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決意

第十三話 入るか、集めるか


 同盟の募集は、夜になっても流れていた。


 人数の多いところ。


 始めたばかりの君主を集めているところ。


 拠点の位置や、参加できる時間を細かく書いているところ。


 前に見たときは、ほかにも俺と同じような人間がいることだけで、しばらく画面を眺めていられた。


 今は、書いてある条件が気になった。


『北西方面で活動中。近隣の君主を募集しています』


 その下に、拠点の目安が載っている。


 俺の城からは、少し遠い。


 もっと近い募集はないかと思い、一覧を下へ送った。


 似たような文章が続く。


 どれも、助け合おうと書いてあった。


「どこか入るのか?」


 カイが椀を片づけながら聞いた。


「考えてる」


「玄のところ?」


「玄も、まだどこにも入ってない」


「じゃあ、誰のところ?」


「そこから探してる」


 カイは俺の向かいに座った。


 画面を見て、すぐ眉を寄せる。


「多いな」


「多い」


「全部読むの?」


「……近そうなところだけ」


 そう答えたが、近いという条件だけでは選べなかった。


 入った後に何をするのか。


 誰が決めるのか。


 自分の城から兵を出す必要があるのか。


 短い募集文には、そこまで書かれていない。


     *


 翌朝、周に同盟の項目を説明してもらった。


 加入する。


 設立する。


 申請を確認する。


 いくつもの欄がある。


「入ると、城が一緒になるんですか」


「各君主様の城と領地は、それぞれ管理していただきます」


「誰かが勝手に、俺の兵を動かしたりは?」


「ご自身の部隊への指示は、君主様が行います」


 少し安心した。


 ただ、画面の機能でできないことと、人に頼まれたときに断れるかは、別の話だった。


「同盟の指示に従う、って書いてあるところもあります」


「運営方針は、各同盟が定めております」


 俺は募集文へ戻った。


 同じ同盟という名前でも、中身まで同じではないらしい。


 人数が多ければ安心だと思っていた。


 けれど、遠くの大勢より、昨日の玄の方が何かあったときに話しやすい気もした。


 その玄とは、まだ一度会っただけだ。


 何を基準にすればいいのか分からなかった。


 ひとまず、気になった募集へ書簡を送ることにした。


『北西の端に城があります。加入を考えているのですが、普段の活動範囲と、参加に必要なことを教えてもらえますか』


 場所を添える。


 昨日の書簡より、送るまでに時間は掛からなかった。


 最初から全部決めようとせず、聞けばいい。


 それくらいは覚えたらしい。


     *


 返事を待つ間に、東の土地へ出る準備を進めた。


 カイの状態は戻っていた。


 兵は二十。


 食料の残りと、帰還までに使う分を確認する。


 玄にも書簡を送った。


『準備が整ったので、今日、予定の土地へ向かいます』


 少しして、返事が来る。


『了解です。こちらは明日の予定です』


 昨日なら、この一言を受け取るために、長いやり取りをしていた。


 今日はそれで済んだ。


 カイに出兵の時間を伝える。


「前と同じ人数?」


「うん。土地の情報も見てほしい」


 二人で守備情報を確認した。


 俺だけで見て、大丈夫そうだと決めないようにした。


 カイは前回のことを思い出しながら、行き先と進路を確かめる。


「草地の向こうって、この辺か」


「たぶん。現地で違ったら、無理しないで」


「分かった」


 その返事を聞いてから、編成を決定した。


 玄と話がついたからといって、土地が自動で手に入るわけではない。


 そこは、前と同じだった。


     *


 カイを送り出した後、同盟から返事が来た。


 差出人は葛城。


 北西開拓会という同盟の、募集を担当しているらしかった。


 文章は丁寧だった。


『場所を確認しました。こちらの主な活動範囲からは離れていますが、加入は可能です。基本は近隣同士で支援し、全体で攻略する場合は予定を相談しています』


 続いて、普段の活動について書いてあった。


 土地を広げるときの連絡。


 砦を攻略するときの集合。


 部隊を出せる時間の確認。


 募集文よりずっと分かりやすい。


 嫌な条件には見えなかった。


 俺はもう一つ聞いた。


『この場所だと、何かあったときに支援を受けるまで、どれくらい掛かりますか』


 地図を見れば、移動に時間が掛かることくらいは分かる。


 それでも、相手の見方を知りたかった。


 返事はすぐには来なかった。


 その間、カイの部隊は目的地へ向かっていた。


 俺は地図を広げ、同盟の活動範囲まで表示を動かした。


 城がいくつも集まっている。


 こちらの端には、間を空けてぽつぽつとあるだけだった。


 地図を広く見るほど、自分の城が小さくなる。


 昨日は隣の城まで歩くだけで、それなりに時間が掛かった。


 この距離を、助けてほしいと言ってから来てもらうのは難しそうだった。


     *


 葛城からの返事は、思っていたより率直だった。


