↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
148/200

無理やり設定はめこんだ感じやで

第百四十八話 敵のいる場所


 記録を閉じるように言った者は、いなかった。


 途中で休もうという声も出なかった。


 俺は水を飲み、もう一度表示へ向き直った。


「除外を決めたのは、仕組みだけじゃない」


 個別記録の下に、承認の履歴があった。


 候補の抽出。


 内容の確認。


 処置の承認。


 最後の欄には、主任観測官の識別記号が記されている。


「誰かが、見て決めてる」


 巌が低く息を吐いた。


「なら、そいつに聞かせろと言いたいところだな」


 俺も同じことを思った。


 この城のどこかにいるなら、探しに行きたかった。


 だが、所在地の欄には、城の座標がなかった。


『箱庭外管理領域』


     *


 内門を守っていた四人の記録もあった。


 趙雲。


 関羽。


 張飛。


 呂布。


 そして、董卓。


 それぞれに、守将としての役割と能力が記されている。


 董卓の頁を開くと、復活の対象に各地の大城を含めた理由があった。


『集中攻略後の広域危機への対処を観測』


 俺は、そこで一度読むのを止めた。


 皆が続きを待っている。


 俺は声を整えた。


 主力を王城へ集めたあと、各地で同時に軍を発生させる。


 参加同盟が兵を戻すか。


 王城に残るか。


 協力関係を維持するか。


 危機の中で、どの集団を優先するか。


 それらを確かめるための仕組みだった。


 瀬名が、両手を組んだ。


「こちらがどう困るかを、よく知っていますね」


 穏やかな声だった。


 その分、怒りが分かった。


 真砂は視線を落としていた。


 輸送を変え、倉庫を開き、逃げる人を荷車へ乗せた。


 その判断の一つひとつも、向こうでは資料になっている。


     *


「董卓が、敵の親玉じゃなかった」


 晴が言った。


「ああ」


 俺は頷いた。


 あれを倒せば、攻撃は止まった。


 止めなければ、もっと失っていた。


 だが、なぜあの攻撃が始まるように作られていたのか。


 そこには、別の相手がいた。


 董卓を置いた者。


 大城から兵を出すと決めた者。


 その結果を、こちらの外から見ている者。


 王城の奥まで来れば、世界を動かす相手へ届くのだと思っていた。


 実際には、相手が残した記録へ、ようやく手が届いたところだった。


     *


 別の頁に、俺の名があった。


 北西の再編に関する評価だった。


 俺は一瞬、開くのをためらった。


「読めるなら、読んで」


 律が言った。


 俺は頷いた。


 情動制限の解除後、北西を起点として協力が広がったこと。


 有力な旧盟主たちが、自分から調整へ動いたこと。


 人数条件を満たすための強制的な配下化が、北西では主な手段にならなかったこと。


 予測より早く、戦争の発生が抑えられたとあった。


 最後に、評価が記されていた。


『傑物と評価するに足る。ただし、成果を当該個体単独の能力へ帰属させることは困難』


 俺は、そのまま読み上げた。


 玄が顔をしかめた。


「褒められても、全然嬉しくないな」


「ああ」


 自分が認められたから、少し安心する。


 そんな気持ちが出てきたら嫌だと思った。


 同じ場所で、別の人間には不適格と書かれている。


 俺が評価されることと、その人が外されたことは、同じ基準の両側にあった。


     *


「私たちが、今この話をしていることも?」


 葉が尋ねた。


 閲覧の履歴を開く。


 記録されていた。


 誰が権限を使ったか。


 どの項目を開いたか。


 何時に照会したか。


 その先の観測範囲までは読めなかった。


「少なくとも、何を読んだかは残ってる」


 俺は答えた。


 部屋の空気が変わった。


 天井を見る者がいた。


 入口を振り返る者もいた。


 俺も、一度だけ周囲を見た。


 どこから見ているのかは分からない。


 ここにいないことさえ、記録を信じる以外に確かめようがなかった。


 俺は、もう一度机へ向かった。


「問い合わせは、送れるか」


 照会の窓口を探した。


 直接の会話を開く機能はない。


 意見を送る欄だけがあった。


 回答を保証しないと、書かれていた。


     *


 俺は、何も書かずに皆へ向き直った。


「俺の名で送るだけなら、今できる。でも、ここで全員の意思を決めたことにはしたくない」


 瀬名が頷いた。


「まず、事実の照会として揃えましょう」


 求めるものを、書き出した。


 除外された意識の現在の状態。


 戻す方法の有無。


 本人の意思を確認した記録。


 今も同じ処置が続いているか。


 そして、今後の除外を止めること。


 最後の項目を見て、真砂が口を開いた。


「要求が認められる保証はありません」


「分かってる」


「逆に、こちらを不適格とするかもしれない」


 誰も笑わなかった。


 それでも、紙を引っ込める者はいなかった。


 巌が言った。


「それを怖がって、こっちから人数を選び始めたら、向こうの手伝いだろ」


 千景が静かに頷いた。


「暮らし方を変えろと、同盟員へ命じるつもりはありません」


 俺は要求を書いた。


 送る前に、全員へ読み上げた。


     *


 送信が終わった。


 返ってきたのは、受付の表示だけだった。


 俺はしばらく待った。


 何も変わらなかった。


 晴が古い書簡を畳んだ。


「今は、連れて帰れないんだね」


 俺は頷いた。


「今読める記録だけでは、方法が分からない」


「うん」


 彼女は、その紙を捨てなかった。


 胸元へしまい、立ち上がった。


 俺たちも記録をまとめた。


 何が書かれていたか。


 何が分からなかったか。


 ここから先に、何を求めるか。


 城へ帰れば、伝えなければならない。


     *


 王城の門を出る時、玄が中央の建物を振り返った。


「次は、どこを攻めればいいんだろうな」


 誰も、すぐには答えられなかった。


 この世界の地図に、管理局の城はない。


 主任観測官の兵も見えない。


 攻める道を伸ばす場所さえ、分からない。


 岳が言った。


「まず、向こうへ届く道があるか、調べる」


 朔が続けた。


「記録も集めたい。同じ理由で外されたのか、違う例があるのか」


 瀬名は、持ち帰る紙を確かめていた。


「ほかの同盟にも伝えます。こちらだけ知っておけばよい話ではありません」


 俺は皆を見た。


 怒っている。


 怖がってもいる。


 それでも、次にすることを話していた。


 俺は王城から目を離した。


「戻ろう。まず、皆に話す」


     *


 箱庭の外で、男が届いた要求を読んでいた。


 画面の端には、王城の閲覧履歴が並んでいる。


 個別管理記録。


 実証計画。


 処置承認。


 北西の評価。


 記録担当が尋ねた。


「回答を作成しますか」


 男は、しばらく黙っていた。


 やがて、要求の一行を指した。


 今後の意識除外を停止すること。


「ここまでを、自分たちが決めるべきことだと考え始めたか」


「想定外でしょうか」


「いいや」


 男は首を振った。


「王城を越えた者が、説明を求めること自体は想定している」


 もう一度、差出人を読む。


 一人の閲覧者。


 その名に添えられた、複数同盟の賛同。


「ただ、個人的な報酬より先に、他の対象の処遇を要求してきた」


 男は椅子へ背を預けた。


「やはり、評価しにくいな」


 記録担当は、回答を待った。


 男は要求を閉じず、その横に次の統合予定を開いた。


 箱庭の中では、城主たちが帰路についていた。


 彼らはもう、隣の旗だけを見てはいなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。