たたかう
第四十三話 二十位と十位
順位が出たとき、最初に開いたのは玄だった。
『二十位だぞ』
何の話かと思っていると、表示の上部に新しい印が付いた。
第三世界、同盟順位。
今まで見られなかった項目だった。
所属人数。
砦保持数。
それぞれに、同盟名が並んでいる。
俺は人数の一覧を下へ送った。
二十位、西端。
五十人。
自分たちより上に、十九の同盟があった。
「結構、上なんだな」
隣にいたカイが言った。
「もっと小さいところが多いのかもしれない」
北西中央同盟は、ずっと上にいた。
俺たちの名前と同じ画面には収まらなかった。
次に、砦保持数を開いた。
今度は、少し送るだけで西端が出た。
十位。
俺は、そこで指を止めた。
*
連絡欄が騒がしくなった。
『十位って、世界で?』
『第三世界って書いてあります』
『白嶺も砦に入ってる?』
『城は別扱いみたいです』
葉から、確認した内容が届く。
つまり、あの大きな資源補正を持つ城を含めずに、十位だった。
俺は取得した砦の一覧を開いた。
最初の砦。
次に取った砦。
久我たちから引き継いだ北東の二つ。
皆で日程を組み、兵を送り、帰りを待った場所だった。
一つずつなら、よく知っている。
ほかの同盟と並べられると、違うものに見えた。
朔から書簡が来た。
『人数に対して、補正を得る場所が多いですね』
『だから内政が進むのか』
玄が返す。
『それもあります。施設を育てた分、補正も生きています』
俺たちは少人数で砦を取れた。
出兵しない者は、城を育てられた。
増えた資源で、次に出す部隊を整えた。
その繰り返しが、数字になっていた。
律からの書簡は、少し遅れて来た。
『この順位、相手も見ているね』
俺は、もう一度一覧を開いた。
十位の文字が、さっきより目立って見えた。
*
巌からの連絡は、その日のうちに来た。
『いいものを見せてもらった。ますます一緒にやりたくなったぞ』
短い文章だった。
声まで聞こえる気がした。
俺は、まだ皆の返事を集めていると伝えた。
合流に賛成する者。
今のまま友好関係を結びたい者。
出兵の条件が決まるまで答えられない者。
意見は分かれていた。
俺自身も、まだ決められずにいた。
巌を嫌ってはいない。
大きくまとまる利点も分かる。
けれど、誰をどこへ出すかという話になると、どうしても手を離せなかった。
返事を送った後、律から別の書簡が来た。
『中央側で、合流の話を気にしている同盟がある』
同盟名は、天衡。
人数の順位も、砦の順位も、俺たちより上だった。
世界の中央寄りから、北西へ土地を伸ばしている勢力だという。
『北西中央同盟とは、以前から進路が重なっているそうです』
律の文章は、そこで終わっていなかった。
『合流前に動くべきだという話が出ている。これは葛城さん経由の情報なので、まだ確定とは扱わないで』
俺は地図を開いた。
天衡の色は、まだ遠かった。
ただ、その色と巌たちの土地の間には、もう大きな空白がなかった。
*
二日後、天衡が声明を出した。
北西中央同盟による西方の砦取得と、周辺同盟の吸収を認めない。
進出の停止と、係争地からの撤退を求める。
そう書いてあった。
その中に、西端の名前もあった。
『西端との統合は、北西一帯の拠点独占を進めるものであり、看過できない』
俺は、そこを読み返した。
俺たちは、まだ決めていない。
決めていないことが、既に相手の戦う理由になっていた。
「順位が出たからか」
俺が言うと、律はうなずいた。
「少なくとも、急いだ理由にはなっていると思う」
人数で上位の同盟に、砦十位の西端が入る。
砦の補正を受ける者が増える。
俺たちの内政のやり方が広がれば、今いる兵だけではなく、次に揃う兵まで増えていく。
天衡の声明には、独占を防ぐと書いてあった。
俺には、育つまで待ちたくないと言われているように見えた。
その日の夕方、北西中央同盟の東側が攻撃された。
*
巌たちは、すぐに押し返した。
最初の報告では、そう聞いた。
ただ、戦う場所は一つではなかった。
東へ兵を寄せると、北から別の部隊が入る。
そちらへ向けた後で、南寄りの道が攻撃される。
主力同士の戦いで勝っても、薄くなった場所から土地が減った。
俺は、地図の更新を待った。
赤い印を付ける場所が増えていく。
