友好は有効か
第二十二話 初めてのSR
翌朝、石材の数字が、紙に書いた予定より増えていた。
昨日も計算を間違えたのかと思い、途中から確かめ直す。
施設の段階は変わっていない。
武将の配置も、そのままだった。
生産量の内訳を開くと、見慣れない項目が加わっていた。
【同盟拠点効果】
指を止める。
「これ、昨日の砦ですか」
「はい。保有する砦による資源生産の補正でございます」
周の答えを聞いて、ほかの資源も開いた。
同じ項目がある。
倉庫へ一度だけ資源が届いたわけではない。これから増えていく量に、砦の効果が加わっていた。
「……毎回、増えるんだ」
俺は紙の数字を直した。
次の建設を始められる時刻が、少し早くなる。
補充に使った食料も、思っていたより早く戻る。
同盟の連絡欄を開くと、葉が先に気づいていた。
『生産量に砦の補正が付いています。昨日までの予定を直した方がよさそうです』
朔からも返事がある。
『確認しました。工事の順番、少し変えられますね』
俺も、自分のところに付いていると書いた。
砦の名前を地図で見たときより、今の方が嬉しかった。
勝った結果が、毎日の城の仕事に入ってきていた。
*
攻略報酬にも、まだ確認していないものがあった。
資源の項目の下に、ポイントと書かれている。
受け取ると、取引の画面にある残高が増えた。
今までは、値段を見ても自分には関係のない数字だった。
今日は、手が届くものがある。
武将の出品を開く。
Rの名前がいくつか並んでいた。
その少し下に、SRもある。
必要なポイントを見て、そちらは閉じた。
今回の報酬だけでは足りなかった。
『攻略報酬のポイント、受け取りましたか』
律から連絡が来た。
『今、取引を見ています』
返すと、すぐに続きが届いた。
『買いたいものがあれば、名前を教えてください。昨日までの出品を少し書いてあります』
俺は槍兵向きのRを一つ選び、送った。
律の返事は、少ししてから来た。
『同じ武将が、下の方にも出ています。そちらの方が安いです』
一覧を送る。
本当に同じ名前があった。
条件を見比べる。
俺が最初に開いた方は、目に入りやすい位置にあっただけらしい。
『全部、同じ値段じゃないんですね』
『出した人が違うので。今すぐ必要でなければ、少し見比べてもいいと思います』
俺は入札せず、候補だけ書き留めた。
欲しい武将を選んで手に入れる方法もある。
札を使って誰が来るか待つのとは、違う楽しさだった。
*
昼前、葛城から書簡が来た。
北西開拓会。
同盟へ入るか迷っていたとき、質問に答えてくれた相手だった。
『砦の攻略を確認しました。おめでとうございます。西端を設立されたんですね』
俺は礼を返した。
近くの城で集まり、初めて一緒に攻めたことを伝える。
次の返事には、質問があった。
『攻略時も七人ですか。応援は、どちらの同盟から?』
俺は人数の欄を見た。
まだ七人だった。
『応援は頼んでいません。こちらの七人で行きました』
送った後、しばらく返事がなかった。
俺は加入の問い合わせを一つ確認した。
城の位置を開き、近くにいる岳へ連絡する。
それが終わった頃、葛城から届いた。
『七人だけで、一度の攻撃で落としたんですか』
同じことを、少し形を変えて聞かれている。
俺は攻略報告を開いた。
『はい。守備と戦う部隊の後に、耐久を削る部隊を入れました』
今回は、返事が早かった。
『その人数なら、到着がずれるとかなり厳しいはずですが』
*
葛城は、砦の守備が時間とともに回復することを説明してくれた。
先に着いた部隊が戦う。
次が来るまで間が空く。
その間に守備が戻れば、後から来た部隊は、また兵を減らされる。
守備を倒した後も、耐久を削る部隊が遅れれば、同じように難しくなる。
『同時に出発するだけでは揃いません。城の距離も、部隊の速さも違うので』
俺は机の下へ重ねた紙を取り出した。
出発する時刻。
着く予定の時刻。
守備の結果を確認する担当。
杏たちの部隊を入れる順番。
使わなかった中止条件の紙の下に、それらがあった。
『到着する時刻から逆に計算しました。出発前に全員へ確認して、後ろの部隊も続けて入れるようにしています』
そこまで書いて送る。
