悩み
第十八話 四人目の予定
朔の返事には、城の位置と、いくつかの数字が並んでいた。
武将が四人。
そのうち、外へ出せるのは二人。
兵は一部隊分を揃え、もう一部隊を作りかけている。
俺より先に進んでいるところもあれば、同じところで止まっている部分もあった。
『木材が足りません。兵を増やした後に、施設を上げられなくなりました』
最後に、そう書かれていた。
俺は倉庫を開いた。
こちらには木材がある。
ただ、余っているわけではない。次の建設に使う量を引けば、残りは少なかった。
すぐに分けられますとは言えない。
地図へ戻り、朔が進みたいという北側を見た。
林のある土地が二つ。
どちらも、木材の生産量が付いている。
『北側へ進みたいのは、木材のためですか』
『そうです。片方を取れれば、かなり楽になります』
朔が示したのは、城から見て少し遠い方だった。
生産量は多い。
その分、守備も重い。
手前の土地なら、俺たちが最近取っている場所と、そう変わらなかった。
『手前では足りませんか』
送ってから、少し聞き方が悪かったかと思った。
相手も、見比べた上で選んでいるのかもしれない。
返事はすぐに来た。
『先にそちらを取ると、奥へ行く分の兵が減るので迷っています』
俺は二つの土地を交互に開いた。
全部、一人で取ろうとしている。
数日前の俺と同じだった。
*
玄と葉にも、朔の希望する位置を見てもらった。
葉は施設の工事中で、すぐには出兵できない。
玄は翌日なら動けるという。
『手前を俺が取るなら、朔さんはその隣から奥へ進めますね』
玄の書き込みを見て、俺は頷いた。
同盟へ入れば、その進み方ができる。
ただ、手前の林を玄が取れば、そこで増える木材は玄のものになる。
道を借りられることと、資源を分けてもらえることは違う。
その点も含めて、朔へ伝えた。
少し間が空いた。
『それは助かります。ただ、入れてもらう代わりに、そこを譲るということですか』
俺は椅子へ座り直した。
そういうつもりではなかった。
けれど、書いた文章を読み返すと、そのようにも読めた。
玄が手前を取る。
朔は同盟へ入る。
並べて書くと、交換条件のようだった。
『加入の条件ではありません。北へ進む方法として考えただけです。手前の林も欲しいなら、別の進め方を相談できます』
返信を書いていると、カイが広間へ入ってきた。
「まだ手紙?」
「今度入るかもしれない人と」
「入るんだろ?」
「まだ決まってない」
カイは俺の手元を覗いた。
「その人、どこにいる?」
「少し北」
「会わないの?」
俺は窓の外を見た。
日はまだ高かった。
今日は出兵の予定を入れていない。
少し考えてから、朔へもう一通送った。
『今日、少し話せますか。こちらから行けます』
*
朔の城は、北へ向かう道の先にあった。
門の外に、資材が積まれている。
近づくと、まだ途中の壁が見えた。
工事が進んでいるのかと思ったが、作業をしている者はいなかった。
門の前で待っていた男が、こちらへ手を上げた。
「朔です」
「書簡を送った者です。こっちはカイ」
「どうも」
朔は俺たちより少し年上に見えた。
袖をまくっていて、手に薄い板を持っている。
挨拶を済ませると、その板を脇へ挟んだ。
「中、散らかってますけど」
「うちも、似たようなものです」
案内された広間には、机の上だけでなく床にも紙が置かれていた。
朔は椅子に載っていた布を持ち上げ、別の場所へ移す。
「どうぞ」
座ると、窓から途中の建物が見えた。
「あれ、建設中ですか」
「資源待ちです。次を始める場所だけ空けました」
朔は机の上へ地図を広げた。
「だから、ちょっと急いでました」
文章で読むより、事情が分かりやすかった。
もう用意を始めている。
始めたものを動かしたくて、木材の多い土地へ行こうとしていたらしい。
*
「手前も奥も、両方欲しいんですか」
俺が聞くと、朔は首を横に振った。
「両方取れたらいいですけど、今は奥だけでいいです」
「じゃあ、何が気になりました?」
「入った後も、取っていい場所を毎回決めてもらうのかと思って」
俺は顔を上げた。
朔は少し言いにくそうに続けた。
「一人だと遅いから、誰かと組みたいんです。でも、毎回返事を待ってから動くなら、結局止まりそうで」
玄と同盟の決まりを考えたときにも、似た話をした。
俺は三人で決めた内容を説明した。
近くの仲間と進路が重なるときに相談すること。
決まった範囲なら、自分で予定を組んでよいこと。
同じ土地へ二つの部隊を出さないよう、出る前に知らせること。
朔は黙って聞いていた。
「全部、あなたに聞くわけじゃないんですね」
「そうしたら、俺も返事だけで一日が終わります」
口にしてから、少し大げさだったかと思った。
けれど朔は、そこで初めて笑った。