西端の周りで起きる戦いなら、道を知っている。
兵を置く場所も、下げる場所も選べる。
今、攻撃されているのは、見たこともない土地だった。
『こちらからできることはありますか』
巌へ送った。
返事は、夜になって届いた。
『西側の動きを見ていてくれ。まだ兵は送るな。途中で止める場所が整っていない』
助けを断られたのではなかった。
ただ、俺たちは一緒に動くための準備をしていなかった。
どの城へ入り、どこで休み、誰が次の指示を出すか。
兵を出すと決める前に、決めることが残っていた。
*
戦況が変わったのは、五日目だった。
北西中央同盟の城が一つ、落ちた。
東の大きな城ではない。
西へ伸ばした道の途中にある、比較的小さな城だった。
その君主が持っていた土地は、細長く西へ続いていた。
巌たちが、こちらへ来るために伸ばした道。
荷車が通っていた道だった。
落とした城の土地を、攻め手は足場として使える。
俺は、その仕組みを知っていた。
北東で、自分たちも使った。
地図を西へ送る。
落ちた城の君主が持つ土地を、一つずつ確かめる。
途中で、指が止まった。
西端の見回り道の、すぐ向こうまで来ていた。
「ここから出られるのか」
律が隣でうなずいた。
「部隊が届けば」
道が切れたから、敵が瞬間的に現れるわけではない。
それでも、こちらへ新しく土地を取り続ける手間はなくなった。
巌たちが何日も掛けて伸ばした道を、別の旗の兵が使えるようになった。
その夜、カイと冬馬から報告が来た。
『東の道、兵が増えている』
*
俺は、西側に出す予定だった部隊を止めた。
玄と岳へ守備の位置を送る。
真木には、東から来る部隊の後続を見てもらう。
カイは冬馬と一緒に、道の曲がる場所まで下がらせた。
最初の接触は、翌日の昼だった。
敵は、こちらの土地を取る前に書簡を送ってきた。
『北西中央同盟への兵力協力を停止し、城と砦の共同管理に応じられたい』
共同管理。
何を指すのか、続きに書かれていた。
こちらの城の近くへ、天衡の部隊を置く。
砦のいくつかを引き渡す。
合流の協議を打ち切る。
俺は律へ見せた。
「断る」
「返事は私が書く。守備を見て」
俺はうなずいた。
少しして、天衡の部隊がこちらの土地へ入った。
*
一度目は、止めた。
坂の下で先頭を受け、後続が広がる前に弓を当てた。
敵が別の道へ回ろうとすると、真木の騎馬兵を見せて足を止める。
追いすぎず、元の位置へ戻す。
玄の報告は短かった。
『下がった。こちらの損害は少ない』
二度目も、押し返した。
相手は正面を避けたが、そちらの道も冬馬が記録していた。
カイが現地から動きを伝え、俺が交代を出した。
ただ、夕方には別の部隊が来た。
見覚えのない旗。
新しい武将。
最初に退いた部隊は、まだ後ろに残っていた。
葉が、こちらの残兵と休養の予定を並べた。
「交代できる部隊は、あと二つです」
俺は、敵の線を見た。
勝っていた。
一回ごとの戦いなら、こちらが明らかに有利だった。
それでも、終わらなかった。
敵は、こちらが減らした兵を、別の部隊で埋めてきた。
夜まで同じ場所を守るとして。
明日の朝も来たら。
その次も。
俺は、地図を広げた。
使える道が分かっていても、そこへ立たせる兵が尽きれば守れない。
*
巌から、直接の連絡が来た。
『落ちた城の南を押さえた。援軍を西へ回せる』
俺は到着予定を聞いた。
今日ではなかった。
けれど、いつ来るかが初めて分かった。
『ありがとうございます。それまで持たせます』
送ると、すぐに返事が来た。
『西へ伸ばした道を使われた。こちらの落ち度だ』
俺は、その一文を見た。
巌は、ここで合流を迫ることもできた。
守ってほしければ入れと。
そうは書かなかった。
俺も返した。
『道を落とした相手が、こちらの砦を要求しています。もう、こちらの戦争でもあります』
送ってから、皆を呼んだ。
*
今度の相談は、前より短い時間で始めなければならなかった。
全員が同じ部屋に来ることはできない。
各地で守っている者もいる。
俺は、同じ内容を連絡欄へ出した。
北西中央同盟と合流したい。
天衡の要求には応じない。
そのために、巌へ改めて条件を伝える。
書き終えてから、最初の七人へ顔を向けた。
「俺は、合流する方がいいと思ってる」
玄がうなずいた。
