線引き
第二十四話 もう一回だけ
建設の残り時間を見た。
まだ終わらない。
昨日の夜に始めた工事だった。朝に確認したときも、昼に確認したときも、予定から変わっていない。
別の施設を開く。
こちらも進行中。
部隊は帰還を終えて、休養に入っている。
同盟の連絡欄では、土地の相談に岳が返事をしていた。俺が何か書き足さなくても、話はまとまりそうだった。
画面を閉じる。
少しして、また開いた。
今度は登用だった。
【登用札 零】
分かっていた。
最後の内政報酬でもらった分は、もう使っている。
それでも、項目を開いてから所持数を見るのが癖になっていた。
「ないのか?」
カイが横から聞いた。
「ない」
「さっきも見てなかった?」
「見た」
「増えた?」
「増えてない」
カイは机の上の干した果物を一つ取った。
俺も手を伸ばしかけて、止める。
登用の画面に、札とは別の選択肢があった。
ポイントを使用する。
俺はそこを開いた。
*
必要なポイントが表示された。
砦の攻略報酬で増えた、あの残高から使うらしい。
「こっちでも引けるんだ」
周へ聞くと、頷きが返った。
「はい。登用札の代わりに、ポイントを使用できます」
等級ごとの確率を開く。
十人達成でもらった、R以上確定の札とは違う。
Nも出る。
SRも出る。
その上の数字もある。
俺は残高を見た。
一回分を引いても、まだ残る。
取引で候補にしていた武将を思い出し、出品を開いた。昨日と同じ値段のものもあれば、売れたのか見当たらないものもある。
買えば、何が来るかは分かる。
今、欲しい役割が全くないわけではなかった。
ただ、急いで埋めなければ止まる仕事はなかった。
「一回、やってみるか」
言うと、カイが椅子を寄せた。
「何が出る?」
「分からないから引くんだろ」
「そりゃそうか」
ポイントを使用する方を選ぶ。
決定の表示を見て、押した。
*
出たのはRだった。
槍を持つ武将で、内政より戦闘の数字が高い。
能力を確認すると、陸と役割が近かった。
周に案内を頼み、俺は登用の画面へ戻った。
ポイントが減っている。
札の所持数は、零のままだった。
もう一度、同じ場所を押せる。
「もう一回なら」
俺が言うと、カイは空いた場所を見た。
「部屋、まだある?」
「あるって」
「じゃあ、いいか」
決定を押す。
今度はNだった。
さっきより簡素な服を着た武将が現れ、短く名乗る。
畑へ置いた場合の数字を確認したが、今の担当より少し低かった。
ひとまず待機を頼む。
画面へ戻ったところで、カイが聞いた。
「次は?」
俺は指を止めた。
さっき、一回と言った。
その後、もう一回と言った。
確かに、押せばすぐ次が始まる。
建物は、何度見ても完成しないのに。
「……今日は、ここまで」
閉じると、カイは果物の皿を俺の方へ押した。
残っていた一つを食べる。
建設の残り時間を見た。
さっきより、少しだけ減っていた。
*
同盟の連絡欄へ、ポイントでも登用できたと書いた。
返事はすぐ来た。
『やりました。Rでした』
岳だった。
続いて、真木からも届く。
『札がなくてもできるので、昨日から少しずつ使ってます』
俺だけではなかったらしい。
玄も書き込んだ。
『今、引いてます』
少し間が空く。
その間に、律から別の話が来た。
『取引と同じポイントなので、買う予定がある人は残高も見ておくとよさそうです』
俺は自分の残高を見直した。
まだ、朝に見たRなら買える。
そこを確かめていると、玄から通知が来た。
『SR』
短い。
次の文章が来るまで、俺も待った。
『初めて出ました。ちょっと確認します』
葉が祝いの言葉を送る。
俺も続いた。
しばらくして、玄が技能の説明を書いた。
盾を持つ武将で、敵の攻撃を受ける役に向いているらしい。
『攻める方かと思ったら、守る方でした』
その下に、すぐ追記があった。
『でも、かなり強そうです』
俺は笑った。
自分が蒼玄を引いたときも、同じように何度も数字を見た。
*
それから、登用の報告が増えた。
朝の建設確認の後。
