集金
第百二十四話 集まるところ
「少し、話せますか」
真砂はすぐに頷いた。
控えの部屋へ入ると、講演の礼として用意された装備の目録が置かれていた。
最初に決めたものより、品数が多かった。
俺はそれを脇へ寄せた。
「各地の講座も、あなたが仕組みを作ったんですね」
「全部ではありません。ただ、道具や材料の手配に関わっているところは多いです」
「祝いの料理や、飾りの注文も」
「はい」
「教室ごとに別の商いだと思っていた」
真砂は椅子を引いた。
「教える方には、教えることへ集中してもらいたいので」
説明はもっともだった。
奈緒も助かっている。
実際に料理を覚えた人がいる。
その価値まで否定するつもりはなかった。
「代金は一度、あなたのところへ集まる」
「ええ」
「講師へ払う分、材料へ使う分。その差が残る」
「そこが、こちらの収入です」
真砂は穏やかに答えた。
「受け取った装備を、誰へ売るかも決められる」
「条件の合う方へ売ります」
「物資を渡す時期も?」
「契約の範囲でなら」
俺は展示されていた武器を思い出した。
一人ひとりにとっては、使わなくなった装備だ。
だが、集めれば相当な量になる。
それを必要とする同盟へ、まとめて渡せる。
「北西から出たものが、別の同盟を強くすることもある」
俺が言うと、真砂は初めて少し身を乗り出した。
*
「ちょっと、あなたの器を試したかった」
俺は相手を見た。
「試した?」
「話を聞いてもらえた。料理もおいしかった。感謝もされた。そこで満足して帰る方なのか、知りたかったんです」
腹が立った。
真砂はそれを見ても、話を止めなかった。
「もし、これが別の方面の同盟からの手引きだったら、どうでしょう」
静かな声だった。
「講座を広める費用を、そちらが出す。こちらは北西から武器や物資を集め、必要な時期にまとめて回す」
俺は黙って聞いた。
「教える方への支払いは後日でも、契約通りなら問題はない。前払いされた代金は、その間こちらで動かせます」
兵を作る資源。
武将へ持たせる装備。
必要な場所へ届く時期。
わずかな差でも、守れるかどうかが変わる。
「北西の人たちは楽しんでいる。奪われたものもない。それでも、一時的に、他の地域より準備が遅れる状況は作れます」
「今、その手引きをしている同盟は?」
「今回の催しを、どこかの指示で開いたわけではありません」
答えの範囲を、俺は覚えておくことにした。
*
俺は、会場から持ってきた案内を卓へ置いた。
「俺が講演をしたことと、あなたの商いを同盟が勧めたことは違います」
北西との交流という言葉の近くに、継続取引の案内がある。
その間に、俺の名が使われていた。
「そう受け取った人がいました。こちらが条件を確認して推奨したものではないと、今日の参加者へ説明してください」
真砂は案内を読んだ。
「分かりました。文面も直します」
「礼は、最初に決めた分だけで結構です」
目録も返した。
そこで真砂は、少しくだけた調子で笑った。
「でも、楽しんだんだからいいじゃん。友好結んでよ」
俺は笑わなかった。
「楽しかった礼は言います。それと、同盟の約束は分けましょう」
真砂が口を閉じた。
「今日の会で、誰が何を得るつもりなのか、俺が確かめなかった。それは俺の落ち度です。ただ、それを教えるためだと言って、他の参加者の判断まで誘導されるのは困る」
「……そこは、踏み込みすぎました」
初めて、返事に間があった。
俺は椅子へ座り直した。
「その上で、あなたの仕事は必要だと思っています」
真砂が顔を上げた。
「講座を全部止める気はありません。教える側も、通う側も助かっている。ただ、一か所が止まれば全部止まる形にはしたくない」
「別の窓口も残す、と」
「ああ。それを含めて、考えたい」
真砂はしばらく俺を見ていた。
今度は、簡単に笑わなかった。
*
帰ってから、朔と千景、葉へ話した。
教室をやめさせる話ではない。
誰が道具を持ち、どこが材料を仕入れ、代金を預かっているのか。
そこを確かめたい。
朔は頷いた。
「仕組みが便利なら、使う人は増える。真砂がいなくても、似たことを始める人は出ると思う」
「だろうな」
「だから、儲けをなくそうとするより、何に払っているか分かるようにした方がいい」
千景は貸し出せる会場を調べ始めた。
葉は講座の案内を並べた。
別々だと思っていた紙に、同じ印がいくつもあった。
兵の動きばかり見ていたわけではない。
それでも、見えていなかったものがあった。
夜、律にその話をすると、彼女は土産の料理を一口食べてから言った。
「これがおいしいことまで、嘘にはならないね」
「ああ」
「だから、難しいんだ」
俺も食べた。
冷めても、よくできた料理だった。




