合コン
第百二十話 合コンしようぜ
「合コンしようぜ!」
玄が言った。
俺は書簡から顔を上げた。
会議は終わっていた。
残った者が茶を飲みながら、次の攻略や市場の話をしていたところだった。
正臣だけが、即座に姿勢を正した。
「詳しく」
「早いな」
「大事な話だろ」
玄は椅子を引き寄せた。
「婚姻の祝いは増えてる。でも、相手がいるやつの祝いばっかりじゃないか」
「婚姻だからな」
「分かってる。だから、その前の会をやろうって話だ」
晴が手を叩いた。
「いいね。みんなでご飯?」
「ただの飯じゃない。独り身で、誰かと知り合いたい者を集める」
正臣が頷いた。
深く、何度も頷いた。
千景がその顔を見て、茶を置いた。
「まだ日程も決まってないわよ」
「分かってる」
「あなた、もう参加する顔をしてる」
「参加する」
迷いがなかった。
*
話は、妙な速さで具体的になった。
広場に長い卓を出し、近隣から人を呼ぶ。
所属にかかわらず、伴侶を探したい者や、まず親しく話せる相手が欲しい者が参加する。
杏が案内の文面を考え、晴が料理の相談を始めた。
俺は横で聞いていた。
最初のうちは。
「盟主から、ほかの地域にも声をかけてくれ」
玄に言われ、顔を上げた。
「俺が?」
「お前の書簡なら届くだろ」
「通行の相談と、合コンの案内を一緒に送るのか」
「別に送ればいい」
もっともだった。
それでも筆を持ちにくかった。
俺が名を出して送れば、会議の招集と間違われないだろうか。
葉が案内を覗いた。
「役職は書かなくていいんじゃない?」
「差出人を?」
「参加者の紹介にも。盟主とか幹部とか、最初から分かると仕事の話になりそう」
正臣が腕を組んだ。
「分かる。戦果で自己紹介されたら、俺は困る」
「料理を運ぶのは上手いぞ」
俺が言うと、彼はこちらを睨んだ。
「今日は、できれば座る側でいたい」
*
案内を出すと、予想より多くの返事が来た。
食事会なら参加したい。
初めてでも大丈夫か。
一人では気後れするので、友人と行ってもいいか。
中には、交渉の議題を先に送ってほしいという返事もあった。
俺は、交渉の会ではないと説明した。
翌日、その相手から参加の返事が届いた。
字が前より丁寧だった。
巌は、知らせを聞くと大笑いした。
「とうとう縁談まで世話するようになったか」
「俺が始めたんじゃない」
「お前が婚姻のために北西をまとめたという噂が――」
「それはもういい」
「今度は皆のためか。大した盟主だ」
訂正が間に合う相手ではなかった。
佐伯は横で、届いた食材の一覧を確認していた。
「巌様は当日、席を回って昔話を始めないでください」
「俺も混ざってはいかんのか」
「皆さん、あなたの話を途中で切れませんので」
巌は珍しく黙った。
*
当日、広場には小さな卓がいくつも並んだ。
一つの長い卓では、端と端で話せない。
杏の提案で、数人ずつ座れる形になっていた。
晴は花を置いたあと、通路を歩いてみて、少し位置を直した。
宗吾がそれを眺めていた。
「配置は、こっちの方が通りやすい」
「包囲しやすい、とか言わないでね」
晴に言われ、宗吾は真面目な顔で首を振った。
「言ってない」
会が始まる前から、玄は楽しそうだった。
正臣は、その隣で水を飲んでいた。
「飲みすぎじゃないか」
俺が声をかけると、彼は杯を下ろした。
「口が乾く」
「まだ誰も来てないぞ」
「だからだ」
上着の襟が少し曲がっていた。
俺が指で示すと、彼は慌てて直した。
「どうだ」
「もう少し右」
「こっちか」
「行きすぎ」
後ろから律の声がした。
「二人で何してるの?」
振り返ると、彼女は笑っていた。
正臣は俺たちを交互に見た。
「余裕のある夫婦は、向こうへ行ってくれ」
「悪かった」
俺は笑いながら離れた。
*
最初は、どの卓も少し静かだった。
晴が料理を運び、杏が人を紹介する。
玄は隣に座った人へ、好きな料理を聞いた。
「辛いものが好きです」
「いいな。俺もだ」
「この辺りだと、どこがおいしいですか?」
玄が考え込んだ。
「……辛ければ、だいたい食うからな」
「参考にならないですね」
相手が笑った。
