↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
114/200

調整

第百十三話 もう一度、名を出す


「配下には、しない」


 俺が言うと、晴は条件表から顔を上げた。


 二百人に届くまで、いくつかの同盟に配下として協力してもらう。


 最初の案には、その方法も残してあった。


 同盟の名前や、今のまとまりを保ちやすい。無理に一つへ押し込めるより、受け入れられるかもしれない。


 そう考えていた。


 だが、書き進めるほど、引っかかるものがあった。


「合併を提案したい。同じ同盟へ入ってもらう」


 晴はしばらく黙っていた。


「その方が、大変じゃない?」


「ああ」


 人数の多い側と少ない側。


 先にいた者と、後から来る者。


 土地も倉庫も、幹部の役職もある。


 東雲を受け入れた時、旗が同じになれば済むわけではないと、俺たちは知った。


「それでも、最上級兵を使うために人数を貸してくれ、とは頼みたくない」


 俺は紙の一行を消した。


「入るなら、この同盟でどう暮らすかを一緒に決めてほしい。元の盟主だけと話して、全員の参加が決まる形にもしない」


「合併したくない人は?」


「入らなくていい。その人たちが別のまとまりを作れるなら、そっちの相談も手伝う」


 晴が紙へ手を伸ばした。


 俺の消した行の下に、短く書き加える。


『参加しない同盟とも、今の約束は続ける』


「道を貸さなくなったりしたら、断れないもんね」


「ああ」


 晴は頷いた。


 それから、俺の顔を見た。


「じゃあ、私も聞いていい?」


「何を?」


「新しい盟主は、私に何を任せたい?」


     *


 その話は、二人だけでは終わらなかった。


 翌日、幹部を集めた。


 千景は交代そのものより、仕事の割り振りを気にした。


「あなたが盟主になって、外交官の仕事も全部持つなら、私は反対」


「分けるつもりだ」


「つもりではなく、誰へ何を渡すかまで決めて」


 葉が記録を開いた。


 書簡の整理と情勢の集計。


 日々の通行確認。


 他同盟との面会。


 俺が何となく引き受けていた仕事が、思っていたより多かった。


 それらを分けたあとで、晴が口を開いた。


「私は、入ってくる人たちと話したい」


 昂生が顔を上げた。


「話を聞く係か?」


「聞くし、こっちのことも話す。会議だと、言いにくいこともあるでしょ」


 晴は少し考えた。


「あと、攻略にも行きたい」


 千景が、そこで初めて笑った。


「そっちは分かってた」


「ちゃんと予定を決めて行くよ」


「決まった予定を増やさないでね」


 晴が俺を見た。


「困った時は、言う。私も、あなたが決めたことに嫌だって言うかもしれない」


「言ってくれ」


「うん。じゃあ、私は賛成」


 その返事で決定にはしなかった。


 同盟全体へ提案を出し、話をする時間を取った。


 晴だから入った、と言う者もいた。


 俺は知っているが、盟主として何をするつもりなのか分からない、という声もあった。


 もっともだと思った。


 合併を進めること。


 人数を増やすための戦争はしないこと。


 ただし、攻められた時の守備は弱めないこと。


 役職は以前の同盟の大きさだけで配らず、引き受ける仕事を明らかにすること。


 一度の説明では終わらなかった。


 晴も同席した。


 俺が答えに詰まれば助けてくれたが、代わりに約束はしなかった。


 数日後、交代が決まった。


 盟主の表示が俺へ移った瞬間、晴は自分の表示をしばらく眺めていた。


「変わったね」


「ああ」


「思ったより、そわそわする」


 笑っていた。


 俺も笑おうとしたが、うまくいかなかった。


 机の上には、俺が返事をするべき書簡が並んでいた。


     *


 各地へ送る最初の書簡に、俺は昔の名を書いた。


 北西の猫。


 そこから文章が進まなくなった。


 解散した同盟だ。


 今は別の仲間を持ち、別の旗の下にいる者も多い。


 その名前を使って、人を呼び集めていいのか。


 葉が下書きを読んだ。


「昔の全員が賛成しているようには、書かない方がいい」


「ああ」


「でも、あなたが誰なのかは、書いていいでしょう」


 俺は筆を持ち直した。


『かつて北西の猫で盟主を務めた者として、今回の調整に自分の名を出します』


 その下へ、今の立場を書いた。


 晴から盟主を引き継いだこと。


 最上級兵の解放を目的とした、合併の協議を始めること。


 既存の仲間同士のまとまりは相談しながら残すが、配下として人数を数える形は取らないこと。


 こちらへの加入以外にも、地域ごとの合併を考えている同盟があれば、連絡や条件の整理を手伝いたいこと。


 最後に、協議を急がせるための進軍はしないと書いた。


 葉が読み終える。


「送る?」


 俺は頷いた。


 昔の名前を出した以上、知らなかったことにはできない。


 それでよかった。


     *


 翌朝、返事が増えた。


 最初は、合併についての質問が多かった。


 土地の扱い。


 元の盟主の立場。


 戦争に出られない者の参加。


 俺は順に読んでいた。


 その中に、巌からの書簡があった。


『やっと表へ出るのか』


 挨拶は、それだけだった。


 続きには、近隣の三つの同盟へ話を通すと書いてあった。


 参加を決めさせるのではなく、まず話を聞く席を作る。


 以前の争いで直接会いにくい者がいるため、自分が間へ入るという。


 俺はすぐに返事を書いた。


 そんなところまで頼んだつもりはなかった、と。


 返ってきたのは短かった。


『頼まれるまで待ってたら、お前が全部やるだろ』


 紙を持ったまま、声を出して笑ってしまった。


 晴が顔を上げた。


「何?」


「巌が、手伝ってくれる」


「よかった」


 晴は嬉しそうに言った。


 俺は次の書簡を開いた。


 まだ、それが始まりだとは思っていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。