葛城から、少し長い返事が来た。
『それを七人全員で予定通りにできたなら、納得できます。ただ、普通はそこが揃いません。遅れた分や損耗を埋めるために、もっと人数を集めます』
俺は画面を見たまま、黙った。
七人もいれば十分だったのかもしれない。
昨日は、そう思っていた。
葛城は、七人しかいないのに、と考えていた。
*
内容を同盟の連絡欄へ伝えた。
玄から最初に返事が来た。
『じゃあ、時刻を合わせたのは残した方がいいですね』
葉も続く。
『守備が戻る前に終わっていたので、回復の影響が分からなかったんですね』
律は、当日の記録を確かめていた。
実際にずれた時間は小さかった。
誰かが遅れていれば、あの通りには進まなかった可能性がある。
俺は朔へも聞いた。
『人数の割に、兵が揃っていたのもありますか』
『あると思います。補充を終えてから出せましたし。ただ、ほかの同盟の数字は分からないので、そこは何とも』
その返事を読んで、俺は紙の束を分けた。
毎回書き直さなくていいもの。
次も確認するもの。
全部いらなかったことには、できなかった。
カイが広間へ戻ってきた。
「また砦の話?」
「ほかの同盟から、七人だと難しいって」
「取れたぞ」
「うん。その取れた理由を聞いてる」
カイは俺の手元を見た。
「時間、揃ってたからじゃない?」
普通のことのように言った。
俺は少し笑った。
「それが、難しいんだって」
*
加入の問い合わせは、その日も続いた。
全員が、すぐ入れる場所にいるわけではない。
城が遠い人もいた。
砦を次々に攻めたいという人もいた。
俺たちは今後の予定を伝え、合うかどうか確認した。
その中から、まず一人が加わった。
岳の城の東にいる、真木という君主だった。
次に、杏と近い千歳。
二人とも、加入前に近隣の進路を話し合っていた。
人数が八になり、九になった。
連絡欄に知らない名前が並ぶ。
自分で書いた募集文を読み返すより、その名前を見る方が、同盟が大きくなったことを感じた。
葉が、新しく入った二人へ内政の記録を送った。
朔が足りないところを補足する。
律は、城の位置を地図にまとめていた。
俺が全部説明する前に、会話が進んでいく。
十人目の申請が来たのは、翌日の午後だった。
名前は透。
砦から少し離れた西側に城がある。
玄が先に話を聞いていて、進路も重ならないと確認してくれていた。
俺は方針への返事を読み、申請を受け付けた。
人数が十になった。
*
表示の隅に、達成の知らせが出た。
【所属君主数 十人】
【達成済み】
【報酬:R以上確定登用札】
しばらく前から見ていた項目だった。
あと四人。
あと三人。
そうやって眺めていた数字が、埋まっている。
俺は新しく入った透へ挨拶を送った。
それから、報酬を受け取った。
札は、いつものものと縁の色が違った。
手の上で裏返す。
重さは変わらないように感じた。
「来た?」
カイが机の横に立った。
「十人のやつ」
「引く?」
「引く」
今度は、迷わず答えた。
同盟の連絡欄にも、受け取ったという書き込みが並び始めていた。
玄はすでに使ったらしい。
『R。弓の武将でした』
続いて岳もR。
杏は、持っている武将と同じだったと書いていた。
R以上確定だからといって、上の等級が出るとは限らない。
それを見て、少し落ち着いた。
俺は登用を開いた。
*
部屋は空けてあった。
周に、来た武将の部屋を用意できるか確認する。
頷きが返る。
札を枠へ入れた。
確認の表示が出る。
カイは俺の肩越しに見ていた。
「誰がいい?」
「今度こそ、戦える人かな」
「陸も戦えるぞ」
「分かってる。もう少し強い人」
「そっか」
カイは空いた場所へ目を向けた。
俺は決定を押した。
札が消え、光が広がる。
いつもより長いのか、俺が待っているから長く感じるのか、分からなかった。
床の上に、人の影が立つ。
最初に見えたのは、腰に下げた長い刀だった。
次に、暗い色の鎧。
肩を覆う装具の端に、細い金属の縁が光っていた。
男が顔を上げる。
その横に、名前が出た。
【SR 蒼玄】
俺は瞬きをした。
もう一度、等級を見る。
SR。
Rの前に、一文字多い。
「……出た」
自分の声が、少し高かった。
カイが俺の肩を叩いた。
