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武器実装

第百四話 こんな日に限って


「出た」


 晴が言った。


 誰も顔を上げなかった。


 執務室には、久しぶりに大きな声のしない時間が流れていた。


 千景は退盟した者との倉庫の精算をしている。


 葉は各地の交戦記録を整理し、俺は二つの同盟へ送る停戦案を書いていた。


「ねえ、出た」


「何が?」


 杏が尋ねた。


 晴は登用結果をこちらに向けた。


 金色の表示が浮いていた。


 UR。


 俺の筆が止まった。


「……今、引いたのか」


「任務でもらった札があったから。一枚だけ」


 晴は俺たちの顔を順番に見た。


 それから、少し肩をすぼめた。


「ごめん。忙しい時に」


「誰が出た?」


 最初に椅子を寄せたのは、弥平だった。


 晴が表示を広げる。


 大きな盾を携えた武将が姿を現した。


 肩幅が広い。


 眉の上に古い傷があり、派手な鎧のわりに、立ち方は静かだった。


「岩成と申す。守りを預かる」


 低い声が部屋に響いた。


 弥平が能力欄を読んだ。


「防衛向きだ。拠点に置いている時の継戦能力が高い。これ、今の配置に合いますよ」


「本当?」


 晴の顔が明るくなった。


 その変化を見て、俺まで少し笑ってしまった。


 数日前なら、そんな顔をしていたことを思い出す必要もなかった。


「喜んでいいと思うぞ」


 俺が言うと、晴はようやく胸を張った。


「じゃあ、すごく嬉しい」


「それは見れば分かる」


 千景が帳面を閉じた。


「配属は、能力を全部読んでからね」


     *


 ガチャスポットは、戻らなかった。


 三日が過ぎても、補正の表示は現れない。


 以前なら排出が回復するはずの大城で、何枚も札を使ったという報告が来たが、通常の登用との差は確認できなかった。


 晴の岩成は、城内で引いた一枚から現れた。


 ほかの同盟からも、URを得たという話は届いていた。


 場所を押さえている者だけが有利だった状況は終わったらしい。


 大城の隣接地を高い条件で譲ろうとしていた同盟は、交渉を取り下げた。


 喜んだ者もいた。


 怒った者もいた。


 俺は大城の地図を見ていると、まだ腹が立った。


 だが、札を引いて喜んでいる晴に、その怒りをぶつけたいとは思わなかった。


     *


 王城の公開とともに、武将の装備欄が開いていた。


 武器と防具。


 それまで身につけていたものとは別に、能力を持つ装備を割り当てられる。


 各地の探索や攻略で見つかるという説明があり、すでに市場には、いくつもの品が出始めていた。


 弥平に連れられて取引の一覧を見た俺は、値段のばらつきに驚いた。


「同じくらいのレアリティでも、ずいぶん違うな」


「まだ相場が決まっていませんから。あと、専用があります」


 弥平が一つの槍を示した。


 使用条件の欄に、武将の名がある。


「該当する武将が使うと、追加効果が出ます。こちらの方が素の攻撃値は高いですが、専用の相手なら、こっちの槍の方が強い」


「持っていない者には?」


「今すぐは使い道が薄いです」


 そのため、取引が活発になっていた。


 小さな同盟で拾った品を、大きな同盟が欲しがる。


 高いレアリティの防具を手放して、手持ちの武将の専用武器を求める者もいる。


 戦争の書簡とは別の理由で、城から城へ連絡が飛び始めていた。


 その午後、俺たちのもとにも交換の打診が来た。


 相手は南の同盟にいる城主だった。


 道の利用条件で、まだ話がまとまっていない相手である。


 面会の表示が開くと、向こうは挨拶より先に鎧を見せた。


「この防具だ。里央が出していた弓と交換したい」


「あの道の返事は?」


「それはうちの外交担当が書いている」


「いつ届く」


「俺に聞かれても困る。鎧は要るのか?」


 俺は隣を見た。


 里央は能力欄を読んでいた。


「要る」


「じゃあ、弓を見せてくれ」


 拍子抜けするほど普通の取引だった。


 状態を確かめ、条件を揃え、交換する。


 相手は最後に、少し迷ってから付け加えた。


「北へ行くなら、川の東は今やめておけ。あそこは味方にも通行を認めていない」


「……分かった。ありがとう」


「弓の件も、助かった」


 表示が閉じた。


 道の問題は解決していない。


 それでも取引は成立し、役に立つ話まで残った。


     *


 夕方、カイが装備の一覧を覗き込んでいた。


 レンも横から首を伸ばしている。


「お前のはあるか」


「ない」


「俺のもない」


 レンが次の頁を開いた。


 カイは、派手な大剣を指した。


「これはどうだ」


「持って歩くだけで疲れるだろ」


「振れればいい」


「振ったあと戻せるのか?」


 カイが黙った。


 俺は笑った。


 二人が同時にこちらを見たので、何でもないと手を振った。


 専用装備の名を検索しても、二人のものは見つからなかった。


 未発見なのか。


 存在しないのか。


 レンはしばらく空の一覧を眺めていたが、やがて表示を閉じた。


「まあ、そのうちだな」


「覚えはないのか?」


 俺が聞くと、彼は肩をすくめた。


「名前だけ見て思い出せるなら、楽なんだけどな」


 その向こうで、晴が岩成に城内を案内していた。


 倉庫の場所を説明したあと、なぜか庭の池を見せている。


 岩成は真剣な顔で聞いていた。


「ここの魚は食べないからね」


「承知した」


 俺は書きかけの停戦案へ戻った。


 外では、まだ戦争が続いている。


 今日届いた書簡にも、失った土地の名が並んでいた。


 それでも、部屋の向こうから晴の笑い声がした。


 俺はその声を聞きながら、強すぎた一文を消した。

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