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募集

第十四話 募集の一文


 最初に書いた紹介文は、ひどく立派だった。


『北西を発展させるため、共に歩む仲間を募集しています。初心者歓迎。互いに助け合い、安心して城を育てられる同盟を目指します』


 読んでみる。


 悪いことは書いていない。


 ただ、俺が何をするつもりなのかは、よく分からなかった。


「ほかのところと同じだな」


 カイが言った。


「参考にしたから」


「どこを?」


「いくつか」


 カイはもう一度読んだ。


「何を助けるんだ?」


 俺は答えようとして、止まった。


 兵を送る。


 資源を融通する。


 やり方を教える。


 どれも、今すぐ何でもできるわけではない。


「土地の相談とか」


「それ、書けばいいじゃん」


 紹介文を全部消すのは惜しかった。


 しばらく眺めてから、後半だけ消した。


 結局、前半も消した。


     *


 玄には、設立を考えていると伝えてあった。


 返事は朝のうちに来た。


『相談ならできます。今日はこちらの土地を取る予定なので、詳しい返事は夕方になると思います』


 急がせないように、了承だけ返した。


 昨日は俺の部隊が出ていた。


 今日は玄の部隊が出る。


 同じ場所にいるように思えても、手が空く時間まで同じではない。


 俺は新しい紙を用意した。


 何をするか。


 何は、まだできないか。


 二つに分けて書こうとして、見出しだけで止まった。


 カイは畑へ行っていた。


 周に聞けば、機能の説明はしてもらえる。


 けれど、誰を集めたいかは、自分で決めるしかなかった。


 地図を開く。


 自分の城。


 玄の城。


 少し離れたところにも、別の城がある。


 まだ書簡を送ったことはない。


 どんな人間がいるのか分からない。


 強い人が来てくれれば助かる。


 知識のある人も欲しい。


 そう書きかけて、手が止まった。


 それでは、自分に足りないものを持った人を探しているだけだった。


 こちらから何を渡せるのか。


 机の上を見回す。


 出兵の記録。


 施設の生産量。


 玄と決めた土地の位置。


 大した量ではないが、何もないわけではなかった。


 俺は紙に書いた。


 近隣の土地の予定を、先に相談する。


 自分が確かめたことを伝える。


 分からないことは、分からないと答える。


     *


 昼過ぎ、短い案を玄へ送った。


『近くの城同士で、土地を広げる方向や出兵予定を相談する同盟を考えています。兵を出すときは、その都度、出せるか確認する形にしたいです』


 募集文ではなく、方針の相談だった。


 送った後、設立に必要な項目を埋め始める。


 加入申請は、確認してから受け付ける形にした。


 誰でもすぐ入れる方が人数は増えるのかもしれない。


 ただ、場所が遠かったり、求めている活動が違ったりしたら、入った後で困る。


 紹介文だけで全部伝わるとは思えなかった。


 俺自身、募集を見てから何度も質問した。


 同じように、先に話せる余地を残したかった。


 名前の欄へ移る。


 何も浮かばなかった。


 北西。


 端。


 開拓。


 近所。


 紙へ並べてみる。


 どれも、名前というより場所の説明だった。


「何を書いてるんですか」


 周に聞かれたのではない。


 玄から届いた書簡の通知で、俺は顔を上げた。


 まだ夕方にはなっていなかった。


『出兵の確認は賛成です。あと、同盟に入っても、近くの空き地を全部取っていいわけではないと決めてほしいです』


 俺は苦笑した。


 昨日の話が、まだそのまま残っている。


 当然だった。


 同盟という名前が付いても、玄の石材不足が消えるわけではない。


『土地は、近くの城へ事前に相談する形でどうでしょう』


 返す。


 少しして、返事が来た。


『全部だと、毎回返事を待つことになりませんか』


 俺は紙から顔を上げた。


 確かにそうだった。


     *


 夕方、玄との書簡が何度か往復した。


 取る土地を一つずつ聞くのか。


 進みたい方向を、まとめて伝えるのか。


 返事が来なければ、いつまで待つのか。


 揉めたとき、誰が決めるのか。


 一つ決めると、別の疑問が出た。


 俺はだんだん、自分たちで同盟を作ると言わなければよかった気がしてきた。


 助け合う、と書くだけなら簡単だった。


 その中身を決めようとすると、昨日の土地の話が何度も戻ってくる。


 カイが畑から帰ってきたとき、机は紙で埋まっていた。


「まだ名前?」


「名前まで行ってない」


「朝も書いてなかった?」


「今は、土地を取るときの決まり」


 カイは紙を一枚持ち上げた。


 途中まで読んで、置く。


「長い」


「短いと、分からないだろ」


「長くても、俺は途中で分からなくなった」


 言い返せなかった。


 俺も、書いた順番を見失いかけていた。


「昨日みたいに、近かったら聞けばいいんじゃないのか?」


「近いって、どこまで?」


 少し強く聞き返してしまった。


 カイは地図を開いてくれと言った。


