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第二章 鼻から5円玉を撃つ人魚姫!?とてぇてぇな仲間達

鼻から5円玉を撃つ人魚姫!?

「はぁ〜、やっぱり仕事終わりのコンビニの空気って最高よね! 残業なしで帰りにフラッと寄り道できるなんて、前世の社畜時代からは考えられないわ!」

夕暮れ時。私はルナミス帝国特有の超便利コンビニエンスストア『タローソン』のレジ袋を片手に、ご機嫌な足取りで辺境領の道を歩いていた。

悪役令嬢としてブラックな実家からこの辺境に追放されて数ヶ月。私のユニークスキル【善行通販】と、前世のコンサル知識をフル稼働させた結果、領地の経営は驚くほど順調に回っている。

今ではこうしてタローソンも誘致され、領民たちの生活レベルも爆上がり中だ。

「リゼ、あまりはしゃぎすぎないでください。領主としての威厳が台無しですよ」

私の半歩後ろを歩くのは、銀髪に狼の耳と尻尾を生やした美しいメイド、セリア。

彼女はレオンハート獣人王国の伝説の神狼『白狼神姫』であり、私の最強の親友にして護衛だ。今日も完璧なメイド服に身を包み、私を過保護なほどに見守ってくれている。

「いいじゃない、威厳なんて。誰も見てないところくらい、ただの24歳の女の子に戻らせてよ。ほらセリア、タローソン名物の『からあげクン(ロックバイソン味)』、まだ温かいうちに食べる?」

「……いただきます。リゼのおごりなら、遠慮なく」

セリアは呆れ顔をしながらも、尻尾をパタパタと揺らして唐揚げを口に放り込む。そのモフモフした尻尾の動きが可愛くて、私は思わず頬を緩ませた。

私たちがそんな尊い(?)主従の日常を満喫しながら、タローソンの裏路地を通りかかった時のことだった。

「グルルルルルル……ッ!!」

突如、薄暗い路地裏から、野良犬の獰猛な唸り声が聞こえてきた。

「えっ? 犬……? セリア、何かあったのかな?」

「……リゼ、下がっていてください。少し様子が変です」

セリアがすっと警戒態勢に入り、私を背中で庇いながら路地裏を覗き込む。

そこに広がっていたのは、思わず私の目を疑うような、あまりにもシュールで白熱した『死闘』の光景だった。

「アッハッハ! 甘いですわね野犬さん! そのタローソンの廃棄弁当(半額シール付き)は、この私のもの! 決して渡しませんわ!」

路地裏のドンツキで野良犬と対峙していたのは、一人の少女だった。

年の頃は十六歳くらいだろうか。透き通るような水色の長い髪に、宝石のように美しい瞳。本来ならば絵画から抜け出してきたような可憐な美少女……なのだが。

彼女が身に纏っているのは、ルナミスデパートの特売品と思しき、ダサさ極まる『芋ジャージ(えんじ色)』。そして足元は『健康サンダル』。

およそファンタジー世界には似つかわしくない、休日の引きこもりニートのようなフル装備である。

「グルァァァァッ!!」

空腹で目を血走らせた大型の野良犬が、少女が手にした廃棄弁当を狙って飛びかかった。

危ない! 私がそう叫ぼうとした瞬間、少女は驚くべき行動に出た。

「ふふんっ! 私の最終兵器、味わいなさい!」

少女はジャージのポケットからルナミス帝国の通貨である『同粒(1円玉相当)』……いや、真ん中に穴の空いた五円玉のような硬貨を取り出すと、それを自らの『鼻の穴』にスポッと詰めたのだ。

「え……?」

私が絶句する中、少女は大きく息を吸い込み、狙いを定めて――。

「フンッ!!!」

パァァァンッ!!

鼻息という名の圧縮空気に押し出された五円玉が、文字通り弾丸のような速度で射出され、飛びかかってきた野良犬の眉間にクリーンヒットした。

「キャンッ!?」

脳震盪を起こしたのか、野良犬は情けない悲鳴を上げて地面に転がり、そのまま尻尾を巻いて猛スピードで逃げ去っていった。

「勝者、リーザ・シーラン・リヴァイアサン! これで今日のディナーも確保ですわ! あぁ、アイドルの道は険しくも美しい……!」

芋ジャージの美少女は、健康サンダルでドヤ顔のポーズを決めながら、勝ち誇ったように廃棄弁当を天に掲げている。

「……えっと。何からツッコめばいいのかしら、あれ。とりあえず、女の子が鼻に硬貨を詰めて飛ばすのは絵面的にアウトだと思うんだけど」

「はぁ……」

私の横で、セリアがかつてないほど深くて重い、絶望的なため息を吐き出していた。

セリアは頭を抱え、まるで頭痛を堪えるようにこめかみを揉んでいる。

「セリア? どうしたの、知り合い?」

「……ええ。思い出したくもない過去ですが、私が冒険者をしていた頃の、シェアハウスの元居候です。……おい、リーザ」

セリアがドスの効いた低い声で呼びかけると、芋ジャージの美少女――リーザは、ビクッと肩を震わせて振り返った。

「ひぃっ!? その声は……セリアさん!? ど、どうしてこんな辺境の田舎に!?」

「それはこっちのセリフよ。ルナミスの帝都で親善大使兼アイドルやってたんじゃないの? その惨めな芋ジャージと、廃棄弁当を犬と奪い合う生態は一体何なの。……また家賃を滞納して、キャルルのところから夜逃げしたわね?」

