戦後処理
第百四十五話 帰ったあとの数字
翌朝、勝利の報告より先に、被害の一覧を開いた。
王城へ出した兵。
各地の大城から出現した軍による損害。
失った土地と、壊された施設。
同じ戦いの報告なのに、別々の場所で書かれた文字は、受けたものの違いを残していた。
『城門を突破され、倉庫の一部を失いました』
『隣城へ避難。本人と所属武将は無事です』
『道が塞がれたため、荷を途中で放棄しました』
俺は一通ずつ読んだ。
昨日は、助けに行けるかだけを考えていた。
今日は、そのあとに何が残っているかを確かめなければならなかった。
*
会議には、いつもの半分ほどしか集まらなかった。
眠っている者は、そのまま休ませた。
手当ての必要な武将を抱えている者は、そちらを優先した。
巌の声は、まだ掠れていた。
「南の道は通る。荷を捨てた場所も分かった。残っとる分は回収できる」
真砂が頷いた。
「食糧は先に送ります。兵の補充は、少し待ってもらいたい」
「家と倉庫が先だな」
千景が確認した。
真砂は一覧の順番を入れ替えた。
壊れた門。
雨を防げない屋根。
水と食糧。
その下に、兵と装備が来た。
俺はその順を見て、頷いた。
勝ったのだから、次の戦力を整えたい。
そう思う気持ちもあった。
だが、帰った城で眠れないままでは、続けられなかった。
*
王城の戦果は、遅れて整理された。
最初に表示されたのは、参加の記録だった。
十の有力同盟。
そのほかに加わった小同盟と、単独の城主たち。
直接の交戦に加わった者には、参加ボーナスが確定していた。
その下に、同盟ごとの報酬と、個人の戦果が続く。
登用札。
資源。
装備。
新たな武将を迎えたことで、すでに変わっている編成。
札をすべて使った時には、何も持ち帰れないかもしれないと思った。
実際には、持ち帰った武将たちが庭にいた。
肩へ布を巻き、座っているカイの隣で、澪が弓の弦を外している。
レンは、自分の槍と彼女の矢を並べていた。
俺は窓からその姿を見て、それから数字へ戻った。
*
「兵は、すぐには戻らないね」
葉が言った。
各同盟の損耗を並べた紙は、長かった。
最上級兵を、あれだけ蓄えた。
その多くが、四つの内門と、董卓の復活後の戦いで失われていた。
装備も同じだった。
修理すれば使えるもの。
別の品へ替えるしかないもの。
回収できなかったもの。
岩成の盾は、広げた布の上へ置かれていた。
割れた縁を見ながら、晴がしゃがんでいる。
「直せるかな」
「同じ形には、難しいと思う」
俺が答えると、晴は頷いた。
「じゃあ、ちゃんと新しいのを探そう」
岩成は、横で静かに立っていた。
使えるなら何でもよいとは言わなかった。
晴も、安いものを適当に選ぶつもりではなさそうだった。
*
二日目には、道の報告が揃った。
止まっていた輸送が再開する。
避難していた者が、荷を持って自分の城へ戻る。
城を落とされた場所では、近隣が手を貸し、まず門と生活に使う場所を整えた。
以前の所属が違うからという理由で、順番を後ろへ回されることはなかった。
合併の時に話し合ってきたことが、こういう日に役立つのだと思った。
正臣は倉庫の整理へ出ていた。
奈緒たちは食事をまとめて作り、手が離せない場所へ届けた。
講座は休みになったが、借りていた鍋は休まなかった。
真砂が報告を見て言った。
「教室の道具が、一番よく動いています」
巌が、その横で頷いた。
「食えれば、もう少し働けるからな」
真砂は彼の前へ椀を置いた。
「では、先に食べてください」
巌は素直に受け取った。
*
三日目の夕方、千景が報告を閉じた。
「ひとまず、生活と通常の運営は戻せたと思う」
兵が元通りになったわけではない。
壊れた施設も、仮の修繕で使っているものがある。
それでも、水と食糧が届く。
道が通る。
自分の城で眠れる。
急いで誰かへ助けを求めなければならない場所は、ひとまずなくなっていた。
俺は椅子へ背を預けた。
「ありがとう」
千景がこちらを見た。
「私だけじゃないわよ」
「分かってる。皆にも伝える」
彼女は頷いた。
その時、王城の最終結果が開いた。
*
『王城共同攻略 戦果確定』
各地から提出された記録と、実際の戦闘履歴。
その照合が終わったという知らせだった。
取得した報酬の下へ、新しい欄が現れた。
『勲章順位』
俺は、最初の行を読んだ。
読み返した。
そこに、自分の名があった。
第一位。
すぐには、何を意味しているのか分からなかった。
葉が隣へ来た。
「一位だね」
「……何の合計だ?」
内訳を開く。
参加部隊による戦果。
守将の撃破への関与。
共同攻略中の指揮と支援。
そして、最奥守将の撃破。
董卓の項目が、ひときわ大きかった。
所属武将の名には、カイ、レン、澪と記されていた。
俺は、三人の名を見つめた。
*
晴が知らせを聞いてやってきた。
表示を見ると、顔を明るくする。
「すごい!」
「俺が倒したわけじゃない」
「でも、三人とも、あなたのところの武将でしょ」
「ああ」
「皆で喜べばいいよ」
そう言われ、何かを返そうとして、やめた。
独り占めしたいわけではない。
同時に、彼らがやったことを小さく扱う必要もない。
俺は庭へ出た。
三人は、まだ並んでいた。
「結果が出た」
カイが顔を上げる。
「何かもらえるのか」
「それもある。勲章が、一位になった」
レンが澪を見た。
澪は、弓から目を上げずに言った。
「じゃあ、夕飯は少しよくして」
俺は笑った。
「周に相談する」
「菓子も」
カイが言った。
今度は、レンまで頷いた。
俺は三人を見た。
言いたかったことは、数字の説明より短かった。
「ありがとう」
カイが少し照れたように、視線を落とした。
澪は弦を張り直し、軽く音を確かめた。
レンが、俺の肩へ手を置いた。
「お前も、寝ろよ」
*
その夜、各同盟から確認の返事が揃った。
翌日、王城へ戻る。
今度は兵を率いるためではない。
奥に残された記録を、確かめるために。
晴から届いた参加の返事には、短く一言だけ添えてあった。
『あの城の人のこと、聞きたい』
俺はその書簡を、持っていく荷へ入れた。