 俺が表示すると、玄の城と自分の城の間を指す。


「お互い、こっちへ行くんだろ。だったら聞く。向こう側へ行くなら、あんまり関係ないんじゃない?」


 厳密ではない。


 けれど、最初に決めることとしては、そのくらいの方が分かりやすかった。


 俺は玄へ送り直した。


『当面は、互いの城の間へ広げる場合に相談する形にしませんか。ほかの場所まで全部、許可を取る形にはしないで』


 返事は、今までで一番早かった。


『それなら分かります』


     *


 規則を全部決めようとするのは、やめた。


 最初に必要なことだけ、三つに絞る。


 近くの仲間と進路が重なるときは、先に相談する。


 共同の出兵は、参加できるか確認してから決める。


 できない約束をせず、返事に時間が掛かるときは伝える。


 それでも抜けはあるだろう。


 人が増えたら、別の問題も出る。


 玄へそう書くと、同じ意見が返ってきた。


『最初から全部は分からないので、増えたら直すのでいいと思います』


 俺は長く息を吐いた。


 許可をもらったわけではないのに、少し楽になった。


 続いて、玄から土地の取得報告が来た。


 南側の候補地を取れたらしい。


 兵は減ったが、部隊は帰還中だという。


 俺は地図を開いた。


 自分の色の南側に、玄の色が付いている。


 先日まで取り合っていた一つの場所の近くで、それぞれ別の土地を持てた。


 もちろん、これでずっと足りるわけではない。


 また進路が近づくかもしれない。


 けれど、今は二人とも、石材が増える場所を確保できた。


『取得できてよかったです』


 送ってから、もう一つ書いた。


『同盟ができたら、入ってもらえますか』


 この一文だけは、少し時間が掛かった。


     *


 夕食の間、返事は来なかった。


 カイは食べながら、俺が何度も表示を見ているのに気づいていた。


「まだ?」


「うん」


「帰ってる途中なんじゃない?」


「玄本人が出たわけじゃないと思う」


「じゃあ、飯かも」


 俺は椀を持ち直した。


 確かに、それだけのことかもしれない。


 返事が遅いと、断り方を考えているのではないかと思う。


 昨日、自分が募集への返事を迷った時間は、都合よく忘れていた。


 食べ終わる頃に、通知が来た。


『その方針なら入ります。ただ、いつでも部隊を出せるわけではないので、そこはお願いします』


 俺はすぐ返した。


『もちろんです。こちらも同じです』


 画面を閉じる前に、カイへ見せた。


「入ってくれるって」


「よかったな」


「うん」


 そこでようやく、名前がまだないことを思い出した。


     *


 結局、同盟名は「西端」にした。


 北西の端にあるから。


 玄へ候補を送ると、分かりやすくていいと返ってきた。


 カイは、短くて覚えやすいと言った。


 俺もそれ以上は考えなかった。


 立派な名前に中身を追いつかせるより、今いる場所が分かる方がいい。


 設立画面へ入力する。


 紹介文は、朝よりずっと短くなった。


『北西の端で城を育てている、近隣の君主を募集します。土地を広げる方向や出兵予定を相談し、分かったことを共有するための同盟です。共同出兵は、その都度参加を確認します。まずは城の位置と、今困っていることを教えてください』


 最後の一文を読んで、少し迷った。


 困っていることを聞いたら、解決しなければならない気がする。


 その下に付け足した。


『こちらも始めたばかりなので、できることを相談しながら進めます』


 玄へ見せる。


 了承が返る。


 決定の前に、条件と消費されるものをもう一度確認した。


 以前なら、名前を入れた時点で押していたかもしれない。


 今は、下まで読んだ。


「作るのか?」


 カイが聞いた。


「うん」


 決定を押す。


 画面が切り替わった。


 同盟名、西端。


 所属人数、一。


 自分の名前だけがあった。


 すぐに玄へ知らせる。


 少しして申請が届き、内容を確認して受け付けた。


 人数が二になった。


 それから、募集を投稿した。


     *


 何も起きなかった。


 一覧の中に、自分が書いた文章がある。


 ほかの募集に挟まれて、特別目立つわけでもない。


 しばらく見ていたが、通知は付かなかった。


「今日はもう寝る?」


 カイが聞いた。


「もう少しだけ」


 そう言ってから、同じことを何度も言っている気がした。


 建設が終わるまで。


 返事が来るまで。


 部隊が帰るまで。


 ここでは、待つ時間が思っていた以上に多い。


 俺は机の上を片づけた。


 長くなりすぎた規則の紙は、下へ重ねた。


 三つに絞った方針だけ、上へ置く。


 そのとき、表示の隅に印が付いた。


 書簡だった。


 差出人は、葉。


『募集を見ました。南西に城があります。兵はまだ少ないのですが、話を聞いてもいいでしょうか』


 俺は椅子を引き戻した。


 返信欄を開く。


『もちろんです』


 そこまで書いて、続きの言葉を考えた。

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