砦への道
第十六話 三人分の登用札
葉が残していった記録を見ながら、倉庫の数字を書き写していた。
石材の増え方は、東の土地を取る前より速くなっている。これなら、次の建設を始められる時刻も変わる。
昨日までは、必要な量が貯まるまで何度も画面を開いていた。
今は、あとどれくらいかを紙に書ける。
計算した時刻が合っているかは、そのときになって確かめるつもりだった。
そこへ、同盟の連絡欄に印が付いた。
葉からだった。
『催しのところに、同盟へ加入した報酬がありました。登用札が一枚もらえます』
俺は手を止めた。
昨日、三人で使える連絡欄の場所を確かめたばかりだった。帰城の報告までは書簡で送ってしまったが、今度は玄にも同じ文章が見える。
返事を書く前に、催しの項目を探した。
建設や部隊の表示とは少し離れたところに、小さく置かれている。
開くと、いくつかの課題が並んでいた。
施設を建てるもの。
土地を取得するもの。
そして、同盟に関するもの。
【初めての同盟】
【同盟を設立、または同盟に加入する】
【報酬:登用札一枚】
【達成済み】
「……あった」
昨日から受け取れる状態だったらしい。
設立の条件や、加入の申請ばかり見ていて、こちらには気づかなかった。
「何が?」
カイが向かいで顔を上げた。
「札。登用できる」
「また誰か来るのか」
「受け取れば」
「じゃあ、受け取ればいいだろ」
俺は達成済みの下を押した。
所持品に、札が一枚加わる。
取り出すと、以前と同じ冷たさが指に触れた。縁の細かな模様も覚えている。
カイを迎えたときは、これがどうなるのか分からず、椅子や桶を動かした。
今日は、札を持ったまま周を見る。
「ここで使えますよね」
「はい」
入口の脇は、もう空いていた。
*
先に、葉へ礼を返した。
『こちらも受け取れました。気づいてなかったです。ありがとうございます』
玄からも書き込みがあった。
『俺も今、受け取りました』
三人とも、同じ一枚をもらえたらしい。
『何が出るかは、普通の登用と同じでしょうか』
葉の質問に、俺は札の説明を開いた。
特別な武将が出るとは書かれていない。
いつもの登用に使う札だった。
『同じみたいです。こちらは今から使います』
送ると、玄からすぐ返事が来た。
『俺も使ってみます』
葉も、城の仕事を確認してから使うという。
俺は連絡欄を端へ寄せ、登用を開いた。
等級ごとの確率が並んでいる。
前に見た数字と変わらない。
それでも、札が手に入ったばかりだと、上の方へ目が行った。
強い武将が来れば、土地を取りやすくなる。
内政に向いた武将なら、カイを畑から外しても、生産が落ちずに済むかもしれない。
考えていると、隣からカイが覗いた。
「誰が来てほしい?」
「できれば、得意な仕事がある人」
「俺も畑、できるぞ」
「うん。だから、お前が出てる間に任せたい」
「ああ」
カイは空けた場所を見た。
「そいつの部屋、用意してある?」
俺は周を見た。
「空室がございます」
今度は、登用する前に確認できた。
札を枠へ納める。
【登用札を一枚使用します】
決定を押した。
*
光が広がり、床の上に人の形が現れた。
最初に見えたのは、槍だった。
続いて腕と肩。
地味な色の衣服に、革の装具を着けた男が立っていた。
【R 陸】
表示された等級を見て、少しだけ肩の力が抜けた。
上の等級ではなかった。
男は俺に向き直り、頭を下げた。
「陸。命に従います」
「あ、よろしくお願いします」
返事をすると、陸は姿勢を戻した。
そのまま待っている。
俺は能力の欄を開いた。
武力はカイより少し高い。
ほかの項目には、低いものもある。
槍兵の指揮に小さな補正が付いていたが、見ただけで何かが大きく変わりそうな数字ではなかった。
「槍を持つ兵を任せると、少しよくなるんですか」
「該当する部隊を指揮した場合に、効果が適用されます」
周の説明を聞き、もう一度読む。
戦う武将としては、分かりやすかった。
ただ、一人増えたから兵まで増えるわけではない。
今の兵を分ければ、一つの部隊は小さくなる。
二部隊分を募集するなら、食料も要る。
札を使う前に思い描いたほど、急に楽になるわけではなさそうだった。
「陸、でいいんだよな」
カイが聞いた。
「はい」
「俺はカイ。よろしく」
陸は一礼した。
カイは少し待ってから、俺を見た。
「部屋、案内してくる?」
「周さんにお願いしよう。装備を置く場所もあるだろうし」
周が入口を示すと、陸は指示に従って歩き出した。
扉が閉まる。
カイはもう一度、自分の名前が並ぶ武将の一覧を覗いた。
「増えたな」
「うん」
