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連絡

第二十三話 昼までに終わる


 蒼玄は、一人で門を出た。


 後ろに兵は続かなかった。


 刀を腰に下げ、道の先へ歩いていく。何度か見送っているうちに、出兵とは列が遠ざかるものだと思うようになっていたので、一人だけの後ろ姿は妙に小さく見えた。


「本当に一人だな」


 隣でカイが言った。


「うん」


 編成に兵を入れ忘れたわけではない。


 朝、もう一度守備情報を開き、蒼玄の状態と技能を確かめた。


 行き先は等級三の土地。


 近隣の予定とも重ならない。


 全部確認して、自分で決定した。


 それでも、城門の向こうへ消えるまで、俺は何度か部隊の表示を見た。


 兵数は零。


 指揮官の欄に、蒼玄の名前だけがある。


「カイは、午後からでいいよ」


「陸と合わせる?」


「うん。こっちは補充が終わってから」


 別の部隊を開く。


 蒼玄を出した後でも、兵は城に残っている。


 そのことに、まだ慣れなかった。


     *


 占領の報告が届いたのは、昼前だった。


 勝利。


 等級三の土地が、自分の色に変わっていた。


 俺は報告を開き、いつもの癖で兵の損失を探した。


 元から連れていない。


 武将の状態を確かめる。


 蒼玄は帰還中だった。


 すぐに同盟へ報告すると、玄から返事が来た。


『本当に単独で取れましたか』


『取れました。帰ってからも確認します』


 岳が土地の位置を開き、守備の編成を尋ねた。


 俺は出発前に写しておいた情報を送った。


 以前なら、兵を増やしてから候補にする場所だった。


 その土地を一人で取っている。


 地図を眺めていると、今まで避けていた場所へ次々に目が向いた。


 ただ、蒼玄はまだ戻っていない。


 次の行き先を決めるのは、それからにした。


     *


 帰ってきた蒼玄の鎧には、土が付いていた。


 刀の鞘にも細かな擦れがある。


 出ていったときと全く同じ、というわけではなかった。


「怪我は?」


「軽微」


 腕を示される。


 衣服の一部が切れ、その下に浅い傷が見えた。


 俺は周に確認を頼んだ。


「今日は、もう休んでください」


「承知」


 蒼玄は一礼し、城の奥へ向かった。


 カイがその背中を見ていた。


「取ったんだな」


「うん」


「兵がいなくても、帰ってくると腹は減るのかな」


「それは減るだろ」


 俺は笑った。


 緊張がほどけてから、もう一度地図を開く。


 等級三の土地。


 増えた生産量。


 同盟の連絡欄には、まだ返事が届いていた。


 俺は帰還したことと、今日は休ませることを書いた。


 その後、カイの部隊を予定通り送り出した。


 一日のうちに、別の場所へ手を伸ばせる。


 初めてSRを引いた意味が、ようやく仕事の流れの中で分かった。


     *


 二つ目の砦を選んだのは、その数日後だった。


 新しく入った透の領地から、近づける場所があった。


 最初の砦と、守備の規模は大きく変わらない。


 耐久値を確かめ、隣接する土地への道を決める。


 今回は、全員で集まって会議を開かなかった。


 葉が前の記録を出し、変わる場所だけ書き直した。


 律が到着時刻を並べる。


 岳と杏が、耐久を削る部隊を確認する。


 玄は守備と戦う側の編成をまとめた。


 俺は蒼玄をその中へ入れた。


 等級三の土地を一人で取れたからといって、砦まで同じように扱うつもりはなかった。


 兵を付け、ほかの部隊と一緒に入る。


 カイと陸は城に残し、通常の土地取得へ回せるようにした。


『当日の確認は、前と同じで』


 律が書く。


 十人から返事が揃った。


 そのうち何人が出るかも、最初から決まっていた。


 全員の兵を全部足さなくても、必要な数を揃えられた。


     *


 二つ目も、予定した時間の中で落ちた。


 守備との戦闘が始まり、報告が届く。


 前の結果を確かめてから、後ろの部隊が入る。


 砦の耐久が下がっていく。


 俺は一度、途中で席を立った。


 窓の外を見て、冷めた茶を替えてもらい、戻る。


 表示を開くと、耐久はさらに減っていた。


 もう少しで終わる。


 その見当が、前より付くようになっていた。


 攻略成功の知らせが出る。


 俺は息を吐いてから、帰還の指示を出した。


 同盟の連絡欄には、短い報告が並んだ。


『守備側、帰します』


『こちらも帰還に入りました』


『補充は予定の範囲です』


 最後に、玄が書いた。


『二つ目、おめでとうございます』


 それを見て、俺も祝いの言葉を返した。


 最初のときのように、もう終わったのかと確かめ直すことはなかった。


