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黒坑日記 ― 三池大迷宮譚 ―  作者: 8時20分のたれまゆ


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【▼season2】 第30章:闇の視線


しばらくして、電話が鳴った。


プルルルル……プルルルル……


「もしもし」


親父からの電話だった。


「みこっちゃん見つかったか?」


「うん、さっき見つけたとこ」


「ああ」


「うん」


「わかってる」


「うん」


「大丈夫。ちゃんと連れて帰る」


美琴を見る。


「まだ、混乱しとるけん」


「おばあさんには親父から……」


「うん」


「ありがとう、お願いします」


電話を切った。


美琴が下を向きながら呟く。


「なんげな?」


「みんな心配しとらしたぞ。見つかって、とりあえず安心さした」


「うん」


「危なかけん、朝まで待って、明るくなってから帰ってこいげな」


「怒っとらしたろ」


「……バカ、本当に心配したっぞ!」


美琴の頭をクシャクシャっと撫でる。


「……もう」


美琴が、ほっぺたを膨らませながら俺の手を払う。


「帰ったら、一緒におばあさんに謝ろう」


「うん、ありがとう」


小さく呟いた。


「ふぁぁー」


安心したら、思わずあくびが出た。


美琴も眠そうにしている。


体はびしょ濡れなのに、何故か暖かい。


でも……だんだん眠くて、考えられなくなってきた。


いつの間にか俺たちは、池の前で寄り添うように眠ってしまう。


その後、眠りに落ちた二人を、青白い光が優しく包んでいた。



チュンチュン。


鳥の鳴き声で目を覚ました。


うっすらと空が明るくなりかけている。


「美琴」


名前を呼ぶと、美琴は目を擦りながら目を覚ました。


「おはよう、灯真」


「ごめん……寝てた」


「おはよう、美琴。そろそろ山を下りようか」


「あぁ……そうだよね……」


「どげんした?」


「なんか……帰りづらか」


美琴は体育座りで、膝の間に顔を埋める。


「おばあさんも分かっとらすけん、大丈夫」


「一緒に謝ろう」


「でも……はぁー……」


「なんや、美琴らしくなか」


美琴は反省しているのか、憂鬱そうに小さくなっている。


俺は立ち上がり、美琴に手を差し伸べる。


「ほら、帰るぞ」


美琴も手を取り、立ち上がる。


「わかった」


まだ薄暗い山道を、安全灯の明かりを頼りに下りていく。


しばらくして、異変に気づいた。


俺も美琴も、濡れてない。


「……」


立ち止まる。


……夢?


……だったのか。


服を触って確かめる。


いや……。


生地は乾いてるのに泥染みの汚れが残ってる。


美琴の服も、池の水に浸かったあとの汚れが固まっていた。


夢じゃない……。


じゃあ、白い女はいったい……?


「キャッ!」


「どうした、美琴! 大丈夫か!」


「ごめん、ちょっと滑っただけ。大丈夫」


「ほら、手をかせ」


美琴の手を掴み、引き上げる。


今は考えるのはやめよう。


山を下りることに集中しないと。


美琴の手を取りながら、山道を下りていく。


「でも、こんな場所、一人でよく登ったな」


「無我夢中やったけん、よく覚えとらん」


美琴は少し考えるように前を見る。


「ただ……誰かが先導してくれてたような、そんな感覚やった」


一瞬、白い女が頭に浮かんだ。


『そんなはずはない』


そう思い、頭を振る。


そのときだった。


安全灯の炎が、大きく揺らいだ。


「灯真……」


美琴の声が、小さく震える。


「なんか……気持ち悪い」


「俺も耳鳴りがして頭が痛い」


痛いというか――。


誰かに見られている。


そんな嫌な感覚だった。


立ち止まり、山道の先を見る。


何もない。


振り返る。


何もない。


それなのに――。


見られている。


すぐ近くから。


「……誰だ」


思わず声が漏れた。


返事はない。


ただ、安全灯の炎だけが揺れている。


その炎が――。


一瞬、激しく燃えた。


まるで、何かを知らせるように。


「……灯真?」


「美琴、動くな」


周囲を見渡す。


木々。


草むら。


山道。


何もいない。


でも、分かる。


いる。


どこかに――。


俺たちを見ている何かが。


その瞬間、頭の奥にいくつもの光景が浮かんだ。


山道の暗がり。


お寺の階段。


いや、もっと前から。


甘木山の古墳。


二人で最初に図書館に行った日。


宮原坑。


祭りの日……。


あの『ニゲロ』!!


「あぁぁ……」


背筋に冷たいものが走った。


ずっと前から――。


誰かが俺たちを見ていた。


「美琴、急ごう!」


「う、うん!」


逃げ出すように、二人で山道を下りた。


(第30章、終わり)

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