さて
第百四十二話 あいつらのサポート
最初に現れたのは、Rの武将だった。
短い槍を持ち、俺たちの前へ立つ。
晴が能力を開いた。
「歩兵の、防御を上げる」
「こちらへ!」
冬馬が手を上げた。
すぐに連れていかれる。
次の札が光った。
SR。
弓兵を支えるスキルを持っていた。
朱音の側へ回す。
三枚目は、重複だった。
「その武将、あと一人で上がる!」
誰かが声を上げた。
札を引いた城主が、相手を探す。
渡す。
重ねる。
疲れ切った場所に、せわしない声が戻ってきた。
*
SSR以上確定の札を、玄が使った。
金色の光が膨らむ。
「UR!」
声が跳ねた。
「能力を!」
宗吾が叫んだ。
玄が慌てて表示を開く。
「槍兵の攻撃と、隊列維持!」
「沈烈の後ろへ。兵は、三番の待機隊から回す!」
新しい武将が周囲を見回した。
「状況を聞きたい」
「歩きながら説明する!」
玄が連れていった。
喜ぶ時間は、あとだった。
それでも、皆の顔は少し上がっていた。
次が来る。
まだ、何かが出る。
その小さな期待が、手を動かしていた。
*
光で敵を倒せるわけではない。
登用した武将が、兵を連れてくるわけでもない。
疲れた兵が元気になることもなかった。
だが、指揮を引き継げる者が来た。
合う装備を渡せば、すぐに守備へ立てる者もいる。
戻ってきた部隊を組み直し、残る兵へ新しい補正をかける。
沈烈の周囲に、もう一度、前へ出せる列ができ始めた。
岳が風向きを確かめた。
用意できた煙を、広場の片側へ流す。
盾の列が、その向こうを移動した。
登用の光は、二か所、三か所と場所を変える。
光った場所から武将が出る。
別の場所からも、部隊が動く。
どれが最奥へ向かう隊なのか。
守備に、すぐ見分けさせないためだった。
*
俺も、札を使った。
R。
次もR。
どちらも、必要な場所があった。
残る札を取ろうとすると、箱の底に一枚、斜めに挟まっていた。
引き抜く。
光が開いた。
弓を持った武将が現れた。
SRの表示。
俺は能力を確認しようとして、顔を上げた。
「あいつらのサポートは、いつも私なんだから」
女が、ため息をついていた。
辺りを見回す。
カイとレンを見つける。
それから、こちらへ手を差し出した。
「矢、ある?」
「……ある」
「じゃあ、少し」
名は、澪。
俺は表示を見た。
SR。
それから、本人を見る。
澪は俺の視線を気にする様子もなく、弓の張りを確かめていた。
*
カイがこちらへ来た。
レンも続く。
澪は二人を見て、眉を寄せた。
「ひどい格好」
「遅いぞ」
カイが言った。
「引かれるまで出られないんだけど?」
レンが小さく笑った。
俺は三人を見た。
「知ってるのか」
澪が顔を向ける。
「聞くの、今?」
外で、盾が大きく鳴った。
俺は質問を飲み込んだ。
「何ができる」
彼女は、能力の表示を指した。
『スイッチ』
位置の交換。
見えている味方同士を、入れ替える。
俺が読み終える前に、澪がカイの立つ場所を示した。
「そこ、動かないで」
次の瞬間、二人の位置が替わった。
目で追える移動はなかった。
カイがいた場所に澪。
澪のいた場所にカイ。
俺は思わず半歩下がった。
カイは、驚いていなかった。
レンも。
「使える」
沈烈が言った。
三人の奥から、まっすぐ俺を見た。
「道の全部を空けられなくても、切れ目を渡せる」
*
宗吾へ伝えた。
計画を変える。
全員で最奥まで押し通すのではない。
沈烈が兵を進め、視線の通る場所を作る。
巨嶽が、その入口を守る。
澪は弓の届く位置から、二人の進路を繋ぐ。
各同盟には、四将をその場へ留めてもらう。
倒し切らず、動かさせない。
長くは続けられない。
だから、始める時刻を合わせた。
宗吾が、最後の確認を取る。
俺はカイの肩を見た。
包帯を巻き直してある。
「本当に、行けるか」
「行く」
「行けるかと聞いてる」
カイは少し黙った。
それからレンを見た。
澪を見る。
「一人なら、無理だ」
俺はその返事を聞き、頷いた。
*
次の鐘が鳴る時刻は、こちらでは選べない。
ただ、各地で倒された兵が出れば、また軍令は発せられる。
待つ間にも、札を引き続けた。
新しい守備の武将が、岩成の脇へ入る。
育てていたSSRへ、最後の一人が重なる。
部隊を支えるスキルが上限へ届いた。
宗吾が、その発動を攻撃開始へ合わせた。
広間の奥で、音がした。
董卓が命じる。
鐘が鳴る。
各門の守備が、その命令へ反応した。
葉が顔を上げた。
「今」
俺は手を上げた。
登用の光が、煙の向こうで続けて開く。
沈烈の兵が進んだ。
カイとレンが、その列へ入る。
澪が弓を持ち上げた。
「じゃあ、行ってらっしゃい」
矢が、最奥の入口へ飛んだ。




