報告
第九話 帰ってくるまで
まだ着いていなかった。
さっき確かめてから、それほど時間は経っていない。
分かっていても、行軍の表示を開いてしまう。
地図の上では、小さな部隊の印が進んでいた。
どこまで行ったかは分かる。
カイが今、何を見ているかは分からない。
「途中の様子って、見られないんですか」
「この画面から確認できるのは、部隊の位置と状態でございます」
周の答えは変わらなかった。
俺は椅子へ座った。
倉庫を開く。
木材が増えている。
食料も、少しずつ増えている。
昨日なら気になった数字を、今日は読み飛ばしていた。
*
一度、畑まで行った。
カイが立っていた場所には、誰もいなかった。
作業をする者はいる。
畝の間を歩き、手を動かしている。
昨日とほとんど同じだった。
違うのは、生産量と、こちらを見て話しかけてくるやつがいないことくらいだった。
広間へ戻る途中で、表示が変わった。
【戦闘中】
足が止まった。
道の真ん中だった。
後ろから来た荷車が、俺を避けて通り過ぎる。
端へ寄り、画面を見る。
数字が細かく動くわけではなかった。
カイの声も聞こえない。
戦闘中という文字があるだけだ。
俺はその場で待った。
手を下ろせば何か見落としそうで、同じ姿勢のまま見続けた。
*
報告が届いたとき、最初に見えたのは勝利の文字だった。
息が抜けた。
「勝った……」
すぐに続きを開く。
占領成功。
獲得した土地の情報。
経験値。
そして、兵の損失。
二十人のうち、二人。
俺はそこへ指を止めた。
残兵数は十八になっている。
負傷の項目とは、別だった。
「この二人は」
隣にいた周へ聞いた。
「戦死でございます」
俺は画面を見たまま頷いた。
頷いてから、何に頷いたのか分からなくなった。
勝った。
土地も取れた。
けれど、出ていった人数では帰ってこない。
報告の先を読む。
部隊は帰還を始めていた。
*
帰りの方が長く感じた。
勝ったなら、もう戻ってきていいはずだった。
そんなことを思うたびに、道を歩く時間が要るのだと思い直す。
門のところへ行った。
まだ誰も見えない。
表示を確かめて、門の外を見た。
それを何度か繰り返した後、曲がり角から人影が現れた。
先頭にカイがいた。
歩いていた。
槍を持って、こちらへ向かってくる。
俺は門の外へ出かけて、途中で止まった。
カイが顔を上げた。
「帰ったぞ」
「おかえり」
声が思ったより小さくなった。
近づくと、靴も裾も土で汚れていた。
「怪我は?」
「少し擦っただけ」
腕を見せる。
布の端から、赤くなった皮膚が見えた。
「二人、戻せなかった」
カイが言った。
「報告、見た」
「そっか」
後ろの兵が門をくぐっていく。
十八人。
数えなくても表示には出ているのに、俺は目で追った。
*
カイは水を飲んでから、椅子に座った。
装備を外すと、長く息を吐いた。
「どうだった?」
聞いてから、広すぎる質問だと思った。
カイは少し考えた。
「思ったより、道が曲がってた」
「うん」
「あと、草が高い。地図だと平らだったけど、向こうが全部見えるわけじゃなかった」
俺は地図を開いた。
取った土地が、自分の色に変わっている。
「敵は?」
「いた。近づいたら出てきた」
カイは卓上に指を置いた。
「ここから来たから、こっちを向かせた。でも、端まで一度に動かなかった」
「兵が?」
「うん。声は届いてたと思う。俺の指示が遅かったのかもしれない」
俺には判断できなかった。
戦闘の報告を開いても、その瞬間のことまでは書いていない。
「次は、もう少し考えてから動かす」
カイが言った。
俺は頷きかけて、止めた。
「今日は、もう休んで」
「うん。足、痛い」
カイは靴を見下ろした。
俺は食事を用意してもらうために立った。
そのとき、地図の端で未所有の土地が目に入った。
次に取れそうな場所だった。
俺は画面を閉じた。