 西端の名前が付いた砦を、一度ゆっくり見た。


 それから、次の建設を開いた。


     *


 砦が増えると、資源の生産量も変わった。


 朝に書いた予定が、夕方には少し前へ動く。


 攻略報酬のポイントも貯まっていく。


 律は出品を見ながら、欲しい武将がいる人の相談に乗っていた。


 俺も一人、内政へ置くRを選んだ。


 同じ名前の出品を見比べ、値段と条件を確認してから決める。


 来た武将を配置すると、空いていた担当が埋まった。


 札を使ったときほど胸は騒がなかったが、欲しかった仕事を任せられるのは気持ちがよかった。


 朔のやり方も、みんな少しずつ真似するようになっていた。


 長い工事を始めてから寝る。


 倉庫の空きを見て、報酬を受け取る。


 次に足りなくなる資源に合わせて、担当を見直す。


 最初は一つずつ聞いていたことを、自分で確かめられるようになった。


 葉の記録には、補足が増えていた。


 誰かが気づいたことを書き、その下へ別の誰かが自分の数字を添える。


 俺が朝に連絡欄を開く頃には、質問と返事が揃っていることもあった。


     *


 内政の課題が一通り終わったのは、さらに数日後だった。


 最後に残っていた施設の強化が完了し、達成済みの印が付く。


 報酬を受け取る。


 上から順に並んでいた課題は、全部埋まっていた。


 俺は下へ送った。


 まだ何か続いていると思ったからだった。


 けれど、同じように建てれば終わる項目は、そこにはなかった。


 別の催しを開く。


 領土。


 砦。


 同盟。


 長く掛かりそうな条件が並んでいる。


 城の建物は、まだ上げられる。


 ただ、次の段階に必要な資源は多く、工事にも時間が掛かる。


 朝始めて昼に受け取り、午後に次を始めるような進め方ではなくなっていた。


「終わったんですか」


 周へ聞く。


「表示されている初期の内政課題は、全て達成されています」


 俺は頷いた。


 嬉しいはずだった。


 実際、最後の報酬を受け取ったときは嬉しかった。


 それなのに、次に開く項目がなくなると、手が止まった。


     *


 朝食が終わる前に、その日の指示を出し終えた。


 建設は進行中。


 蒼玄は休養。


 カイの部隊は、今日は出さない。


 陸には兵の確認を頼み、生産施設は昨日と同じ配置にした。


 同盟の予定も確認した。


 次の砦へ向かう道は、玄と岳が調整している。


 今日、俺が返事をしなければ止まる話はなかった。


 匙を置き、画面を閉じる。


 もう一度開く。


 同じ内容だった。


「何か忘れた?」


 カイが聞いた。


「いや」


「じゃあ、どうした?」


「……終わった」


 カイは俺の顔を見た。


「何が?」


「朝、やること」


 窓の外は、まだ明るくなったばかりだった。


 俺は机に置いた紙をめくった。


 未確認の項目はない。


 連絡の印も付いていない。


 カイが立ち上がった。


「じゃあ、歩こうぜ」


     *


 城の中は、前よりにぎやかだった。


 門をくぐってきた荷車が、倉庫へ向かう。


 工房の前には木材が並び、道の向こうから金属を打つ音が聞こえてくる。


 炊事場の屋根から煙が上がっていた。


 人が動き、物が運ばれ、建物の中へ消えていく。


 俺が広間で次の指示を探している間にも、仕事は続いていた。


「こっち、通れるようになったんだな」


 カイが建物の間を指した。


 以前は資材が積まれていた道だった。


 抜けると、城壁の内側へ出る。


 石段があり、門の上へ続いていた。


「上がっていいのかな」


 俺が言うと、カイは近くに立つ兵へ尋ねた。


 通行できると短く答えが返る。


 二人で石段を上がった。


 城の中が見えた。


 畑。


 倉庫。


 新しい屋根。


 最初に案内してもらった道が、下では細く見える。


 城の表示を開くと、耐久値は強化後の数字だった。


 その数字を閉じても、厚くなった壁はそこにあった。


「広くなったな」


「うん」


「最初、倉庫まで行くのも迷ってたのに」


「一回だけだろ」


「一回だった?」


 俺は答えず、門の外へ目を向けた。


 道が遠くまで続いていた。


     *


 石の縁に手を置き、しばらく外を見ていた。


 帰る方法は、まだ分からない。


 そのことを考えなくなったわけではなかった。


 ただ、朝起きれば確認するものがあり、完成を待つ建物があり、返事をしなければならない相手がいた。


 目の前のことを終わらせていると、一日が過ぎた。


 今日はまだ、昼にもなっていない。


「何か考えてる?」


 カイが聞いた。


「前は、やることが分からなかっただろ」


「うん」


