↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/200

伐採

近づくにつれて、木の匂いが強くなった。


 屋根の下には、斧や鋸が並んでいる。壁の片側は開いていて、外からでも中が見えた。思っていたほど大きくはない。


「これが伐採所か」


 カイが入口で足を止めた。


「木を切る場所っていうより、道具置き場だな」

「切るのは森だからじゃないか」

「ああ、そうか」


 俺たちの横を、男が二人通り過ぎた。


 一人が斧を取り、もう一人が縄を肩に掛ける。そのまま建物の裏へ回っていった。


 話し声はしなかった。


 少し離れたところにも、同じように道具を運ぶ者がいる。誰もこちらを気にする様子はなく、それぞれ決まった場所へ向かっていた。


 表示を開く。


 建設中の文字は消えていた。


 代わりに、生産量と配置人数が並んでいる。


「もう働いてるんですね」


 追いついてきた周に聞いた。


「はい。予定していた者を配置しております」

「俺が何か押さなくても?」

「今回の配置は、建設時に設定されておりました」


 そんな項目があっただろうか。


 決定する前に出た説明を思い返す。必要な資源と完成までの時間は見た。それより下にも、何か書いてあった気がする。


「……次から、ちゃんと見ます」


 周は一礼した。


 木材の所持数を確かめる。


 まだ増えていない。


 少し待ったが、数字は同じだった。


「すぐには入らないのか」

「生産には時間が掛かります」


 俺は頷いた。


 完成まで待った後は、木が届くまで待つらしい。


 カイは建物の横から森を見ていた。


「どこまで切っていいんだ?」


「現在の生産範囲は、あちらの杭まででございます」


 周が示した先に、細い杭が何本か立っていた。


 木々の間に縄が張られている。


 カイは目を細めた。


「あんまり広くないな」

「施設を拡張すれば、範囲も広がります」

「また建てるのか」

「資源と条件が整えば」


 俺は表示にある、強化という項目へ指を伸ばした。


 必要資源が出る。


 さっき使ったばかりの木材が、また必要だった。


 石も要る。


 足りない数字は赤くなっていた。


「これは、まだ無理だな」


 閉じようとすると、カイが覗き込んだ。


「もう大きくするの?」

「いや。いくら掛かるのか見ただけ」

「できたばっかりなのに」


「そうだけど」


 言い返しかけて、やめた。


 さっきまで、完成したら安心できると思っていた。


 実際に完成してみると、今度は生産量が少ない気がする。大きくすれば、その分早く次へ進める。そう考えて、ほとんど反射で強化を開いていた。


 まだ、この伐採所から木が一本も届いていないのに。


     *


 建物の脇に、切り株があった。


 カイが腰を下ろしたので、俺も隣の丸太に座った。


 周は少し離れて立っている。


 森の方から、木を打つ音が聞こえ始めた。


 一定の間隔で、乾いた音が響く。


「疲れた?」


 カイに聞かれた。


「ちょっと」

「結構歩いたな」

「城って、もっと狭いと思ってた」


 昨日は周について回っただけだった。今日、自分で案内しようとすると、覚えていない道がいくつもあった。


 城壁の内側には、まだ入っていない建物もある。


「明日は、あっちも行こうぜ」


 カイが奥を指した。


「何があるんだろうな」

「俺に聞かれても」

「君主だろ」

「二日目だぞ」


 カイが笑った。


 俺も少し笑って、それから膝の上で手を組んだ。


 斧の音が続いている。


「……遅いのかな」


「何が?」


「俺がやってること」


 言ってから、うまく説明できないことに気づいた。


 カイは待っていた。


「ほかにもいるんだよ。俺みたいなやつが。昨日、募集のところで見た」

「うん」

「もう仲間を集めてたり、条件を決めてたりしてさ。たぶん、何をすればいいか分かってるんだと思う」


 俺は足元の土を見た。


「俺、今日やっと伐採所が一つできただけだから」


 口に出すと、急に大したことがないように思えた。


 昨日からずっと、これができるのを待っていたのに。


「その連中、いつ来たんだ?」


「え?」


「昨日?」


 顔を上げる。


 カイは普通に聞いていた。


「……分からない」

「じゃあ、ずっと前からいるかもしれないだろ」


「それは、そうだけど」


 昨日の募集文を思い出す。


 書いてあったのは、同盟の名前や募集条件だった。いつこの世界に来たのかまでは、確認していない。


 俺は勝手に、同じところから始めた相手だと思っていたらしい。


「あとさ」


 カイが伐採所を見た。


「これ、昨日はなかったんだろ」

「なかった」

「じゃあ、一つできたじゃん」


 俺は返事をしなかった。


 安心するには、まだ分からないことが多すぎた。


 城の外に誰がいるのか。


 いつまでここにいるのか。


 どうすれば帰れるのか。


 どれも、この建物が一つできたくらいでは変わらない。


 ただ、昨日は何もなかった場所で、今日は人が働いていた。


 それは俺にも見えた。


     *


 やがて、森から二人の男が戻ってきた。


 枝を落とした木を運び、屋根の下へ置く。短い報告を周に告げると、再び森へ向かった。


 表示の隅で、木材の数字が変わった。


「あ」


 思わず声が出た。


「増えた?」

「うん」


 カイにも見えるように、数字を指す。


 ほんの少しだった。


 強化に必要な量には遠い。それでも、さっきまで動かなかった数字が増えている。


 俺はもう一度、生産量を見た。


 このまま働いていれば、夕方にはどのくらいになるのだろう。


「周さん。これ、夜も同じだけ増えるんですか」


「施設の稼働状況は、こちらでご確認いただけます」


 教えられた項目を開く。


 今度は、下まで読んだ。


 カイが隣で欠伸をした。


「腹減ったな」

「朝、食べたばっかりだろ」

「もう昼だろ」


 空を見る。


 確かに、日はずいぶん高くなっていた。


 建設の残り時間を何度も見ていた朝が、少し前のことに思えた。


「戻ろうか」


 表示を閉じ、丸太から立ち上がる。


 カイも腰を上げた。


「午後は?」


「畑を見たい。三つ建てれば札がもらえるってやつ、どこに作れるのか確認する」

「また誰か来るのか」

「まだ札をもらってからだけどな」


「そいつの部屋も要るな」


 俺はカイを見た。


 昨日は登用することばかり考えていて、寝る場所のことまで頭が回っていなかった。


「……そうだな。空いてる部屋も見ておくか」


 帰り道は分かった。


 薪の積まれた壁まで戻って、角を曲がる。


 カイは俺の横を歩いていた。


 広場へ出る手前で、また木材の数字を見たくなった。


 手を上げかけたところで、カイが聞いた。


「昼飯、何だろうな」


「知らないよ」

「朝の汁、うまかった」

「あれ、何が入ってたんだろ」


 話しているうちに、食事をする建物が見えた。


 俺は上げかけた手を下ろした。


 木材は、食べ終わってから確かめることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。