出来ること
第十話 次を急がない
朝になると、取った土地が気になった。
地図を開く。
城の隣に、自分の色が一つ増えている。
昨日までは、そこへ部隊を送るだけで大事だった。
一度できた今は、その先にも行けそうな気がした。
隣の土地を選ぶ。
ここも等級一。
守備情報を見比べる。
昨日と大きく違わないように見えた。
「次、ここなら行けますか」
周に尋ねた。
周は地図ではなく、部隊の項目を開いた。
「現在の状態をご確認ください」
兵数、十八。
カイの状態を示す欄も、出発前と同じではなかった。
回復までの時間が表示されている。
「寝ても、全部戻るわけじゃないんですね」
「休養には時間を要します」
俺は次の土地を閉じた。
*
カイは少し遅れて食卓へ来た。
座るとき、動きがぎこちなかった。
「足?」
「腿」
椅子を引きながら答える。
「昨日より痛い」
「歩ける?」
「ここまで来た」
それもそうだった。
俺は食事の途中で、次の土地の話をした。
隠しておくのも違う気がした。
「朝、もう一つ取れないかと思って」
カイが俺を見る。
「今日?」
「いや。今は休んだ方がいいって、周さんに言われた」
カイは汁を一口飲んだ。
「俺も、その方がいい」
「だよな」
「出られって言われたら出るけど、昨日より速くは動けないぞ」
俺は匙を置いた。
「今日は出さない」
カイは頷き、また食べ始めた。
そのあっさりした様子を見て、昨日の夜に画面を閉じたことを思い出した。
帰ってきた顔を見たときは、休んでほしいと思った。
朝、地図だけを見たら、もう一つ取れるか考えた。
同じことを決めるのに、何を見ているかで随分変わってしまう。
*
食後、昨日の報告を読み直した。
勝利の文字からではなく、下の項目から見た。
兵の損失。
残っている兵。
行軍に掛かった時間。
カイが話した、道と草地のことも別に書いた。
周に紙を用意してもらい、並べていく。
「二人分、募集すれば戻せますよね」
「兵数は補充できます」
俺は、戻せるという言い方が違ったことに気づいた。
昨日と同じ二人が来るわけではない。
募集に必要な食料を記す。
その下に、部隊を維持する分も書く。
さらに、カイを畑から外していた間の生産量を確かめた。
「ああ、これもあるのか」
出兵に使った資源だけ見ればいいと思っていた。
けれど、出ている間は、カイを畑に置けない。
帰ってきても、休ませる時間が必要になる。
土地を取って増えるものと、それまでに使うもの。
並べるほど、簡単には比べられなくなった。
「昨日の出兵、しない方がよかったんですかね」
「土地は獲得できております」
周は答えた。
「今後の運用は、君主様にお決めいただきます」
俺は紙へ目を戻した。
正解を聞こうとしていた。
周は仕組みを教えてくれる。
どこまで使うかは、俺が決めなければいけない。
*
昼前、カイが広間に来た。
「何してる?」
「昨日、何を使ったか書いてる」
紙を見せる。
カイはしばらく眺めてから、一か所を指した。
「出発する前の時間も入れた方がいいんじゃない?」
「準備?」
「うん。並べて、確認して、門まで歩いたやつ」
俺は書き足した。
「あと、帰ったら腹減る」
「それは維持費に入ってると思う」
「俺の分」
「お前の分か」
少し笑った。
カイは向かいの椅子に座った。
「次はどこ?」
「まだ決めない。候補だけ見ておく」
地図を開く。
二人で城の周囲を見た。
東側に、資源の表示が付いた土地があった。
今の不足を考えると、気になる場所だった。
ただ、そこへ行く道も、守備兵の様子も、俺はまだ知らない。
候補として印を付けた。
出兵は押さなかった。
*
その日のうちに、兵二人分の補充を手配した。
カイの畑への配置は戻さなかった。
食料の増え方は少し遅いままだったが、それも記録した上で待つことにした。
夕方、もう一度地図を見る。
自分の土地は、朝から一つも増えていない。
代わりに、手元の紙には文字が増えていた。
食料の残り。
補充の完了予定。
カイの回復状況。
次に確かめる土地。
書いたことを上から読み直し、机の端へ置く。
窓の外で、カイがゆっくり歩いていた。
こちらに気づくと、片手を上げる。
「飯、まだ?」
「もう少し」
答えて、俺は立ち上がった。
出兵のない一日が、もうすぐ終わる。
今日はそれでよかった。