部隊が帰ってくるまでの間。
夕食を終えた後。
連絡欄を開くと、誰かが結果を書いている。
大半はNかRだった。
同じ武将が続けて出た人もいた。
杏は、欲しかった内政向きのRが出たと喜んでいた。
葉はSRを一人増やした。
今度は陶真のような内政武将ではなく、弓を使う武将だった。
『戦う方を引いたので、出兵の組み方を考え直します』
その文章の下に、岳が自分の経験を書いていた。
岳のところにも、土地を取るのが得意なSRが来ていた。
等級が同じでも、得意な仕事は違う。
蒼玄のように単独で前へ出す者もいれば、兵を率いて技能を働かせた方がよい者もいる。
誰かがSRを引くたびに、最初は祝いの言葉が並ぶ。
その後は、どこへ置くか、何を任せるかという話になった。
俺は出兵予定を開いた。
少し前には、蒼玄が行ける土地を待っている人もいた。
今は別の武将で取れる場所が増え、俺の部隊が動かなくても道が伸びる日があった。
*
三日後の夕方、俺もまたポイントを使った。
その日は、新しい土地を一つ取っただけだった。
城の工事は長いものを始めてある。
蒼玄は帰還済み。
カイと陸の部隊も、翌日の予定まで空いていた。
取引の候補を見て、今すぐ買いたいものがないことを確かめる。
登用へ戻る。
一回目はR。
技能を見て、担当の交代候補にした。
二回目を押す前に、残高を確かめた。
最初に取った砦の報酬は、もうかなり使っている。
「これで終わりにする」
カイへ言うと、頷きが返った。
「さっきも聞いた気がする」
「今日は、まだ言ってない」
「じゃあ、昨日か」
決定を押した。
現れたのは、長い弓を持つ女だった。
暗い赤色の服の上に、動きやすそうな装具を着けている。
【SR 朱里】
俺は椅子から少し浮いた。
「来た」
カイが、今度は先に言った。
「上のやつだ」
朱里は一礼した。
「朱里。ご指示を」
俺は返事をして、能力を開いた。
弓による攻撃に秀でている。
蒼玄とは、使い方が違った。
技能の条件を読み、部隊へ入れた場合も確認する。
さっきまで、今日はもうすることがないと思っていた。
急に、確かめたいことが増えていた。
*
翌日、朱里の配置について葉と話した。
葉が引いたSRとは技能が違う。
それでも、弓を使う部隊の情報は参考になった。
陸の部隊をそのまま渡すのではなく、兵種と必要な準備を確かめる。
すぐ全部揃える必要はなかった。
今までの担当を一人ずつ外して、全員をSRに置き換えるようなこともできない。
畑も、伐採所も、兵舎も動いている。
カイには、引き続き出兵を頼む場所がある。
新しい武将が来るたびに、役割の紙を書き直した。
同盟の中にも、SRを持つ人が少しずつ増えていた。
新しく加入した人の中には、最初から二人持っている人もいた。
以前なら、その等級だけで驚いていたと思う。
今は、何が得意なのかを先に聞くようになった。
もちろん、自分が引いたときには、まだ嬉しい。
朱里の名前は、その日のうちに何度も開いた。
*
人数が二十になった日は、特別な集まりはしなかった。
加入の確認が終わり、連絡欄へ新しい挨拶が載る。
近くに城がある人が、場所を確認したと返す。
その後は、生産や土地の話が続いた。
俺は人数の表示を見てから、最初に作った募集文を開いた。
あのときは、玄が入ってくれるかどうかを気にしていた。
今は二十人いる。
翌日には、二十一人になった。
さらに一人加わり、二十二人になった。
全員の城を地図に入れると、以前より広い範囲が必要になった。
同じ北西でも、端から端までの移動には時間が掛かる。
それぞれに、近くの土地と、よく話す相手ができていた。
俺が全ての取得予定を見て決めることは、もうしていない。
重なる場所だけ相談が来る。
砦の攻略も、近くで部隊を揃えられる人を中心に予定を組むようになっていた。
俺の城が静かな日でも、同盟のどこかでは土地が増えていた。
*
七人で使っていた机に、久しぶりに地図を広げた。
今日は玄と律が来ていた。
律は取引の記録を見せに、玄は近くの土地の相談を兼ねて寄った。
