃん」
カイが。
手元を見る。
「あ」
世界が終わる。
そう聞いたときより。
今の方が。
少しだけ。
先が楽しみになっていた。




