↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
112/200

開放条件

第百十一話 二百人の条件


 最上級兵の解放条件が発表されたのは、律が来る前日のことだった。


 俺は市場で買った茶を棚へしまい、明日の仕事を午前に寄せていた。


 表示が開いた時も、最初は装備に関する追加の知らせだと思った。


『最上級兵種・開発条件公開』


 手が止まった。


 王城の外郭を守り、上級騎馬を正面から止めた兵。


 その兵種を、こちらも使えるようになる。


 俺は椅子へ座り直した。


 資源。


 施設。


 兵種ごとの前提となる研究。


 並んだ条件を読んでいく。


 その途中に、見慣れない項目があった。


『所属同盟の総城主数 二百人以上』


『配下同盟に所属する城主を含む』


 俺は、そこをもう一度読んだ。


 読み違いではなかった。


     *


 晴の城へ着くと、葉がすでに地図を開いていた。


 千景は所属人数を確認している。


 宗吾の前には、最上級兵の情報があった。


 誰も嬉しそうではなかった。


「二百人か」


 俺が言うと、千景が頷いた。


「今のうちでは届かない」


 人数が減ったのは、晴の同盟だけではない。


 大連合は分かれた。


 顔の見える人数で暮らしたいと、独立した者も多い。


 ようやく、その規模で仕事を回し始めたところだった。


 葉が、配下を含むという行を指した。


「ここが問題」


「ああ」


 全員に同じ旗へ入ってもらわなくてもいい。


 戦争を仕掛け、配下にすれば、相手の人数が条件へ加わる。


 王城攻略へ近づくために、周囲の小同盟を従わせる。


 その理由を、世界の仕組みが用意してしまった。


 宗吾が言った。


「相手が最上級兵を使えるようになれば、こちらも今の守り方では済まなくなる」


 王城で見た差が、城主同士の戦争へ持ち込まれる。


 自分たちは争うつもりがない、と言うだけでは足りない。


 隣が条件を満たすなら、こちらも急がなければならない。


 その考えが、各地で同時に生まれる。


 俺は地図を見た。


 小さく分かれた同盟が、急に別のものに見えた。


 土地でも砦でもない。


 人数として数えられてしまう。


     *


 最初の書簡は、その日のうちに届いた。


 周辺同盟による協議の打診。


 参加する意思を早めに示してほしいという要請。


 そこまでは、まだよかった。


 夕方には、別の同盟から相談が来た。


『配下へ入れば保護する、という話が届いています』


『断った場合の説明はありません』


 翌朝には、人数の少ない同盟が三つ、同時に兵を動かした。


 攻めるためではない。


 盟主の城へ守備を集めていた。


 まだ宣戦はない。


 それでも、誰も最初に兵を戻せなくなっていた。


 巌からは、短い書簡が来た。


『うちにも話が来た。返事は止めてある』


 瀬名からは、少し長い報告が届いた。


 南東では、解散した連合の再結成を求める声が出ている。


 一方、以前の条件では戻らないという同盟もある。


 会議の席につく前に軍を近づけ、交渉を有利にしようとする動きまで見られるという。


 文面の最後に、こうあった。


『兵を得るための合流と、兵を向けられないための合流が、同じ言葉で語られています』


 俺は書簡を伏せた。


 どちらも、参加を承諾したと記録される。


 だが、中身は違う。


     *


 律との約束は、取り消しにはならなかった。


 ただ、二人で茶を飲む前に、地図を開くことになった。


 律の同盟にも、勧誘が来ていた。


「うちは、まだ返事をしてない」


「急がなくていいと思う」


「でも、返事をしない間にも、向こうはほかへ話を進めるでしょ」


 俺は頷いた。


 待つことにも危険がある。


 選べる相手が減る。


 周囲がまとまってからでは、提示される条件も変わる。


 律は茶を一口飲んだ。


「これ、おいしいね」


「ああ。市場で見つけた」


「今度、落ち着いて飲みたい」


 笑ったが、そのあとすぐ地図へ視線を戻した。


 俺も戻した。


 何でもない時間を守るために、また大きな話をしなければならなくなっていた。


     *


 その夜、晴に呼ばれた。


 部屋には二人分の茶が置いてあった。


 仕事の机ではなく、窓際の小さな卓だった。


「相談したいことがある」


 晴は座ったまま、俺を見た。


「二百人のことか」


「うん」


 俺も腰を下ろした。


 晴は、しばらく湯呑みへ手を添えていた。


「集めなきゃいけないなら、集めるしかないのかもしれない。でも、人数が足りないから誰かを攻めるって、私は嫌だ」


「ああ」


「前に戦った時は、止めなきゃいけない相手がいた。今回、小さい同盟で暮らしてるだけの人まで、狙われる理由ができちゃった」


 晴は顔を上げた。


「あなたなら、そういうことをしないで、調整できないかな」


 すぐには答えられなかった。


 晴は続けた。


「うちが二百人になればいいって話だけじゃなくて。周りも、無理に誰かを配下にしなくて済むように」


「……北西全部か?」


「できるところから。でも、ほかの場所にも話が届いたらと思ってる」


 胸の奥が重くなった。


 頼られた嬉しさより先に、やるべきことの多さが浮かんだ。


 誰と組むのか。


 誰が盟主になるのか。


 戦争へ参加する義務はどうするのか。


 抜けたくなった時、抜けられるのか。


 二百人を割れば条件を失うのか。いったん解放すれば残るのか。


 確認できていない仕様まである。


「晴。人数を揃えるだけなら、案は出せると思う」


「うん」


「でも、世界の混乱を収めるとなると……」


 言葉が止まった。


 晴は急かさなかった。


「全部、あなた一人でやってほしいとは思ってない」


 静かに言った。


「ただ、誰かが最初に話を始めないと、兵を動かした人から順番が決まっちゃう」


 それは、その通りだった。


 分かるからこそ、苦しかった。


「少し、考えさせてくれ」


「うん」


 晴は頷いた。


「大きいことを頼んでるのは、分かってる」


     *


 自分の城へ戻ると、律から書簡が届いていた。


 茶のお礼と、今日話した条件の補足。


 俺は返事を書き始めた。


 途中で筆が止まった。


 何度か書き直し、結局、短くした。


『晴から相談された。二百人の条件を、戦争で満たさずに済むよう調整できないかと』


『少し、抱えきれない気がしている』


 送ったあとで、弱音を書きすぎたかと思った。


 返事は、思ったより早かった。


『七人で話そう』


 続けて、もう一通。


『一人で無理だと決める前に、私たちにも聞いて』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。