「それならよかった」
地図の北側を指す。
「奥の林は、俺が取ります。手前を玄さんが取ってくれるなら助かる。ただ、その先は一度止まります」
「どうして?」
「兵を戻して、今度こそ建物を上げたいので」
窓の外の、何も建っていない場所を見る。
俺は頷いた。
「じゃあ、その予定を伝えましょう」
*
加入の申請を受け付けると、人数が四になった。
朔の城の位置を確かめてから、同盟の連絡欄を開いてもらう。
玄と葉の挨拶が並んでいた。
朔は少し考え、短く返した。
『朔です。北側で木材を取りたいです。よろしくお願いします』
その後は、明日の予定を決めた。
玄が手前を取る。
取得の報告を受けてから、朔が奥へ出る。
俺と葉は、別の方向の内政と開拓を進める。
朔が自分の紙へ時刻を書き込んだところで、カイが横から覗いた。
「帰りも、その日に間に合う?」
朔の手が止まった。
行軍時間を開く。
行きだけなら問題ない。
帰りまで含めると、遅くなる。
「……思ったより掛かりますね」
「帰る頃に暗いと、道が分かりにくいぞ」
カイは、自分が通った場所を指して話した。
朔は予定の時刻を消した。
「取得が遅くなったら、翌朝にします」
俺はその変更を連絡欄へ書いた。
玄から、了解と返る。
それで決まった。
朔は椅子の背にもたれた。
「こうやって決めてるんですね」
「まだ、俺たちも慣れてないです」
「でも、一人で迷ってるより早い」
俺もそう思った。
ここへ来るために歩いた時間は掛かったが、書簡だけで何度も確かめるより、分かったことは多かった。
*
帰り道、カイが城壁の方を振り返った。
「増えたな」
「仲間?」
「うん。飯食うとき、四人になるのか?」
「毎日集まるわけじゃないだろ」
「そっか」
俺は少し笑った。
人数が増えたと聞いて、最初に椅子や食事のことを考えるのはカイらしかった。
広間に全員が来たら、今の机で足りるだろうか。
四人なら座れる。
武将もいれば、少し狭い。
十人になったら。
そこまで考えて、先走りすぎだと思った。
四人目が入ったばかりだ。
まずは明日、予定通りに動けるかだった。
城へ戻ると、工事を終えた畑の報告が届いていた。
催しの課題も、一つ進んでいる。
達成したものに印を付け、次の条件を確かめた。
生産施設の段階は、かなり揃ってきた。
あとは、城そのものの強化に関する項目が残っていた。
*
翌日、予定は少し遅れた。
玄の出発前に、兵の補充がまだ完了していないことが分かった。
待つ時間は長くなかったが、その分だけ全部が後ろへずれる。
連絡欄に知らせが入る。
『出発が遅れます。取得も、その分遅くなります』
俺は朔の返事を待った。
昨日、遅ければ翌朝にすると決めていた。
けれど、朔は工事を急いでいる。
無理に出ると言うかもしれない。
『了解です。こちらは明日の朝にします』
返事は、それだけだった。
拍子抜けするくらい簡単だった。
俺は自分の予定へ戻った。
今日はカイではなく、陸を出す。
カイには城で兵の確認を続けてもらい、陸の畑は短い間だけ担当を外す。
誰を出しても同じではない。
陸の方が向いている仕事もある。
前の晩にカイと確認し、行き先の守備に合わせて決めていた。
陸は命令を聞き、頷いた。
「承知」
兵を率いて門へ向かう。
カイはその列を見てから、俺の横へ来た。
「帰ったら、どんな感じだったか聞く」
「うん。俺にも教えて」
陸を見送った後、俺たちは兵舎へ戻った。
外へ出た部隊とは別に、補充を待っている兵の数を確かめる。
次を急いで一度に増やすのではなく、城の収支を見ながら少しずつ揃えていた。
*
玄の取得報告は、午後に届いた。
地図に新しい色が付く。
その先を選べるようになったと、朔からも連絡が来た。
翌朝、朔が出発した。
俺は昨日と同じように、建設と資源を確認しながら報告を待った。
昼過ぎ、勝利の知らせがあった。
『取れました。兵は減りましたが、帰還中です』
続いて、木材の生産量が書き込まれた。
朔が欲しがっていた土地だった。
玄が、おめでとうと返す。
葉も続いた。
俺は窓の外の伐採所を見た。
自分の城の数字は、変わっていない。
それでも、あの途中で止まっていた工事が動くのだと思うと、少し嬉しかった。
朔から、もう一つ書き込みがあった。
『次の建設を始められる時刻が分かりました。そこまでは補充と休養に回します』
俺は紙に書いていた北側の予定へ、線を引いた。
四人になって最初の順番が、終わった。
*
次の問い合わせは、朔の近くから来た。
杏という名前だった。
朔と以前に書簡を交わしたことがあり、最近、土地の増え方が変わったので聞いてみたらしい。
『別の方の領地から先へ取っていましたが、同盟に入るとできるんですね』
俺は、その仕組みと普段の相談について答えた。
