第39章:運命
その声を聞きながら、俺はさっきまでの話を頭の中で繋ぎ合わせていた。
世界樹。
異なる世界。
巨木様。
消えてしまった記録。
そして――三年以上、帰ってこない美琴の両親。
俺たちは、最初から一緒に潜る運命だと聞かされていた。
でも――。
それは本当に、ただの『運命』なんだろうか。
「俺たちって……」
口から、自然と言葉がこぼれた。
「運命って言うより……誰かの意思で……」
「……誰かの意思?」
美琴が俺を見る。
「分からん……」
俺は首を振った。
「ただ、そんな気がしただけ」
古谷さんは、何も言わずに俺たちを見ていた。
社務所の外では、蝉の声が鳴り続けている。
夏の朝。
いつもと変わらない景色のはずなのに――。
俺には、何か大きなものが動き始めているように感じられた。
「おばあさん」
俺は、おばあさんを見る。
「巫女と灯守りって……本当は何をしてたんですか?」
おばあさんは、すぐには答えなかった。
「……知っとることはあるよ」
「じゃあ、教えて」
美琴が身を乗り出す。
おばあさんは、少し困ったように笑った。
「でもね、全部を教えることはできんとよ」
「どうして?」
「それぞれの時代で、巫女と灯守りには、それぞれの役目があるけん」
「役目……」
俺が呟く。
「昔の人たちには、昔の人たちの役目があった。私たちの時代には、私たちの役目があった」
おばあさんは、俺と美琴を見つめる。
「そして……灯真君と美琴ちゃんには、二人の役目がある」
「それを……おばあちゃんは知ってるの?」
美琴が尋ねる。
「少しはね」
「じゃあ……私たちの役目って?」
おばあさんは首を横に振った。
「それは、私から教えるもんじゃなかとよ」
「……」
「自分たちで探して、自分たちで見つける」
静かな声だった。
「それが、昔から受け継がれてきたことなんよ」
俺は、黙っておばあさんを見る。
「親父も……知ってる?」
「知っとるよ」
「じゃあ、親父も俺に教えられない?」
「たぶんね」
おばあさんは、少しだけ笑った。
「知っとっても、言えんことがある」
「……なんで?」
「答えを先に知ってしまったら、自分たちの役目を見つけたことにはならんけん」
その言葉が、妙に胸に残った。
俺は、美琴を見る。
美琴も、じっと俺を見ていた。
これまで俺は、ずっと考えていた。
なぜ俺と美琴なのか。
なぜ一緒に潜らなければならないのか。
なぜ、美琴の両親は帰ってこないのか。
そして――。
なぜ俺たちは……。
「……自分たちで見つける、か」
俺が呟く。
「うん」
美琴が小さく頷いた。
「怖いけど……」
美琴は一度、言葉を止めた。
「知りたい」
その目は、まっすぐだった。
「お父さんとお母さんがどこにいるのかも」
「……うん」
俺も頷く。
「俺も知りたい」
おばあさんは、そんな俺たちを黙って見ていた。
それから、ゆっくりと口を開く。
「ただ……これだけは伝えられてきた」
「何ですか?」
「巫女と灯守りは、運命の者とともに潜れ」
俺と美琴は顔を見合わせた。
「それが何を意味するのかも……」
おばあさんは首を横に振る。
「二人で探しなさい」
「……」
「きっと、それも二人の役目なんやろうね」
「…………」
しばらく沈黙が続いた。
俺は、机の上に並んだ古い資料を見る。
そこには、何百年も前の人たちが残した文字が並んでいる。
昔の巫女と灯守りも、きっと同じように何かを探していたのだろうか。
何を見て、何を恐れ、何を守ろうとしたのか。
そして――。
その答えは、今の俺たちに何かを伝えようとしているのかもしれない。
そんなことを考えていると、
「あの……」
古谷さんが突然、口を開いた。
俺たちは一斉に古谷さんを見る。
「話は変わりますが……」
古谷さんは、少し考えるように眉間に皺を寄せた。
「君たちの話を聞いていて、ひとつ気になったことがあるんです」
「気になったこと?」
俺が尋ねる。
古谷さんは頷いた。
「君たちがこれまで体験したことを聞いていると……」
そう言いながら、机の上に新しい資料を広げ始める。
「ほとんどの話に、大蛇や白蛇が出てきますよね」
「……大蛇」
美琴が呟く。
「白蛇……」
俺も、これまでの出来事を思い返した。
大蛇の池。
大蛇の像。
そして――。
あの白い姿。
古谷さんは、何枚かの古い資料を並べていく。
「これも、偶然なんでしょうか……」
そう呟きながら、古谷さんは一枚の資料を俺たちの前へ差し出した。
そこには――。
蛇にまつわる、古い記録が残されていた。
(第39章、終わり)