『すぐに部隊を届けるのは難しいです。加入してもらえれば情報共有はできますが、その位置では、まず近くの君主同士で備えてもらう形になると思います』


 俺は文章を読み直した。


 何でも助けると書かれるより、少し信用できた。


 ただ、入れば安心という話ではなかった。


『加入する場合、こちらもそちらの攻略へ向かう必要がありますか』


 さらに聞く。


 返事には、全員が毎回参加するわけではないこと、参加できる範囲で相談することが書かれていた。


 それから、今後は北西の内側へ向けて活動を広げたいともあった。


 俺の城から見れば、東寄りだ。


 自分が困ったときにすぐ支援が来るわけではない。


 けれど、こちらからは遠くの攻略に参加する機会がある。


 不公平だと言いたいわけではなかった。


 その同盟には、その同盟の進みたい方向がある。


 そこへ俺が入って、同じ方向を向けるかという話だった。


 俺は今、自分の城のすぐ隣で、石が足りるか考えている。


 同じ北西というだけでは、見ている距離まで同じにはならないらしかった。


     *


 東の土地は、その日のうちに取れた。


 報告には勝利と出た。


 兵の損失は一人。


 カイは帰還中だった。


 嬉しいという気持ちの後に、また減ったのかと思った。


 それでも前回より、報告のどこを見るべきかは分かっていた。


 玄へ取得したことを知らせる。


 南側へは進まないと、念のため付け加えた。


『了解です。ありがとうございます』


 返事の後に、別の書簡が届いた。


『同盟、どこか見つかりましたか』


 俺は少し迷ってから、今聞いているところがあると答えた。


 相手の名前と、活動範囲だけ伝える。


 玄からは、同じ募集を見たことがあると返ってきた。


『人数がいるので、気にはなってました』


『ただ、ここからだと遠いみたいです』


『それは思いました』


 短いやり取りだった。


 昨日までは、一文ごとに相手の意図を悪く考えていた。


 今日は、俺が気になったことを、玄も気にしていると分かった。


 俺は少し考え、次の書簡を書いた。


『近くの城だけで集まる方が、やりやすいのかもしれません』


 送る前に、しばらく眺めた。


 それは、誰かが作ってくれるのを待つ話なのか。


 自分で作るつもりなのか。


 まだ決めていなかった。


     *


 カイが帰ってきたのは、夕方だった。


 腕や足に大きな怪我はなかった。


 食事の席で、東の土地の様子を聞く。


 思っていたより地面が硬かったこと。


 守備兵がいた場所。


 帰りに通った道。


 話を記録した後、同盟の書簡も見せた。


「ここに入る?」


 カイが聞いた。


「まだ迷ってる」


「何で?」


「人はいるし、いろいろ知ってそうだけど、遠い」


「玄は近いぞ」


「うん。ただ、俺たち二人で集まっても、どっちも詳しくない」


 カイは椀を持ったまま考えた。


「でも、昨日の土地は決まっただろ」


「あれは、二人だけの話だから」


「最初は二人でいいんじゃない?」


 言われて、黙った。


 俺は同盟という言葉を見たとき、たくさんの城をまとめる姿を考えていた。


 知らない人に指示を出し、遠くの砦へ兵を集める。


 今の自分にできる気はしない。


 ただ、玄と進路を相談することなら、もうしている。


 カイは椀を置いた。


「何人いたら同盟なんだ?」


「……そこも、まだ調べてない」


「調べれば?」


 俺は周を呼んだ。


     *


 設立の画面には、条件と手続きが並んでいた。


 今の城でも、準備すれば作れる。


 けれど、押せば仲間が集まるわけではなかった。


 名前。


 紹介文。


 加入の受け付け方。


 空欄を眺める。


「作ったら、俺が説明するんだよな」


「設立者として、加入を希望される方への対応が必要になります」


 周の答えを聞いて、画面を一度閉じた。


 誰かの同盟に入れば、自分が全部考える必要はない。


 その代わり、相手の方針を確かめ、自分にできることを伝える必要がある。


 作るなら、その説明をこちらが用意する。


 どちらにも、分からないことは残る。


 机の紙に、一行だけ書いた。


 近くの城と、土地や出兵の予定を相談する。


 今、欲しいのはそれだった。


 遠くまで名前を広めたいわけではない。


 誰かに全部任せたい気持ちはあったが、それができないことも、少しずつ分かってきた。


 玄へ、さっきの書簡を送った。


 返事は、しばらくして届いた。


『近くで集まるなら興味はあります。ただ、何をする同盟かは決めた方がいいと思います』


 もっともだった。


 俺はその下に、もう一行書いた。


 できないことを、できると約束しない。


 それから葛城へ、丁寧に説明してもらった礼を送った。


『近隣で相談してみたいので、今回は加入を見送ります。いろいろ教えていただき、ありがとうございました』


 送信した後、少し不安になった。


 受け入れてくれる場所を、自分から断った。


 まだ、自分たちの場所はない。


 俺は空欄の多い設立画面を、もう一度開いた。

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