驚いた顔ではなかった。
「前と、何が変わった?」
岳が聞いた。
俺は、地図を指した。
「守る場所が、もうつながってる。向こうが崩れたら、こっちへ来る。こっちが落ちたら、向こうの西側が空く」
別々の戦いとして扱うことが、できなくなっていた。
「でも、命令を全部預ける話は、まだ決まってない」
律が言った。
「そこは話す。俺たちの都合だけ通すつもりもない」
俺は、葉の出した交代予定を手前へ引いた。
「参加すると決めた戦いは、決めた役割を守る。その代わり、使える兵と、守備に残す兵を先に共有する。出せない分まで数に入れられたら、どっちも困る」
杏が言った。
「出すと約束した部隊は、こっちで揃える。途中で代わるなら、引き継いでから」
「うん」
朔が記録を閉じた。
「合流すれば、生産の補正も向こうへ広がります。兵を戻す力も増えます」
玄が、俺を見た。
「名前は?」
俺は少し黙った。
西端。
自分と玄の名前だけが並んだ、最初の画面を思い出した。
「残せる形は相談したい。でも、同盟名を残すために、城を失うのは違うと思う」
言うと、喉が少し詰まった。
玄は、ゆっくりうなずいた。
*
返事が集まり始めた。
賛成。
条件次第。
迷っているが、皆と一緒に行きたい。
湊からは、五人それぞれの意見が届いた。
最後に、本人の言葉があった。
『俺は賛成です。今度は、守ってもらうだけで入るわけではないので』
俺は、その文を二度読んだ。
伊織からは、暁山の到着予定と一緒に賛成が届いた。
紬は、戦いが広がるのが怖いと書いた。
それでも、今ここで仲間と別れたいわけではないとも。
反対の者には、何が難しいかを聞いた。
巌の指示で遠くへ出されること。
自分の城が、後回しにされること。
皆が心配していることは、俺が気にしていたことと近かった。
律が、一つずつ条件へ直していった。
その間にも、東から報告が来る。
カイの文字だった。
『今は止まってる。交代、早めに頼む』
俺は玄へ交代を頼み、巌への書簡を開いた。
*
『合流したい。ただ、戦っている最中に五十人をばらばらに移すことはできません』
最初に、そう書いた。
城と砦の扱い。
守備の引き継ぎ。
西側の指揮。
既に結んでいる友好関係。
律がまとめた条件を続ける。
大きな作戦は巌が決める。
西側の現地指揮は、俺が持つ。
作戦に使う兵力は事前にすり合わせ、参加を約束した後は、勝手に引き揚げない。
今いる友好同盟との約束は、合流しただけで破棄しない。
俺たちも、向こうが既に守っている城と約束を聞く。
送った後、返事が来るまで、俺は守備の表示を見ていた。
東の前線は、まだ動いていなかった。
*
巌の返事は、夜に届いた。
『西の指揮は任せる。こちらの兵も付ける。だから、こちらの兵が戻る場所も作ってくれ』
続きがあった。
『友好関係は引き継ぐ。既存の約束でぶつかるものがあれば、双方で確認する』
さらに、もう一通。
『ただし、西が落ち着いた後、東が苦しくなれば兵を借りる。その相談から逃げるなよ』
俺は、少し笑った。
この人は、やはり変わっていなかった。
守ってくれる。
その代わり、こちらにも背負わせる。
俺は返した。
『逃げません。出せる兵を揃えて、役割を決めます』
最後に、付け足した。
『西端の五十人で、そちらへ行きます』
*
正式な合流は、前線を交代させてからになった。
申請だけ先に押せば済む話ではない。
砦の帰属と守備を移し、連絡先を揃え、北東の土地についても東稜会へ知らせる。
その段取りを始めた頃、巌から最初の援軍の編成が届いた。
数を見て、俺は椅子へ座り直した。
今までなら、何人もに声を掛けて揃える量だった。
それが、一度に西へ来る。
ただし、道を知らない。
休む場所も、交代する位置も知らない。
俺は冬馬を呼び、図を出した。
カイが戻ってきたのは、その途中だった。
泥の付いた上着を脱ぎながら、机をのぞく。
「決まった?」
「うん。合流する」
「そっか」
「向こうの兵も来る。この道を案内してほしい」
カイは図を見た。
「多い?」
「多い」
「じゃあ、こっちに全部入れると詰まるぞ」
指が、二本の道を分けた。
俺は新しい紙を手前へ引いた。
巌から来る兵を、どう受け入れるか。
もう、こちらの五十人だけを見て決める仕事ではなくなっていた。