「今は分かるけど、すぐ終わる」


 カイは少し考えた。


「いいことじゃないのか」


「たぶん」


「忙しい方がいい?」


「そういうわけでもない」


 言ってから、自分でもよく分からなくなった。


 カイは外の道を見た。


「俺は、昼まで座っててもいいぞ」


「お前はそうだろうな」


 笑うと、カイも笑った。


 何も決めずに、しばらくそこにいた。


     *


 三つ目の砦も、その週のうちに取った。


 二つ目より道が長かったので、途中の土地を取る方に日数が掛かった。


 攻略そのものは、前の記録を使えた。


 守備の編成と耐久を見比べる。


 参加する部隊を決める。


 到着する時刻を揃える。


 当日の確認は省かなかった。


 ただ、全員が何度も同じ説明を読む必要はなくなっていた。


 真木と千歳も、役割に入った。


 透は城での準備を進め、次なら出せると伝えてきた。


 最初の七人だけで全部をすることも、減り始めていた。


 砦が落ちる。


 補正を確認する。


 報酬を受け取る。


 帰還と補充を手配する。


 祝いの言葉の後に、次の予定が並ぶ。


 俺はその流れを追いながら、少し前まで砦の情報を開くだけで足が止まっていたことを思い出した。


 遠くの目標だった場所が、日程の一つになっていた。


     *


 次の砦の候補を探したとき、玄が言った。


『近いところは、かなり取れましたね』


 地図を広げる。


 まだ未攻略の砦はある。


 北西の端には、君主の城がない地域も残っていた。


 ただ、次は今までより遠い。


 道をつなぐ必要があるし、行って帰るだけでも時間が掛かる。


 近くの資源地も、必要なところは取れていた。


 土地を増やす余地がなくなったわけではない。


 今すぐ無理をして取りたい場所が、減っていた。


『少し内政を進める時間にしてもよさそうです』


 葉が書いた。


 杏も、次の城の強化へ資源を回したいと答えた。


 俺は自分の建設予定を見た。


 完成まで、まだ長い。


 その間、ほかの施設を全部上げるほど資源を使えば、次が遅れる。


 結局、今日は今のまま進めることにした。


 予定表の空欄が、前より広くなった。


     *


 その日の午後、律が地図の位置を送ってきた。


 中央に近い地域だった。


『ここ、前に記録したときは未攻略でした。今は全部、同盟名が付いています』


 開く。


 いくつもの砦に名前がある。


 色は一つではなかった。


 隣り合う土地が別の同盟のものになり、その先にも別の色が続いている。


 俺は表示を動かした。


 北西で見るような、広い空白が少ない。


 資源のボーナスを持つ拠点にも、既に所有者がいた。


『攻略が進んでるんですね』


 俺が返すと、律は続けた。


『報告に出る新しい砦の名前も、前より減っている気がします。見ている範囲だけかもしれませんが』


 玄が地図を確認したらしかった。


『向こう、次に取れるところが少ないんじゃないですか』


 俺はその一文を読んだ。


 今日、自分たちも似た話をした。


 近い砦は取った。


 内政の課題は終わった。


 次の強化は、時間が掛かる。


 それで昼前に手が空いた。


 中央では、俺たちより早くそこまで進んだ人がいるのかもしれない。


     *


 地図をもう少し広くした。


 中央から、北西へ。


 同盟の色が密集しているところを離れると、砦の間隔が広がる。


 その先には、まだ名前の付いていない拠点があった。


 俺たちが、時間を掛けて行けば取れると考えている場所だった。


 カイが隣へ来た。


「次、そこ?」


「まだ決めてない」


「遠いな」


「うん」


 俺は中央へ表示を戻した。


 こちらより多くの城があり、大きな範囲を持つ同盟もある。


 その人たちは、今何をしているのだろう。


 俺と同じように、建設の残り時間を見ているのか。


 次の砦を探しているのか。


 それとも、もう別の予定があるのか。


 連絡欄へ書きかけた。


『中央の同盟が、こっちへ来ることもありますかね』


 送る前に止まった。


 来るという知らせはない。


 地図を見て、そう考えただけだった。


 俺は文末を直した。


『中央の動きも、少し見ておきたいです』


 送ると、律から確認しておくと返ってきた。


 玄も、近くの同盟と話すときに聞いてみるという。


 俺は地図を閉じた。


 外からは、いつもの工房の音が聞こえていた。


 建設は進行中。


 武将は、それぞれの仕事についている。


 今日中に急いで決めることは、もうなかった。


 けれど、朝より少しだけ、落ち着かなかった。

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