「出たな」
「出た」
同じことしか言えなかった。
*
蒼玄は片膝をついた。
「蒼玄。命を承る」
声は低かった。
俺は慌てて立ち上がった。
「よろしくお願いします。立ってもらって、大丈夫です」
蒼玄が立つ。
背が高い。
けれど、見た目より先に、能力の数字へ目が行った。
武力が高かった。
カイや陸と並べなくても、今まで見ていた範囲から大きく離れていることが分かる。
技能を開く。
最初に出た説明は、兵の数を増やすものでも、生産を上げるものでもなかった。
自身の攻撃。
近接戦闘。
武将本人に働く効果が並んでいる。
「これ、部隊全体じゃなくて、この人が強くなるんですか」
周へ聞いた。
「はい。蒼玄様は、ご自身の戦闘に秀でた武将です」
俺は説明を下まで読んだ。
兵を任せれば強いのだと思っていた。
もちろん、その使い方もできる。
ただ、この武将の強みは、それだけではないらしい。
「一人でも、戦える?」
「はい」
答えたのは蒼玄だった。
俺は顔を上げた。
蒼玄は姿勢を変えず、次の指示を待っていた。
*
同盟の連絡欄へ戻った。
『SRが出ました』
書いて、送る。
すぐに玄から返事が来た。
『おめでとうございます。内政ですか』
『戦闘です。蒼玄という武将です』
岳が名前を聞き、能力を見たいと書いた。
俺は主な項目と技能の説明を送った。
葉から祝いの言葉。
朔からも、いいですねと届く。
律は、本人の戦闘能力が高い型だと答えた。
新しく入った千歳からも返事が来た。
『単独で土地を取れる武将でしょうか。募集のところで、そういう話を見ました』
俺はその文章を読み、編成を開いた。
蒼玄を入れる。
兵は、まだ入れない。
出兵の候補を確かめると、その状態でも進められる。
「兵、ゼロだけど」
カイが言った。
「うん」
「これで出るのか」
「今は確認してるだけ」
土地の情報を開いた。
等級一。
等級二。
その先に、今まで避けていた等級三の土地がある。
守備の数を見る。
初めてこの表示を開いたときは、もっと兵を揃えてからだと思った場所だった。
*
蒼玄にも、土地の情報を見せた。
「ここは、どうですか」
蒼玄は表示へ目を向けた。
短い沈黙の後、答える。
「攻略可能」
「兵を連れなくても?」
「可能」
俺は周を見た。
周は技能と守備の情報を確認した。
「相性や状態には注意が必要ですが、蒼玄様の能力であれば、単独での攻略を検討できる相手です」
絶対に勝つと言われたわけではなかった。
それでも、今までとは違う答えだった。
俺は行軍時間を開いた。
帰りまで考えると、今日これから出すには遅い。
地図へ候補の印を付けた。
「明日の朝、もう一度確認して頼んでもいいですか」
「承知」
蒼玄が頷いた。
周に城の中を案内してもらうことにした。
扉が閉まった後、俺は椅子へ座った。
カイがまだ、能力の表示を見ていた。
「強いな」
「うん」
「俺たち、別のところに行けるじゃん」
俺はカイを見た。
「蒼玄がここへ行ってる間?」
「そう。兵を全部持っていかないなら、こっちも出られるだろ」
地図を開き直す。
蒼玄に頼もうとしている土地。
カイか陸が率いる部隊で進める土地。
城に残す担当。
一人増えただけで、予定の組み方が変わりそうだった。
*
夕食の前に、明日の予定を同盟へ送った。
蒼玄の最初の出兵は、単独での適性を確かめた上で行う。
取得する場所も、近くの仲間へ確認した。
返事を待つ間、取引の画面を開く。
朝に見ていたRの武将が、まだ出品されていた。
今すぐ買う必要があるか、もう一度考える。
戦う武将が欲しかった。
その願いは、今日の札で叶った。
ポイントは残っている。
今度は内政を助ける武将を探してもいいし、まだ取っておくこともできる。
俺は画面を閉じた。
今日のうちに全部使わなくてもよかった。
窓の外では、夕方の荷車が倉庫へ入っていく。
資源の数字が増えた。
そこには、昨日取った砦の補正が付いている。
同盟の人数は十。
武将の一覧には、蒼玄の名前があった。
俺はその三つを、順番に確かめた。
「まだ見てるのか」
カイが食卓から呼んだ。
「今、閉じる」
そう答えて、SRの文字をもう一度だけ見た。
明日の朝が、少し待ち遠しかった。