そこには、確かに新しい一人がいた。
*
同盟の連絡欄を開くと、玄の結果が先に書かれていた。
『Rでした。騎兵向きみたいです。今、騎兵を用意してないので、すぐには使えません』
俺は少し笑ってしまった。
期待して札を使い、出てきた武将を見てから、必要なものが足りないと気づく。
こちらと、そう変わらなかった。
『こちらもRです。槍兵向きでした。陸という武将です』
能力をそのまま全部書くか迷った。
数字だけ並べても、比較しづらい。
まずは得意な仕事と、今の配置に困っていることを添えた。
『指揮官は増えましたが、兵を二部隊に分ける余裕がないので、当面は一人ずつ出すことになりそうです』
玄から返事が来る。
『うちもです。二人目が来たら解決すると思ってたんですが』
俺も、そう思っていた。
武将が足りないと感じているときは、武将だけ増えればよく見える。
増えると、今度は兵や食料が足りない。
画面を見ながら、陸の配置候補を開く。
畑へ入れた場合の生産量が表示された。
カイより、少し低い。
それでも、誰も置かないときよりは増える。
出兵しない間は、こちらを手伝ってもらえばいいのかもしれない。
そのことを書こうとしたところで、葉から通知が来た。
『SRでした』
俺は指を止めた。
カイも画面を見た。
「上のやつ?」
「うん」
続きが来るまで、二人で待った。
*
『陶真という内政武将です。少し待ってください。説明を確認しています』
葉の文章は、そこで止まった。
俺は登用の確率を開き直した。
SR。
出ないわけではない。
けれど、俺と玄が続けて引いたRより、ずっと小さな数字だった。
同じ一枚を使ったのに。
一瞬そう思って、すぐに連絡欄へ戻った。
『おめでとうございます。何が得意なんですか』
玄も同じようなことを書いていた。
葉の返事は、少しして届いた。
『施設の生産を補助する技能があります。戦う方の数字は、あまり高くないです』
続いて、技能の説明が書き込まれた。
担当する生産施設の効率を上げるものだった。
その下に、葉が自分で確認した内容が添えられる。
『畑で試すと、今の担当を置いたときより増えます。ただ、ほかの畑まで全部上がるわけではないみたいです』
俺は周を呼んだ。
戻ってきた周に文章を見せ、意味を確認する。
「担当させた施設だけ?」
「記載された条件では、そのようになります」
「同盟全体には?」
「その効果は記載されておりません」
俺は頷いた。
SRが出たと聞いて、何となく城全体が一気に変わるように考えていた。
実際には、どこへ配置するか決める必要がある。
それでも、その一か所の増え方が大きい。
『今、配置する前と後を紙に書いています』
葉の追記を読み、俺も紙を引き寄せた。
名前と等級だけでは、使い方までは分からなかった。
*
昼前、三人の結果が連絡欄に揃った。
俺は陸の内政への配置も試し、決定する前の数字を確かめた。
玄は騎兵向けの武将を、今いる兵に付けた場合も調べていた。指揮はできても、騎兵に関する技能は働かないらしい。
葉は陶真を畑と、別の生産施設で比べていた。
途中から、誰がいいものを引いたかという話ではなくなっていた。
『この技能、配置しただけで働くんですよね』
『説明の下に、担当中とあります』
『部隊へ入れると、その分は外れます』
一つずつ、分かったことが増える。
俺が読み飛ばした説明を、葉が見つけた。
葉が迷った表示を、玄が自分の画面で確かめた。
全員が全部知っている必要はないのだと、そのとき少し分かった。
俺は陸を畑の担当へ置いた。
カイの名前を外し、代わりに陸を入れる。
生産量は少し下がった。
でも、カイが出兵するたびに、担当者がいなくなることはなくなる。
「俺、畑じゃなくていいのか?」
「しばらくは、兵の確認を頼みたい。陸にも、あとで基本の動かし方を見せてもらう」
「一緒に?」
「うん。お前がやったときと比べたい」
カイは頷いた。
陸を呼び、午後の担当を伝える。
「承知」
短く答え、陸は周から作業の説明を受けた。
俺は決定後の生産量を書き写した。
派手には増えなかった。
その代わり、予定を組むときに空けられる時間ができた。
*
午後、葉からまた連絡があった。
『陶真は、いちばん大きい畑へ配置しました。まず食料を安定させようと思います』
その下に、変更前後の数字が並んでいた。
俺は自分の記録と見比べた。
施設の大きさが違うので、そのまま比べることはできない。
それでも、葉の畑の中でどれだけ増えたかは分かる。
『これなら兵を増やせそうですか』
玄が聞いた。
葉の返事は慎重だった。