玄も笑った。
ようやく、広場の声が重なり始めた。
俺と律は料理を追加する場所にいた。
正臣の卓には、奈緒という城主が座っていた。
南の小さな同盟から、友人と来た人だった。
「普段は何をしているんですか」
奈緒に聞かれ、正臣は背筋を伸ばした。
「輸送や倉庫の仕事を」
「そうなんですね」
「最近は、装備の箱の管理も少し」
「重そう」
「いや、重さによって置く場所を変えていて、持ち上げる回数を減らせば――」
そこから、箱の話が続いた。
俺は皿を持ったまま、少し心配になった。
正臣も気づいたらしい。
説明の途中で止まった。
「……すみません。箱の話ばかり」
奈緒は首を振った。
「うち、下に置いた物が取りにくくて困っていたので」
「棚を増やせるなら、その方が」
また説明しかけ、正臣は口を閉じた。
「今度、図にします」
「助かります」
会話が一段落した。
正臣は料理へ目を落とし、それから尋ねた。
「奈緒さんは?」
「私も、今は物資の管理が多いです。休みの日は、器を見に行きます」
「器?」
「使う分は足りてるんですけど、つい」
奈緒は手元の皿を指した。
「こういう縁の色が違うのとか、好きで」
今度は、正臣が聞く側になった。
*
別の卓では、好きな武将の話で盛り上がっていた。
登用したばかりのURが、妙に細かく寝具へ注文をつける。
いつも無口な低位武将が、畑では誰よりよく働く。
専用装備を見つけたのに、肝心の武将がいない。
「じゃあ、その装備、交換しません?」
「今日はそれじゃないでしょ」
隣の人に言われ、笑いが起きた。
庭の端では、二人が少し離れて話していた。
卓で話すのが苦手だった者同士らしい。
無理に戻るよう呼ぶ者はいなかった。
晴はその様子を見て、俺へ顔を寄せた。
「いい感じ?」
「俺に聞かれても」
「結婚したから、分かるかと思って」
「分からない」
律が隣で頷いた。
「自分のことも、時間がかかったからね」
「それは、そうだけど」
晴が嬉しそうに笑った。
*
会が終わりに近づくと、連絡先を交換する姿が見られた。
次の市場で会う約束をする者。
皆でまた食事をしようと話す者。
楽しかったと礼を言い、そのまま帰る者。
玄は、次に行きたい料理屋の名前をいくつも書いた紙を持っていた。
「お前は、何の会へ来たんだ」
俺が聞くと、玄は紙を畳んだ。
「飯のうまい店を知ってる人は、魅力的だろ」
否定はできなかった。
少し離れたところで、正臣が奈緒と話していた。
俺は見ないふりをして、空いた皿を重ねた。
「図ができたら、送ってもいいですか」
正臣の声が聞こえた。
「はい。お願いします」
「それと……市場の器の店、今度、見に行ってみたいんですが」
少し間があった。
正臣は先を急がなかった。
奈緒が答えた。
「昼なら。次に市が開く日、どうですか?」
「空いてます」
即答だった。
俺は皿を落としかけた。
律が横から支えた。
「聞いてたでしょ」
「少し」
「顔に出てる」
*
客を見送ったあと、正臣がこちらへ来た。
何も言わない。
だが、帰らない。
俺は待った。
正臣は、一度咳払いをした。
「約束した」
「ああ」
「次の市だ」
「そうか」
「まだ、ただ見に行くだけだけどな」
「分かってる」
彼は少し黙った。
それから、抑えきれない顔で笑った。
「楽しみだ」
俺も笑った。
「よかったな」
正臣は頷き、残っていた箱を持ち上げた。
「これはどこへ?」
「今日は座る側じゃなかったのか」
「もう終わっただろ」
軽い足取りで、倉庫へ向かっていった。
*
片づけが終わる頃、晴が次の日程を相談し始めた。
千景は呆れながらも、予定表を開いた。
俺は律と並んで、広場の灯りを消して回った。
「またやるんだろうな」
「やるね」
「次は、もう少し俺たちがいなくても回るようにしよう」
律がこちらを見た。
「どうして?」
「たまには、二人で飯を食いに行きたい」
彼女は少し笑った。
「じゃあ、玄にお店を聞こうか」
広場の向こうから、玄の声が聞こえた。
「聞こえてるぞ。三つある!」
俺たちは顔を見合わせた。
消すはずの最後の灯りの下で、しばらく笑っていた。




