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最強は最強だから

第五十六話 譲るもの


 会議を開こうと言い出したのは、天冠だった。


 ただ、白瀬が書簡を送るより前に、同じ話は何か所からも出ていた。


 城へ向かう道で部隊が向き合っている。


 攻略のために集めた兵を、隣の同盟への備えに回している。


 誰も城を取っていないのに、兵と資源だけが減っている。


 これでは、何をしに集まったのか分からない。


 玲山城の件で石垣会と話していた俺たちにも、その気持ちは分かった。


     *


 各方面の有力同盟から、代表が出た。


 天冠。


 北西の猫。


 南西中央同盟。


 蒼穹。


 赤城連盟と東雲は、同じ席でも互いにほとんど顔を見なかった。


 天衡の席には、鷲尾がいた。


 俺は巌の隣に座り、律と佐伯は、それぞれの交渉記録を開いた。


 最初の話は、城の取り分ではなかった。


「争わせたいのでしょうかね」


 誰かが言った。


 白瀬が顔を上げる。


「この世界を用意した側が、ですか」


「強い武将を渡して、そのあとに、取り合うものを置く。しかも今度は、持っている数で順位を決めるという」


 誰も笑わなかった。


 俺も、同じことを考えたことがあった。


 ただ、それを確かめる相手は、ここにはいない。


 周も知らない。


 通知に問い掛けても、返事は来ない。


「意図は分かりません」


 白瀬が静かに言った。


「ですが、今の取り合いを続けるかは、私たちで決められます」


     *


 会議は、思っていたより話になった。


 怒鳴る者がいなかったわけではない。


 先に兵を引けと言い合う場面もあった。


 それでも、相手を黙らせるために席を蹴る者はいなかった。


 この第三世界に集められた人間は、比較的、話し合いを好む者が多いのかもしれない。


 あるいは、そういう者が代表として残ったのか。


 俺には区別がつかなかった。


 南西中央同盟は、境界外の城について希望を出した。


 瀬名は、前の方針との違いを隠さなかった。


「南西から出ないという方針を、私たちは掲げてきました。その上で、今回の一城については協議をお願いしたい」


 黙って進出するより、よほど話しやすかった。


 代わりに、南西側の別の城への接近路をどうするか。


 独立している中小同盟の土地を、誰がどう通るか。


 上位だけで線を引かず、関係する同盟にも了承を得る。


 一つずつ、紙に落ちていった。


 玲山城についても、北西の猫が攻略を担い、石垣会への資源提供と周辺の土地利用を別途取り決める案が残った。


 まだ合意ではない。


 それでも、昨日よりは近づいていた。


 巌が小さく息を吐いた。


「何とかなるかもしれんな」


 その声を聞いた直後、佐伯の手が止まった。


     *


 書簡を読んだ佐伯が、俺と巌の間へ表示を寄せた。


 北西の小同盟が、天衡へ合流した。


 一つではなかった。


 中央寄りの小規模同盟も、ほぼ同じ時間に名前を変えている。


 地図を開く。


 昨日まで、いくつもの色に分かれていた土地がつながった。


 中央から北西へ。


 細く伸びていた領地が、巌の城の近くで太くなっていた。


 俺は、鷲尾を見た。


 鷲尾は、こちらを見ていなかった。


「鷲尾さん」


 佐伯の声が低くなる。


「合併の件を確認したいのですが」


「受け入れてほしいと言われたので受け入れた。それが何か」


 鷲尾は顔を上げた。


「そちらも、そうして大きくなったんでしょう」


 巌が口を開きかけた。


 その前に、二通目が届いた。


 敵部隊、接近。


 目標は、巌の居城だった。


     *


 俺たちは会議を離れた。


 白瀬は攻撃の中止を求めたが、返事を待ってから動ける状況ではなかった。


 巌の城は、旧北西中央同盟の前線に近い。


 北西をまとめるため、周囲へ進むには便利な場所だった。


 今は、その便利さが裏返っていた。


 道が広い。


 複数の方向から部隊を入れられる。


 すぐ近くの土地まで、天衡の同盟員が持っている。


 そして、巌の武将は攻める方へ偏っていた。


 破岳はいる。


 守備を突破し、耐久を削る者も揃っている。


 だが、城に籠もって大軍を受け止める守備の要がいない。


「援軍は出せます」


 俺は到着時刻を並べた。


 近くの部隊から順に入れる。


 けれど、全員が間に合うわけではない。


 出せば、その城の守りが薄くなる。


 敵の進路は一本ではなかった。


「お前の城を、守りの中心にする」