セリアの容赦ない言葉のナイフに、リーザの美しい顔がぐさぐさとダメージを受けて歪んでいく。

「ち、違いますわ! 私は今、地下アイドルとして下積み時代をエンジョイしている最中ですの! パンの耳と茹で卵を主食にし、デパートの化粧品テスターでメイクを済ませ、交番前で反復横跳びをしてカツ丼を狙う……これもすべて、最強のアイドルになるための試練!」

「それを世間では『極貧のホームレス』って呼ぶのよ。相変わらずポイ活とタダ飯への執着だけはプロ並みね……」

セリアが頭を抱えながら、私の方を振り返った。

「リゼ、紹介します。この残念な生き物は、海中国家シーランの女王リヴァイアサンの娘であり、人魚姫のリーザ。……現在はご覧の通り、脳みそまで貧乏に染まった自称・地下アイドルです」

「に、人魚姫!? この子が!?」

私は驚いてリーザをまじまじと見つめた。

人魚姫といえば、童話に出てくる儚く美しい存在の代名詞だ。それがどうして、芋ジャージで鼻から五円玉を飛ばすサバイバリストになってしまったのか。前世のブラック企業でも、ここまで酷い転落人生はなかなかお目にかかれない。

「セリアさん! 私は自称ではありませんわ! 歌で世界を救えると信じて、毎日みかん箱の上で愛とマネー(スパチャ)を叫んでいるんですの! アイドルたるもの、どんなに貧しくても誇りだけは失いませんわ!」

リーザは胸を張り、グゥゥゥゥ〜〜〜ッ! と、その誇り高きお腹の虫を盛大に鳴らした。

誇りと食欲は別腹らしい。

私は思わず、前世の社畜時代に、新入社員がお金がなくて昼休みに水道水を飲んで飢えを凌いでいた光景を思い出してしまった。

ダメだ。私のオカン魂(コンサル魂)が、こういう限界ギリギリの人間を放っておくことを許さない。健康な職場(アイドル活動)は、美味しいご飯からだ。

「ねえ、リーザちゃん」

「な、なんですの! 私は気高きアイドル! たとえお腹が空いていても、安っぽい施しなんて絶対に受けませんわよ!」

ツンッとそっぽを向くリーザに対し、私は懐から『エンジェルすまーとふぉん』を取り出し、パパッと【善行通販】のアプリを起動した。

「そう? 残念ね。ルナミス帝国で大人気のラーメン屋『豚神屋ぶたがみや』の、特製ラーメンをご馳走しようと思ったんだけど」

「ぶ、ぶたがみや……!?」

リーザの長い耳(エラ?)がピクッと反応した。

私は構わず、画面の購入ボタンをタップする。光の粒子が集まり、私の手元に巨大なラーメンのどんぶりが出現した。

「【ニンニクマシマシアブラカタメ・肉増しラーメン】よ。極太の麺の上に、トロトロに煮込まれた分厚いシープピッグの豚肉が山のように乗ってて、背脂とニンニクの強烈な香りが食欲を限界まで刺激するカロリーの暴力……。これを食べれば、明日からのライブも元気いっぱいに歌えると思うんだけどなぁ」

ぽわぁ〜ん、と。

路地裏に、豚神屋特有の、暴力的なまでに食欲をそそる濃厚なニンニク醤油と豚骨の香りが漂い始めた。

「あっ……ああっ……!」

リーザの瞳孔が開き、口元からタラリとヨダレがこぼれ落ちる。

廃棄弁当の冷たいご飯と、パンの耳で命を繋いできた極貧地下アイドルにとって、目の前に現れた温かくて脂ギッシュな超カロリーの塊は、まさに神の食べアンブロシアに見えたことだろう。

「どうする? アイドルの誇りを優先して、廃棄弁当を食べる? それとも……」

私が言い終わるより早く。

スパーーーンッ!!

リーザは美しい水色の髪を振り乱し、アスファルトの地面に額がめり込むほどの勢いで、見事な土下座をキメた。

「いただきますぅぅぅぅぅっ!! 誇りなんて豚の脂と一緒に飲み込んでさしあげますわぁぁぁっ!!」

「……誇り、安いわね」

セリアがジト目でツッコミを入れる中、私は「はい、召し上がれ」と優しく微笑んで、熱々の豚神屋ラーメンをリーザの前に置いた。

「はふっ、ずぞぞぞぞっ! お、お肉が……! お肉が口の中でとろけますわ! ニンニクのパンチが私の魂を震わせますの! んぐっ、うまぁぁいっ!!」

リーザは箸を休めることなく、尋常ではないスピードでラーメンを胃袋に吸い込んでいく。

その顔は、まるで数十年ぶりに人間の食べ物を口にした亡霊のように、歓喜の涙でぐしゃぐしゃになっていた。

ピコンッ!

私のスマホから、善行ポイントの加算通知が鳴る。

【善行ポイント:+1500pt(極限の飢餓からの救済・カロリーによる精神安定ボーナス)】

「ふふっ。よく噛んで食べてね。足りなかったらおかわりもあるわよ」

「あ、貴女は女神様ですの……!? 一生ついていきますわ! 私の歌も踊りも、なんでも捧げますの!」

「だから、アイドルの誇りはどこに行ったのよ、この駄人魚……」

顔をラーメンの汁でベタベタにしながら拝み倒してくるリーザと、眉間を揉んでため息をつき続けるセリア。

こうして。

私の経営する豊かな辺境領に、最強のメイドに加えて、鼻から五円玉を撃ち出す極貧地下アイドル(人魚姫)という、とんでもなく騒がしい居候が転がり込んできたのだった。

元社畜令嬢のホワイト開拓記は、新たな仲間を迎え、ますます予測不能な方向へ爆走を始める予感しかしない。

読んでいただきありがとうございます。

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