『すぐ増やすより、少し貯めようと思っています。今まで補充のたびに、建設を止めていたので』
俺はその文章を読んで、東の土地を取った翌朝を思い出した。
少し余裕ができると、すぐ次をしたくなる。
葉はまず、その余裕を残しておくつもりらしい。
『その方がよさそうですね』
玄も返していた。
俺は葉へもう一つ聞いた。
『前に担当していた武将は、外へ出せるようになりますか』
『はい。そちらを次の土地へ出す準備ができます』
それなら、話が進む。
SRの陶真自身が戦いに出る必要はない。
城で仕事を受け持つことで、別の武将を動かせる。
俺の城で陸を畑へ置いたのも、小さいながら同じことだった。
技能だけを眺めていたときより、新しい武将が来た意味が分かった。
*
夕方、地図を三人で確認した。
同じ机にはいない。
土地の位置を連絡欄へ送り、それぞれ自分の画面で開いている。
葉が次に取りたい場所は、昨日話した候補地だった。
その先に、別の土地が続いている。
俺は試しに、その一つを選んだ。
自分の領地とは接していない。
けれど、葉がすでに持っている土地には接していた。
取得の候補として選べる表示になっている。
「ここ、俺でも取れるんですね」
周へ確認した。
「はい。同じ同盟に所属する方の領地に隣接しております」
説明では聞いていた。
こうして選ぶと、急に意味が変わった。
自分の城から、全部つないでいく必要がない。
葉が持っている土地の先へ、こちらからも進める。
玄も同じ場所を開いたらしい。
『俺の方からも選べます』
連絡欄に書かれた。
葉から、少し遅れて返事が来る。
『それなら、私が全部取らなくてもいいんですね』
俺は行軍時間を開いた。
数字は長かった。
取得できることと、すぐ着くことは別らしい。
『ただ、ここからだと移動に時間が掛かります。出す前に、往復と食料を確認したいです』
書いてから、葉が次に取る予定の土地をもう一度見た。
勝手にその先へ進めば、また同じ問題になる。
『葉さんが取りたい場所を先に残して、その外側を分担するのはどうでしょう』
玄が賛成した。
葉からも了承が来た。
昨日決めた土地の相談が、もう必要になっていた。
*
地図を少しだけ遠くまで動かした。
三人の城が、画面の端へ寄る。
その向こうには、所有者のいない土地が続いていた。
土地が空いているだけではない。
城の印そのものが、途中から少なくなる。
「この辺、誰もいないんですか」
「君主様の城が配置されていない地域もございます」
周が答えた。
世界には三千五百人いる。
その数字を聞いたときは、どこへ行っても誰かがいるように思った。
実際には、そうではなかった。
葉の領地から先を追っていくと、見慣れない印があった。
開く。
砦。
所有者の欄には、同盟の名前がない。
未攻略だった。
俺は位置を連絡欄へ送った。
『この先に、砦があります』
すぐには返事が来なかった。
玄も葉も、情報を開いているのかもしれない。
俺も守備の欄を見た。
今まで取った土地とは、数字が違った。
新しい武将が一人増えたくらいで、そのまま向かえる相手には見えない。
『見えました』
葉から返事が来る。
『今の兵だと、難しそうですね』
玄も同じ感想だった。
俺は頷いてから、文字にした。
『今日は場所だけ記録しておきましょう』
*
夕食の前、朝から書いた紙を並べ直した。
俺のところにはRの陸。
玄のところにもRが一人。
葉のところには、SRの陶真。
結果だけ見れば、葉が一番よかった。
少し羨ましいのは、まだ変わらない。
次は自分にも出てほしいと思う。
ただ、その横には、三人で確かめた配置の効果と、次に進める土地が書かれていた。
札を受け取った朝には、知らなかったことだった。
カイが広間へ入ってきた。
「陸、畑の仕事は分かったって」
「そっか。兵の方は?」
「明日、少し一緒にやる」
「頼む」
カイは椅子に座り、机の地図へ目を落とした。
「その印、何?」
「砦。葉さんの土地の先にある」
「行くのか?」
「まだ。どのくらい必要かも分かってない」
カイは守備の情報を覗いた。
「多いな」
「うん」
俺は地図の端に、見つけた場所を書き留めた。
その下に、確認することを一つ加える。
砦の攻略に必要な兵と準備。
同盟の連絡欄には、葉から最後の報告が届いていた。
『今日の生産分を確認できました。明日も同じ配置で進めます』
俺も自分の予定を書いた。
玄からも返事が来る。
三人とも、明日すぐ砦へ向かうわけではない。
まずは補充と建設と、城の仕事だった。
俺は紙を重ねた。
砦の位置を書いた地図だけは、いちばん上へ置いておいた。