 巌が言った。


 俺は顔を上げた。


「ここを捨てるんですか」


「捨てん。だが、同盟をここ一つと一緒に危うくすることもない」


 巌は同盟の管理画面を開いた。


「盟主を譲る。お前が全体を動かせ」


     *


 断る言葉は出た。


 喉までは来た。


 けれど、巌はすでに、俺が見るべき地図を指していた。


「俺がここを守りながら、北西全部の返事をするより、お前が後ろでまとめた方が早い」


「巌さんは」


「前へ出る。そのための話だ」


 弱気になっている顔ではなかった。


 少し腹を立てている。


 それ以上に、何かを決めた顔だった。


 俺は、並んだ部隊の到着時刻へ目を戻した。


 今は、自分の不安を説明している時間が惜しかった。


「分かりました」


 巌が頷く。


 確認の表示が出た。


 北西の猫、盟主変更。


 自分の名前の横にあった、副、という一文字が消えた。


     *


 守備武将は、登用だけに頼らないことにした。


 まず、取引所を開く。


 育成済みのSR。


 城内での守備に向く技能。


 今すぐ仕事を頼める者を、俺は順に落札した。


 安くなるまで待つ買い方ではなかった。


 圭が価格と能力を横で確認し、葉が残るポイントを数える。


 必要な分を揃えると、残高は大きく減った。


 そこで巌から、短い書簡が来た。


『使っていない武将を、高い値段で出せ。俺と、出せる連中で買う』


 相場を知らずに言っているのではなかった。


 ポイントを、俺の手元へ集めようとしている。


 受け取る側で必要になる内政武将を選び、価格を打ち合わせた。


 出品。


 購入成立。


 手数料が引かれた分だけ、ポイントが戻ってくる。


 見慣れた取引の画面だった。


 今は、一件ごとに、誰かの備えを預かっている気がした。


 巌から、もう一通来た。


『城の場所も、育てた内政も、使え。お前が残れば、こっちは動ける』


     *


 その日の城の登用枠は、まだ使われていなかった。


 俺は、先に買った守備武将の配置を周へ頼んだ。


 引けなくても、守備が空白にはならない。


 その上で、ポイント登用を開く。


 N。


 R。


 SR。


 内政向きだった。


 前に城を襲われた夜を思い出す。


 欲しいものだけが、来てくれるわけではない。


 カイが隣に立った。


「先に来た人たち、持ち場に着いたって」


「ありがとう」


 俺はもう一度、決定を押した。


 光が深くなった。


 現れた男は、大きな盾を携えていた。


 飾りの少ない鎧。


 こちらを見て、一礼する。


「巌鉄。守りの任を承ります」


 SSR。


 城内守備時の兵の損耗を抑える技能。


 盾兵の隊列維持。


 長く攻撃を受ける場面で効果を発揮する、守備に偏った武将だった。


 俺は、名前を見て一瞬だけ笑った。


「巌さんに似た名前だ」


 カイも笑った。


「向こうにも教えてやれよ」


 俺は頷き、巌鉄へ城の図を見せた。


 喜ぶ時間は、あとで取る。


 まず、ここを任せたかった。


     *


 律から、話があると連絡が来た。


 佐伯も一緒だった。


 二人が開いていたのは、配下関係の説明だった。


「巌さんの城を、先にこちらの配下にします」


 俺は律を見た。


「同じ同盟なのに?」


「だから、一度分かれる」


 律の指が、説明の一文で止まった。


【配下化成立後、三日間は他勢力による再配下化を受けません】


 新しい説明ではない。


 以前、北東で戦ったときにも確認した規則だった。


 敵に取られた城を、すぐ別の敵が取り直すことを防ぐ期間。


 それを、味方同士で作る。


「巌さんと、同じように城が危ない位置にいる有志で別同盟を作る。こちらとの配下関係を、合意で成立させる」


 佐伯が引き継いだ。


「同盟単位の従属手続きなら、参加する君主がそれぞれ承認できます。攻め落とす時間は要りません」


「三日間、城は取られない?」


「再配下化はされません。兵が死なないわけでも、土地が奪われないわけでもありません」


 律はそこを、はっきり言った。


「でも、城を取られるのを防ぐために、主力を全部置いておく必要はなくなる」


 俺は地図へ目を戻した。


 悪い位置にある巌の城。


 敵が近い。


 こちらからも、敵が近い。


 巌の声が、通話の向こうから響いた。


「いいじゃないか」


 笑っていた。


「三日あれば、随分働けるぞ」

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