↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒坑日記 ― 三池大迷宮譚 ―  作者: 8時20分のたれまゆ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
33/36

第31章:帰り道


石の階段を駆け下りたところで、あの嫌な気配が消えた。


「はぁ……っ。」


「はぁ……っ。」


二人は肩を上下させながら自転車を探す。


俺の自転車に駆け寄ると、美琴の自転車も近くに置いてあった。


「はぁ……っ、灯真、なん……やったと……やろ?」


「……わかっ……らん……っ」


「ずっと……っ追いかけて……来てたみたいでっ……気持ち……悪かった」


「はぁ……ここでっ……考えててもしょうがなかっ……とりあえず……帰ろう」


大きく息を吸って、呼吸を落ち着かせると。


俺は自転車にまたがる。


「灯真……」


「ん?」


「ごめん……自転車を押して、歩いて帰ってよか?」


「よかばってん、心配しよらすぞ」


「うーん……なんかねぇ……帰りづらか」


「しょんなかね。わかった」


自転車を降り、二人で押して歩く。


朝の心地よい空気が、さっきの気味の悪さを少しずつかき消していく。


俺たちは、しばらく何も話さなかった。


ただ、自転車の車輪が回る音だけが、朝の静けさに響いていた。



坂道を下ったところで、美琴が振り向き、首を傾げた。


「灯真……なんか言った?」


「なんも」


首を横に振る。


美琴は口を少し尖らせ、不思議そうにしている。


耳を澄ます。


「えっ?」


「ほら、なんか聞こえた!」


「……うん、俺にも聞こえた」


どこからだ?


「向こうに呼ばれてる気がする」


美琴が脇道の奥を指さす。


さっきみたいな嫌な気配も、恐怖もない。


むしろ――。


行かなきゃいけない。


そんな気がする。


俺たちは、呼ばれるがまましばらく進んだ。


やがて、古いお寺が見えてきた。


案内板には――。


紫陽花寺あじさいでら


と書かれている。


苔の生えた石垣。


古い木々。


その先へ進んでいく。


「不思議なとこやね」


お寺を囲むように斜面になっていて、そこには紫陽花が植えられている。


美琴は目を輝かせた。


「知らんやった。梅雨時に来たら綺麗やろね」


そう言っていた美琴が、ふと足を止める。


「……灯真?」


俺は、お寺の奥で立ちすくんでいた。


「どげんしたと?」


答えられなかった。


お寺の奥に、石像があった。


それを見た瞬間――。


息が止まった。


大きく、古い。


苔だらけの大蛇の石像。


その横には、寄り添うように白蛇の像があった。


――アイツだ。


直感的に、頭に浮かんだ。


大きな大蛇の石像。


三川坑。


白い女の、もっと奥にいた巨大な何か。


――コイツだったのか!


石像の下に刻まれた文字を見る。


『大蛇の墓』


白蛇の下には――。


『白竜神』


二人とも、その場から動けなかった。


けれど――。


大蛇の石像の目は、優しかった。


何もかもを包み込むような、穏やかな雰囲気。


白蛇の目も優しい。


思わず――。


「……可愛い」


美琴が小さく呟いた。


今まで感じていた恐怖は、何だったんだろう。


三池山で見た、あの女。


もしかすると、俺を美琴のところまで案内してくれたのかもしれない。


それに、美琴の両親のことも。


もしかしたら、教えてくれたのかもしれない。


俺たちは、勝手に怖がっていただけなのか?


でも――。


甘木山では、襲ってきた。


……勘違い?


分からない。


分からない――。



(第31章、終わり)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。