半数
第百五十五話 相談のない合併
天統連盟の人数は、地図を開き直すたびに増えていた。
第一世界と第二世界から来た城が、次々に同じ旗へ移る。
近隣の道が繋がる。
離れた地域でも、同じように道が伸びる。
最初は、見事な準備だと思った。
半年、先を進んでいた世界。
こちらより早く統合を経験し、次に備えていた人々。
その差を、見せられているのだと。
だが、葉から届いた記録を読むと、別のものが見え始めた。
『複数の場所で、同じ順序の取得が進んでいる』
『生活に必要な土地より、通路の確保を先にしている城が多い』
俺は、北の道を拡大した。
高い資源地を横へ残し、細い道だけが伸びている。
その先には、こちらの仲間の城があった。
*
宗吾から連絡が入った。
『北の三城へ、守備を寄せたい』
俺は頷きかけ、書簡だと思い出して返事を書いた。
まだ敵意が確定したわけではない。
だが、確認するまで無防備で待つ理由もない。
前へ出す部隊と、留守へ残す部隊を分ける。
岳が、今使える退路を調べ始めた。
晴から、岩成を出せるという返事が届いた。
巨嶽は別の城を守る。
蒼波も、必要な場所へ向かわせたいという。
俺は位置を合わせた。
宴で別れたばかりの仲間へ、もう守備の相談をしていた。
*
天統連盟から書簡が来た。
言葉遣いは丁寧だった。
『新世界の安定的な運営に向け、主要通路および周辺地域の管理を開始します』
続けて、こちらへ土地の取得を控えるよう求めている。
対象の範囲を見た。
北西連盟の城が、いくつも含まれていた。
俺は最後まで読んだ。
相談の日時はない。
代わりに、従わない場合の扱いが記されていた。
『進軍を妨げる行為については、必要な排除を行います』
俺は筆を取った。
今そこに城を置く者がいる。
通る必要があるなら、経路を示してほしい。
こちらの城へ向けた進軍は止め、まず話をしたい。
書き終えて、すぐ送った。
相手がどう読むかを考えて言い回しを直す時間は、なかった。
*
高瀬からの次の書簡は、長かった。
第一・第二世界が統合してから、返事の変わった人がいたという。
前なら怒ったことを、怒らなくなった。
好んでいた話をしなくなった。
いつも冗談を返していた者が、必要な用件にしか答えなくなった。
忙しいのだと思った。
争いに疲れたのだと思った。
話しかけにくくなり、距離ができた。
そのあと、似た変化がほかの城にも起きた。
『代行になったと分かる者もいました』
『ただ、最初からすべて示されていたわけではありません』
俺は読みながら、王城で見た記録を思い出した。
処置の日時。
その前とあとで、分けられた晴の書簡。
高瀬は最後に、こう書いていた。
『彼らの名前を見ても、そこに本人がいるとは考えないでください』
*
「どのくらいいる」
俺はレンへ尋ねた。
彼は澪を見た。
澪は、外と接続した時に得られた情報と、今の同盟一覧を照合していた。
「まだ確定できない。でも、少数じゃない」
しばらくして、顔を上げる。
「第一・第二世界側の、半数近く」
俺は何も言えなかった。
半分。
その人数を、すぐには想像できなかった。
宴の広場を思い出す。
並んだ卓。
料理を運ぶ者。
手を振る者。
あの光景の、半分から本人がいなくなっている。
「本人の意識は」
「まず、識別を集める」
レンが答えた。
「ここにいる代行を止めることと、外にいる本人を救うことは、別に進められる」
俺は彼を見た。
「攻めてきたら、戦っていいんだな」
「ああ。ただ、同じ旗にいるから全員が代行だとは決めるな」
俺は頷いた。
生身の人も、あそこにいるかもしれない。
事情を知らず加わった者も。
知っていて、それでも離れられない者も。
*
最初の攻撃報告が来た。
北の城へ続く道が、奪われた。
次の報告では、その隣の土地が落ちた。
出てきた兵は、最上級兵だった。
こちらも持っている。
だから、それだけで負けるとは思わなかった。
守備に入れた隊の記録が届くまでは。
宗吾から、短い説明が来た。
『数だけではない。育成と装備の差が大きい』
最大まで育てたスキルを持つ武将。
整えられた専用装備。
十分な兵数。
俺たちが王城へ向けて苦労して揃えたものを、向こうは複数の隊で持っていた。
半年という時間が、ようやく具体的な形になった。
*
俺が送った交渉の書簡へ、返事が来た。
進軍は止まっていなかった。
同じ文面が、少し短くなって返ってきた。
『対象地域の管理にご協力ください』
その下に、合併か配下への編入を受け入れる窓口が示されていた。
俺は紙を置いた。
玄から連絡が入る。
『北の道へ出る。そこで一度受ける』
岳からも。
『戻る道を作る。玄に、追うなと伝えてくれ』
朔は、まだ動かせる資源を確認していた。
葉は敵の進路を重ね、杏は連絡の遅い仲間へ声をかけている。
律から、自分の城へ近い部隊を預かれるという返事が来た。
七人の連絡が、机の上へ揃った。
*
瀬名へ知らせた。
北西で、交戦が始まった。
敵の兵と装備の記録を添える。
そちらは、まず仲間の位置を確かめてほしい。
今ある守備を、急いでこちらへ送らないでほしい。
途中の道が、まだ分からない。
返事は、すぐに来た。
『記録を共有します。近い同盟と連絡を取っています』
『無理に一つで抱えないでください』
俺はその文を読んだ。
桃の庭で、返事をすると約束した相手だった。
返事は、来た。
だが、兵が来るまでには道が要る。
距離を越える時間も要る。
その間、誰かがここにいなければならなかった。
*
城門の外で、出陣する兵の声がした。
沈烈が列を確かめている。
カイが剣を帯び、レンが槍を取った。
澪は、届いた地図をもう一度見た。
俺は宗吾へ返事を送った。
『北の三城を守る。前へ取りに行く必要はない』
書き終えてから、一文足す。
『帰還路を、必ず残してくれ』
送った。
昨日まで持っていた宴の匂いは、もう服から薄れていた。
代わりに、門の向こうから土の匂いが入ってきた。
新しい世界で、最初の部隊が出ていった。