「二十二人か」
玄が同盟の一覧を見た。
「名前、まだ全部すぐには出てこないです」
「俺も、城の場所と合わせないと」
そう答えると、律が紙を寄せた。
名前と位置が並んでいる。
「新しく入った人には、近くの人を先に伝えてます。その方が話が早いので」
俺は頷いた。
全員を同じ距離で知ろうとするより、今はその方が動きやすい。
玄が、武将の一覧へ画面を変えた。
「朱里、どんな感じですか」
情報を見せると、玄は少し身を乗り出した。
「弓、いいな」
「そっちの盾の人も、よさそうでしたけど」
「いいです。でも、弓も欲しい」
俺は笑った。
律が自分の記録を閉じる。
「欲しいのが決まってるなら、取引も見ます?」
玄は少し考えた。
「……見ます。でも、先に一回だけ」
俺もカイも笑った。
律は呆れるでもなく、出品の名前を一つ、紙へ書いてくれた。
*
その日の夕方、北西開拓会から書簡が来た。
差出人は葛城だった。
人数が増えたことと、最近の砦攻略について触れた後に、本題が書かれていた。
『西端との友好関係について、一度相談させてもらえませんか』
俺は最初から読み直した。
加入の申請ではない。
こちらへ入れてほしいという話でも、向こうへ来てほしいという話でもなかった。
同盟同士で、話をしたいらしい。
続きには、予定している活動範囲を共有したいこと、土地や砦を巡る行き違いを避けたいことが書かれていた。
地図を開く。
以前、加入を考えたときには遠かった北西開拓会の領地が、こちらから見て東側へ伸びている。
西端の領地も、最初の三つの城の周辺には収まらなくなっていた。
まだ、大きく重なってはいない。
けれど、進み続ければ相談が必要になる距離だった。
玄と律へ書簡を見せる。
二人とも、すぐには何も言わなかった。
*
「友好って、何をするんでしょうね」
俺が言うと、律が文面を指した。
「ここには、進路の共有と、争わないための相談が書いてあります。援軍まで含むかは、まだ分かりません」
「同じ同盟になるわけじゃないんですよね」
玄が聞いた。
俺は周に確認した。
「別の同盟として関係を結ぶ場合、所属は変わりません」
「土地を足場に使うのも?」
「友好関係だけで、同盟員と同じ取得条件になるわけではございません」
俺は地図へ目を戻した。
同じ色になるわけではない。
別の色のまま、相談できる相手を増やす。
今まで近くの君主としていたことを、もっと広い範囲で行うのだろうか。
葛城は、最初に質問したときから、できないことはできないと教えてくれた。
砦を取った後も、こちらが見落としていた難しさを説明してくれた。
話を聞きたいと思う相手だった。
「まず、具体的に何を考えてるか聞きたいです」
俺が言うと、玄は頷いた。
律も、そうしましょうと答えた。
*
同盟の連絡欄へ、友好の相談が来たことを伝えた。
北西開拓会の場所と、書簡に書かれている内容を添える。
葉から、話を聞くことには賛成だと返ってきた。
朔は、こちらの開拓予定もまとめておいた方がいいと書いた。
岳は東側の取得予定を送ってくれた。
新しく入った人からも、近くで相手の同盟員と話したことがあると返事があった。
二十二人になると、俺の知らない接点も増えている。
俺は葛城へ返信を書いた。
『ご連絡ありがとうございます。こちらも一度お話ししたいです。活動範囲と、友好関係に含めたいことを確認させてください』
送信する。
その後、取引の画面を閉じようとして、登用が開いたままだったことに気づいた。
夕方に、もう一回くらいと思っていたのを忘れていた。
残高を確かめる。
朱里を引いた後から、まだ変わっていない。
そのまま画面を閉じた。
「引かないのか?」
カイが聞いた。
「今日は、こっちを先に考える」
俺は地図を机の中央へ寄せた。
西端の城と土地。
その東にある、別の同盟の領地。
間には、まだ誰も取っていない場所がある。
朝には、建設が終わるまで暇だと思っていた。
今はその空いた土地へ、何を書き込めばいいのか考えていた。




