攻略
第百三十話 いちばん大きな城
王城の外郭で、守備兵が倒れた。
こちらの槍が届き、列の一角が崩れる。
前は、それができなかった。
最上級兵を揃え、武将のスキルを育て、装備を整えた。
ようやく通用するところまで来たのだ。
「押せる!」
前衛から声が届いた。
晴が身を乗り出す。
だが、宗吾は地図を見たまま、手を上げた。
「次の列を確認しろ。追いすぎるな」
倒れた守備兵の後ろから、新たな槍が並んだ。
壁の上で弓が動く。
さらに奥の門が開いた。
俺は、そこから出てくる兵の数を見た。
まだ続く。
崩した場所が、埋まっていく。
昂生の部隊が踏みとどまる間に、朱音の矢が飛んだ。
相手は倒れる。
こちらも減る。
倒せるようになったことと、倒し切れることは違っていた。
「帰還」
宗吾が命じた。
晴の手が止まった。
一瞬、悔しそうに唇を結ぶ。
それでも、巨嶽への指示を変えた。
沈烈が後続を止め、戻る列のために道を空けた。
俺は戦果の表示を閉じた。
戻ってくる部隊を、一つずつ数えた。
*
北西へ帰ってから、宗吾は記録を卓へ広げた。
「攻略できない相手ではない」
最初に、そう言った。
晴が顔を上げる。
「ただ、うちだけでは足りない」
外郭の図へ、確認できた守備を書き込む。
一隊を削るまでに使った兵。
武将が再び動けるまでの時間。
消費した物資。
それを次の門、その先の守備へ当てはめていくと、途中で計算が止まった。
「全力を出せば、もう少し進める」
岳が言った。
「だが、帰る道と、留守の城が薄くなる」
巌が腕を組んだ。
「それで取れんかったら、次がなくなるな」
北西のほぼ全域をまとめた同盟だった。
最上級兵もいる。
URも、最大までスキルを育てたSSRもいる。
それでも、一つの同盟で抱え込める城ではなかった。
俺は瀬名から届いていた書簡を開いた。
向こうも、再度の偵察を検討しているという。
「共同でやろう」
口にすると、宗吾が頷いた。
晴は少しだけ地図を見つめ、それから言った。
「うん。どうやったら取れるか、皆で考えたい」
*
数日後、王城の手前に、いくつもの同盟の旗が並んだ。
城主同士の戦争ではない。
それでも、これだけの兵が集まれば、道の使い方一つで揉める。
先に進む隊。
戻る隊。
物資を運ぶ荷車。
その通路を分けるところから始めた。
瀬名は、こちらの編成を見て笑った。
「ずいぶん重ねましたね」
「その分、ポイントがなくなりました」
「こちらもです」
二人で笑った。
笑い終わると、目の前の城を見た。
強くなった実感はある。
その実感を、もっと大きなものが押し返してくる。
*
提案したのは、単独での戦闘能力に優れる武将を中心とした波状攻撃だった。
一つの部隊に、長く戦わせない。
短い時間で守備を削り、次へ渡す。
武将自身の突破力や耐久力を生かし、帰還する部隊を追わせないよう、次の圧力をかける。
「一番手が戻ったら、二番手が出る、では間が空く」
宗吾が言った。
「だが、早すぎれば退路でぶつかる。出発時刻だけ決めても駄目だ。前の隊の状態を見て、こちらで合図を出す」
各同盟の指揮を担う者が、記録を取った。
最大まで育てたスキルも使う。
ただ、今回は同じ兵を抱えて長く押し合うより、強い武将を次々に送り込む方がよさそうだった。
晴が巨嶽の名を出した。
別の盟主が、自分の主力を続けた。
順番が埋まっていく。
俺の隣で、カイが黙って聞いていた。
レンも、珍しく口を挟まなかった。
*
共同攻略の準備中、参加報酬の詳細が公開された。
最後に王城を取得した同盟だけが、すべてを受け取るわけではない。
攻略に成功すれば、少しでも実際の戦闘へ加わった城主にも、参加ボーナスがある。
葉が条件を読み上げると、席の後ろから声がした。
「一部隊だけでも?」
「交戦の記録がつけば、対象になる」
空気が変わった。
兵を大量には出せない者。
主力がまだ育ち切っていない者。
普段は城の中の仕事を優先している者。
そうした人たちにも、参加する理由ができた。
真砂は早速、必要な輸送量を計算し直した。
宗吾は眉を寄せた。
「好きな時に突っ込ませるなよ。報酬のために全滅しては意味がない」
「削った区画へ、順番に入ってもらおう」
俺が答えた。
「危なくなったら、その枠は閉じる」
戦える者だけを集めるより、調整は増える。
だが、帰ってから王城の話をする時、自分もそこにいたと言える人が増える。
俺は、募集の文面を書き始めた。
*
返事を待つ間、近隣の盟主たちからも報告が届いた。
単独の城や、小さな同盟についてだった。
『東の城主は出るそうです。今朝、本人が道を確かめに来ました』
『川沿いの一城は、今回は兵を出さないとのこと。荷車は貸せるそうです』
『北の城は、ここしばらく門が動いていません。書簡も同じ文面が返るだけです』
俺は最後の報告へ印をつけた。
ただ、それだけで本人がいないと決めるわけにはいかなかった。
岳が地図へ指を置く。
「近くの者なら、出兵したかは見える。兵が門を出たか、どの道へ向かったか。それを集めれば、かなり分かる」
「出ていない理由までは、分からないな」
「ああ。本人と話せたかどうかは、別だ」
出陣した。
今回は出ないと、本人から返事があった。
動きがなく、確認できていない。
自動代行へ移ったことが、すでに分かっている。
葉は報告を分けて記した。
地図の色だけでは見えない暮らしが、隣の城からの短い書簡で見えてきた。
晴は、以前から道を借りていた城の名を探した。
そこには、変わらず自動代行の記録が残っていた。
「この人のことも、聞けるといいね」
王城の報酬欄には、城主状態に関する照会権がある。
俺は頷いた。
「そのためにも、中まで行こう」
*
出発を前に、城の庭で武将たちが装備を確かめていた。
沈烈が槍の留め具を見る。
カイが剣を抜き、すぐに戻す。
レンは短い槍を肩から下ろした。
「次は、中まで?」
カイが聞いた。
「ああ。ただし、無理はしない」
「分かってる」
その返事は、いつもより静かだった。
俺が去ったあとも、二人はしばらく庭に残っていた。
レンが先に、王城のある方角を見た。
「今度は、見えるかもな」
カイは答えなかった。
剣の柄へ置いた手を、そのままにしていた。




