↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒坑日記 ― 三池大迷宮譚 ―  作者: 8時20分のたれまゆ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
50/58

第48章 : 父の思い


「何で進は、私たちに言わんやったとやろか」


おばあさんが、ぽつりと呟いた。


誰も、すぐには答えなかった。


さっきまで見ていた古い記録が、机の上に積まれている。


黒い影。


封印。


山伏。


そして、不老の者たち。


どれも、まだ一つの答えにはなっていない。


「……一度、進さんと話したとばってん」


親父が、静かに口を開いた。


「『こんな事、自分たちの代で終わらせたかね』って言いよったけん……」


「終わらせたかった……」


俺が呟く。


「ああ」


親父は、机の上の資料を見つめた。


「みこっちゃんに、こんなことを背負わせたくなかったんやろうな」


美琴が、少しだけ俯いた。


「……お父さん」


その声には、寂しさと、ほんの少しの怒りが混じっていた。


「でも……最初から、進さんが俺たちと別々に調べとったわけじゃなか」


親父の言葉に、俺は顔を上げた。


「え?」


「昔はな。俺と婆さんと、進さんたちは一緒に調べとった」


「一緒に……?」


「ああ」


親父は頷いた。


「黒い影のことも、封印のことも、昔の記録も。分かったことがあれば、みんなで持ち寄ってた」


おばあさんも、静かに頷く。


「進とは、何度も一緒に動いたよ。影が出た場所を調べたり、古い記録を探したりね」


「じゃあ……親父たちは、ずっと進さんと一緒に?」


「いや、ずっとではなかった」


親父は少し考えてから続けた。


「みこっちゃんが生まれた頃だったかな」


美琴が顔を上げる。


「その頃に、進さんが言ったんだ」


「何て?」


「俺は俺で、別のやり方で調べてみるって」


俺は、机の上に並べられた資料を見る。


「別のやり方……」


「俺たちは、昔から残っとる記録や、実際に影が出た場所、それに封印のことを中心に調べた」


親父は、古い帳面を指で軽く叩いた。


「でも、進さんたちは違った」


「世界の神話や伝承……」


古谷さんが、静かに言った。


美琴が古谷さんを見る。


「そう。進さんと美咲さんは、世界各地の神話や伝承を調べていた」


古谷さんは、机の上に置かれた資料の一冊を手に取った。


「大学にいた頃から、そういう話をよくしていました」


「古谷さんも?」


「ああ。学生時代は、よく三人で朝まで語り明かしました」


三人。


進さん。


美咲さん。


そして、古谷さん。


その三人が、同じものを追っていた。


ただ、見ている場所が違った。


俺は、美咲さんの資料をもう一度めくった。


そこには、いくつもの国や地域の伝承が書き込まれている。


蛇。


地下。


水。


境界。


そして――闇。


ページの端には、いくつかの言葉が残されていた。


『闇を崇める者』


『影を恐れぬ者』


『人の命を捧げ、異なる力を得ようとする者』


俺は、その一文を指でなぞった。


「……人の命を?」


美琴が覗き込む。


「これって……」


古谷さんが資料を見つめる。


「生贄に関する伝承でしょうね」


美琴の表情が変わった。


「……生贄」


その言葉だけが、部屋の中に残った。


親父が、黙って別の古い記録を開いた。


そこにも、似たような記述がある。


黒い影が現れた場所。


そこに近づいた人間。


そして、影の力を得ようとした者たち。


「俺たちが見つけた記録にも、似たような話が残っとる」


親父が言った。


「昔、黒い影を恐れるだけじゃなく、逆に利用しようとした者がおったらしい」


「利用……?」


俺が聞き返す。


「ああ。力を得るために、影に近づいた」


おばあさんが静かに続けた。


「それで、何人もの人が戻ってこなかったという記録もある」


部屋が静まり返る。


古谷さんは、美咲さんの資料と古い記録を交互に見た。


「進さんたちは、こういう記録を世界中から集めていたんでしょうね」


「じゃあ……」


俺は資料を見比べた。


「親父たちが調べていた黒い影と、美咲さんが調べていた伝承は……」


「まだ、同じものだとは言い切れない」


古谷さんが答えた。


「でも、気になる一致が多すぎる」


親父も頷いた。


「俺たちは、実際に影を見てきた」


おばあさんが続ける。


「進たちは、世界に残る記録を追っていた」


「そして……」


俺は、美咲さんの資料を見る。


「同じところに、似たような話が残っていた」


古谷さんは、しばらく黙っていた。


やがて、資料を閉じる。


「だからこそ、進さんは別のやり方で調べようとしたのかもしれません」


「……」


誰も答えなかった。


それが正しかったのか。


進さんが何を見つけたのか。


なぜ、美琴たちに何も伝えなかったのか。


まだ分からない。


俺は、机の上に並んだ資料を見つめた。


黒い影。


封印。


生贄。


不老。


境界。


どれも、まだ答えにはならない。


けれど――


これまで知らなかったことが、少しずつ見えてきている。


「……もっと調べないとな」


俺が呟くと、美琴が隣で頷いた。


「うん」


古谷さんも資料をまとめ始める。


親父は椅子から立ち上がった。


「なら、次は何を調べる?」


俺は、机の上の古い記録に手を伸ばした。


まだ、開かれていないページがある。


「……これからだ」



(第48章 終わり)





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。