最後に向けて
第百三十二話 二か月分の兵
四つの内門を調べた記録は、何度読み返しても同じところへ戻ってきた。
趙雲の騎馬は、こちらの隙を見逃さない。
関羽は崩れず、張飛は正面から押し返す。
呂布の部隊へ近づいた時には、受け止めるだけでこちらの兵が大きく減った。
相手の動きを読み、得意な形を避ければ、損耗は減らせる。
だが、減らせるだけだった。
「最後は、数が要る」
宗吾が言った。
誰も、すぐには返さなかった。
彼は記録を一枚ずつ重ねた。
「一隊を強くする準備は、かなり進んだ。武将も、スキルも、装備も。だが、帰還したあとに出す兵が足りない」
波状攻撃は通用した。
外郭へ入れたことが、その証拠だった。
ただ、内門でも同じように続けるには、今よりはるかに多くの兵を用意しなければならない。
最初の隊が戻った時、次が出る。
その次も出る。
削られた部隊を無理に送り直すのではなく、戦える兵を、切らさず前へ渡す。
「四人を避けて通る道は?」
玄が尋ねた。
岳が首を振った。
「今まで見た範囲にはない。探すのは続けるが、あるつもりで準備はできない」
晴は巨嶽の記録を閉じた。
「じゃあ、貯めよう」
その一言は、いつもの出撃の誘いより静かだった。
「次は、途中で兵がなくならないように」
*
真砂が持ってきた計算を見て、玄が顔をしかめた。
「こんなに使うのか」
「作る分だけではありません。訓練を終えた兵を維持する分、運ぶ分、失ったあとに補充する分もあります」
紙の上には、木材、石材、鉄、食糧が並んでいた。
どれか一つだけ増やしても足りない。
兵舎を動かせても、資源が切れれば止まる。
資源があっても、兵の製造が間に合わなければ残ったままになる。
「高資源地を、もう一度洗います」
朔が地図を開いた。
未取得の土地。
守備が強く、後回しにしていた場所。
取得枠の都合で手放されていた土地。
北西にも、まだ使い切れていない場所があった。
「道を作る者と、最後に取る者を分けよう。取得枠を余らせている人にも相談する」
俺が言うと、千景が頷いた。
「持ってもらうなら、そのあとの管理まで説明して。空きがあるから、で押しつけないように」
巌は境界の一角を指した。
「ここは隣も狙っとる。先に話す」
王城を取るために、資源地を巡る戦争を始める。
それだけは避けたかった。
使う土地を話し合い、足りない種類は取引で補う。
掘り出す者も、運ぶ者も、兵を作る者も必要になる。
机の中央から、王城の図が少し奥へ移された。
代わりに、畑と鉱山と道の地図が広がった。
*
数日後、新たな告知が開いた。
『世界統合予定』
俺は、読んでいた書簡を置いた。
律も顔を上げた。
表示された予定日は、三か月後だった。
しばらく、二人とも黙っていた。
また、世界が変わる。
この城はどうなるのか。
今作っているものは、どこまで持っていけるのか。
詳しい条件は、まだすべて出ていなかった。
律が、卓に敷いた布へ手を置いた。
二人で市場へ行った日に買ったものだった。
「三か月か」
「ああ」
以前より長く感じるような、短すぎるような気がした。
窓の向こうには、いつもの庭がある。
そこへカイの声が聞こえた。
「また引っ越しか?」
レンが何か答えた。
俺には聞き取れなかった。
律が表示を閉じた。
「王城、どうする?」
「終わる直前には、したくない」
失敗すれば、それで終わりになる。
取れたとしても、手に入れた記録を読む時間がほしい。
自動代行になった城主について、調べられることがあるなら調べたい。
俺は新しい紙を出した。
「二か月後を、目標にしよう」
*
全同盟へ、日程の提案を送った。
二か月後、王城の本攻略を行う。
それまでに兵を可能な限り蓄え、各地から波状攻撃を続けられる数を揃える。
統合までの残り一か月は、再挑戦や補充、攻略後の確認に使えるよう残す。
返事は、一度では揃わなかった。
『あと十日ほしい』
『その時期なら主力の研究が終わる』
『参加はしたいが、城の守備をどこまで残せばよいか』
『小規模な同盟でも、輸送なら引き受けられる』
葉が返事を分類した。
宗吾が必要な兵を見積もり直す。
真砂が各地の不足する資源を確認し、巌が話の止まった相手へ出向いた。
日程だけを決めるつもりが、その前提となる仕事が次々に現れた。
*
合意が揃った日、俺は文面を三度読んだ。
同じ日を目指して、準備する。
出せる兵と役割を、定期的に知らせる。
無理が出た場合は、直前まで隠さず相談する。
最後に、攻略開始の予定日がある。
俺は署名を入れた。
晴が横から覗いた。
「決まった?」
「ああ」
彼女は嬉しそうに頷いたあと、少し考えた。
「じゃあ、しばらく畑と鉱山だね」
「そうなるな」
「巨嶽にも、高資源地を取りに行ってもらう」
宗吾がすぐに地図を寄せた。
もう、今日の出兵先を選び始めている。
俺は王城の図を壁へ貼った。
その下に、攻略の日を書いた。
皆が一度、顔を上げてそれを見た。
それから、それぞれの仕事へ戻った。