杏はすぐには申請しなかった。
自分の城の仕事が落ち着いてから、もう一度連絡したいという。
了承を返す。
翌日には、別の君主から書簡が届いた。
岳。
こちらは南側に城があった。
『葉さんから、進路の確認をもらいました。取り合いにならずに進められるなら、話を聞きたいです』
俺は葉へ確認した。
取得予定の土地の近くに城があったので、先に連絡したという。
やっていることは、朔に送った書簡と同じだった。
募集の文章を直したわけではない。
誰かに人数を集めてもらったわけでもなかった。
進む先にいる人へ連絡して、そのやり取りから話が続いていた。
俺は玄と葉と朔へ、二人から問い合わせがあることを伝えた。
その後で、机の上を見た。
自分の建設予定の紙が、書簡を書き留めた紙の下へ隠れていた。
畑の次に何をするつもりだったか、一瞬思い出せなかった。
*
「今日は、まだ何も始めてないぞ」
カイに言われたのは、その日の昼だった。
「分かってる」
「資源は?」
「ある」
「じゃあ、何を待ってる?」
俺は返事をしようとして、やめた。
加入の説明。
土地の相談。
誰がいつ出るか。
全部、自分で確認しなければいけない気がしていた。
画面を開くたびに別の連絡があり、その返事をしているうちに時間が過ぎる。
「……俺が決めるのを待ってた」
カイが首を傾げた。
「自分で?」
「うん」
口にすると、おかしかった。
俺は城の建設を一つ決定し、それから連絡欄を開いた。
『岳さんの南側の話は、葉さんから説明してもらえますか。場所も、その方が分かると思うので』
葉から了承が来た。
朔には、杏の近隣の進路を確認してもらう。
同盟の方針は、今まで説明した内容をまとめ直して送った。
全員が同じ文章を見られるようにしておけば、毎回最初から書かなくて済む。
玄からも返事が来た。
『北側で重なるところは、俺も見ます』
俺は椅子の背から体を起こした。
朔に、全部自分へ聞かなくていいと説明したのは俺だった。
その俺が、全部自分のところへ集めようとしていた。
*
杏が入ったのは、二日後だった。
外へ出す武将はまだ育っていないが、生産施設は整っているという。
岳はその翌日だった。
兵はある。
ただ、近くの土地を取った後に、どちらへ進むか迷っていた。
二人とも、俺たちと同じ順番で城を育てたわけではない。
連絡欄には、それまで出なかった施設の名前や、別の土地の情報が並ぶようになった。
葉が内政の課題について書くと、杏が自分のところではもう終わったと返した。
玄が守備の編成を尋ねると、岳が近くで似た土地を取ったと答えた。
朔は建設を再開できたらしく、木材の使用量を報告していた。
俺も自分の記録を送る。
六人分になると、朝に読む量が増えた。
全部へ返事をしなくても、話が進むことも増えた。
その間に、俺の城でも施設が一つ完成した。
内政の報酬で受け取った札を使う。
結果はRだった。
技能を確認し、担当のいない施設と比べる。
大きく喜ぶほどではなかったが、今度は使い道がすぐに見つかった。
配置を決定してから、同盟へ結果を書いた。
杏から、同じ武将を持っていると返事が来た。
*
夕方、周と城の強化条件を確認した。
足りなかった施設の段階は、今日の完成で揃っていた。
残るのは資源だった。
木材と石材。
以前なら、見ただけで先の話だと思う量だった。
今は生産量と使用予定を並べれば、いつ届くか見当が付く。
「途中で別の工事を始めなければ、ここで足りる?」
「現在の生産が続けば、その見込みです」
俺は紙に時刻を書いた。
城の強化を始める予定。
その下に、葉と確認する南側の土地。
さらに、六人の次の出兵予定を簡単に記した。
カイが窓から外を見ていた。
「倉庫の前、また荷車が増えてる」
隣へ行く。
木材を運ぶ車と、空になって戻る車が、道の途中ですれ違っていた。
少し前まで資材を積んでいた場所には、新しい屋根ができている。
まだ城そのものを強化したわけではない。
それでも、見慣れた景色は少しずつ変わっていた。
机へ戻ると、加入についての書簡が一通増えていた。
まず位置を開く。
六つの城の、その少し向こうだった。
俺は同盟の連絡欄へ問い合わせを伝え、返事を書き始めた。
十人達成の項目は、六まで進んでいる。
その数字の下にある登用札を見て、今度は少し期待してしまった。
カイが横から覗く。
「あと四人?」
「うん」
「上のやつ、出るといいな」
「R以上だから、Rかもしれないぞ」
「でも、出るかもしれないだろ」
俺は笑って、頷いた。
その前に、目の前の書簡へ返事をする。
城の場所を確認できたこと。
近くには、岳がいること。
まず、どちらへ進みたいのか聞きたいこと。
書くべきことは、最初の募集を出したときより、ずっと分かっていた。




