もうそろ日常会よくねとかおもうころにはまだ日常会やる
第百二十九話 強くなるほど、金がない
「URが出ました」
弥平が言った。
部屋にいた全員が顔を上げた。
「おお!」
晴が立ち上がる。
玄も椅子を寄せた。
俺は書簡を置いた。
弥平は登用結果を見せた。
確かに、金色の表示がある。
立派な鎧を着た武将が、静かにこちらを見下ろしていた。
「おめでとう」
俺が言うと、弥平は頷いた。
「ありがとうございます。ただ、今日はこっちを見てほしいんです」
隣に、別の武将を表示する。
Rだった。
晴が、URとRを交互に見た。
「こっち?」
「はい。スキルが最大になりました」
*
弥平は、同じ武将を集めていた。
登用で出たもの。
交換で手に入れたもの。
誰かがポイントへ換えようとしていたもの。
低いランクだからと、使い道を確かめずに手放されることも多かった武将だった。
何度も重ね、砦攻略にも連れていく。
その積み重ねが、ようやく上限へ届いた。
「基礎の能力は、URの方が高いです」
弥平は最初にそう言った。
「でも、スキルは別でした」
机へ、二枚の記録を並べる。
似た働きを持つ武将を、同じような兵の構成で使ったものだった。
一方は、引いたままに近いUR。
もう一方は、最大まで育ったR。
俺は数字を追った。
途中で、もう一度最初へ戻った。
「これ、Rの方が上なのか」
「このスキルが対象にしている兵への補正は、そうです」
宗吾が紙を引き寄せた。
普段なら、武将単体の能力も含めて見る。
だが、部隊全体へ及ぶ効果なら話が変わる。
強い兵を多く持つほど、少しの補正でも影響が広がる。
「同じ兵数で?」
「揃えました。装備も、結果に影響するものは外しています」
宗吾の目つきが変わった。
晴はRの武将を覗き込んだ。
「すごいね、あなた」
武将は短く頷いた。
褒められて長く話すことはなかった。
ただ、晴はもう一度、嬉しそうに頷き返した。
*
「じゃあ、URも最大まで重ねればいいんじゃないか」
玄が言った。
弥平は、今日出たURを見た。
「同じ武将を、必要なだけ集められれば」
皆が黙った。
登用でURが出ることはある。
だが、それだけでも喜ぶ出来事だ。
そこから、狙った一人を何度も引く。
足りない分を市場で買う。
必要なポイントを考えると、気軽に口にできる計画ではなかった。
「そこで、SSRです」
弥平が次の紙を出した。
昂生が身を乗り出した。
「数を集められる範囲で、能力も高い」
「はい。もちろん、SSRなら何でもいいわけではありません。使いたい兵と合うスキルを選ぶ必要があります。でも――」
「一枚のURを待つより、使えるSSRを重ねた方が、部隊は早く強くなる」
宗吾が続けた。
弥平が頷く。
「最大まで育ったスキルなら、部隊へ及ぶ効果は、育っていないURを上回るものがあります」
俺は二枚の記録を見た。
最高の一枚を引く。
それは分かりやすい強さだった。
だが、実際に揃えられるものを揃え、育て切る。
そちらにも、ちゃんと行き着く場所がある。
「Rでも、役割を選べば十分戦えるってことか」
「そうです」
弥平は、そこで初めて少し胸を張った。
*
その日の午後は、持っている武将を見直す会になった。
普段なら、登用札を引いて終わる。
今日は、その前に皆が倉庫を開いた。
「これ、二人いる」
「俺のところにもいるぞ」
「そのスキルなら、槍の部隊に合うんじゃないか」
交換の話が始まる。
晴は画面を見つめ、何度も指を止めていた。
「どうした?」
俺が聞くと、彼女は困った顔をした。
「少し前に、ポイントにしちゃった」
部屋のあちこちから、似た声が上がった。
「俺も」
「それ、昨日売った」
「安かったから、まとめて手放したな……」
弥平は、何も言わなかった。
言わなかったが、少しだけ肩が上がっていた。
玄がそれを見つけた。
「今、嬉しいだろ」
「少し」
「ずっと集めてたもんな」
「はい」
今度は、隠さず笑った。
*
登用が始まった。
札を一枚ずつ使う。
Rが出た。
いつもなら、能力を確かめてから残すか決める。
今日は違った。
「それ、俺が欲しい」
宗吾が言った。
次もR。
「あ、それは私」
晴が手を上げた。
SRが出ると、少し考える時間ができた。
SSRが出た時は、玄が立ち上がった。
「誰だ?」
武将の名前が表示される。
昂生が机を叩いた。
「いた!」
「落ち着け。まだお前のじゃない」
俺が言うと、彼は座り直した。
だが、視線は表示から離れなかった。
その次に、晴がURを引いた。
金色の光が広がる。
部屋が一度、静かになった。
「……おめでとう」
玄が言った。
「ありがとう」
晴が答えた。
皆で能力を確認する。
強い武将だった。
晴も嬉しそうだった。
ただ、さっきのSSRの時ほど、誰も椅子を倒しかけなかった。
新しく現れたURが、俺たちを見回した。
「何か、期待と異なったか」
「違う違う」
晴が慌てて両手を振った。
「すごく嬉しいよ。ちょっと今日、皆がおかしいだけ」
俺も否定できなかった。
*
話は、早かった。
攻略の報告と一緒に、弥平の記録が各地へ回った。
自分の城でも試したという返事が届く。
似たスキルを育てた者が、別の兵種の結果を送ってくる。
やがて、少し長かった説明は、短い言葉になった。
重ねたSSRが、実質最強。
Rでも、育てれば十分。
「間違ってはいないけど、省かれすぎだな」
俺が言うと、葉が頷いた。
「どのスキルか、どんな部隊か、が抜けてる」
補足を出した。
しかし、売り物は補足を待ってくれなかった。
*
市場から、特定の武将が消えた。
昨日まで何件も並んでいたRが、今日は一人もいない。
人気のSSRには、驚くような価格がついている。
その価格でも、しばらくすると表示が消えた。
売れたのだ。
正臣が、交換の一覧を前に頭を抱えていた。
「昨日、買えばよかった」
「昨日も同じことを言ってたぞ」
俺が言うと、彼は顔を上げた。
「昨日より高いんだよ」
少し離れたところで、朔が別の表を作っていた。
名前は違っても、似た役割を持つ武将。
最高効率ではないが、安く揃えられる組み合わせ。
その一覧が出ると、今度はそちらから消え始めた。
真砂が報告を見て、笑った。
「皆さん、よく調べますね」
「感心している場合か?」
「私も必要なものを買い損ねました」
笑っているのに、目は笑っていなかった。
*
俺も、他人事ではなかった。
部隊の補助に使っていた武将が、あと少しで育つ。
市場を見る。
一人いる。
高いが、今逃すと次は分からない。
買った。
別の武将も、重ねれば守備に使える。
買った。
それで不要になった武将を、ポイントへ換えようとして止まった。
これも、重ねれば使えるのではないか。
残した。
別の一人も、残した。
その結果、手元の武将は増え、ポイントだけが減っていった。
*
「最近、換金に回す武将が減っています」
真砂が会議で言った。
「重ねるために残す。足りない分は買う。ですが、売りに出る数も減っている」
朔が頷いた。
「今持っているポイントを使う人ばかりで、補充する人が少ない」
宗吾の前には、育成の進んだ部隊の記録があった。
確かに強くなっている。
次の城では、前より少ない損耗で済みそうだった。
その横で、皆の顔は冴えなかった。
「強くなったんだよな」
玄が言った。
「ああ」
俺が答えた。
「なのに、買えない」
「そうだな」
「R一人が買えない」
誰も笑わなかった。
似たようなものだったからだ。
*
カイとレンは、その騒ぎを横で見ていた。
「俺たちは、重ねないのか?」
カイに聞かれ、俺は市場を閉じた。
「お前たちと同じ武将が出てないだろ」
「そうか」
カイは少し考えた。
「俺がもう一人いたら、強そうだな」
レンがすぐに言った。
「菓子も倍減るな」
「お前も二人になればいい」
「四人分か。食費で城が傾く」
俺は笑った。
少なくとも二人は、今ある装備で訓練してくれている。
今日に限っては、それがありがたかった。
*
夜、律が机の横へ来た。
俺は残りのポイントを確認していた。
彼女も、自分の表示を開いていた。
何となく、嫌な予感がした。
「どうだった?」
俺が聞くと、律は少し目を逸らした。
「守備のスキル、上がった」
「よかったな」
「うん。そっちは?」
「部隊の補正が、かなりよくなった」
「それは、よかった」
二人で頷いた。
しばらく黙った。
律が俺の表示を見た。
俺も律の表示を見た。
「……似てるね」
「ああ」
残っている数字が、小さかった。
どちらも、小さかった。
「今日は、もう市場を見ないようにしよう」
俺が言うと、律は真面目に頷いた。
その時、新しい売り物の通知が出た。
二人とも、反射的に顔を向けた。
律が先に俺の手を取った。
「見ない」
「まだ触ってない」
「見ようとしてた」
「律もだろ」
顔を見合わせた。
それから、同時に笑ってしまった。
俺は表示を閉じた。
机の端には、明日の育成計画がある。
強くなった武将の名が、何人も並んでいた。
その下へ、一行だけ書き加えた。
『まず、ポイントを貯める』
律が読んで、隣に小さく書いた。
『売る武将を、全部惜しまない』




