幕間:星の降る夜、青は昏き王へ語りかける
静寂が皇宮を包み込む、深い夜。
月明かりだけが差し込む静かな寝室で、我が主――ギルベルトは健やかな寝息を立てていた。
昼間の冷徹な表情は消え失せ、今は少し幼い寝顔を見せている。
枕元に外され、月光を浴びてひっそりと佇むブローチ。その中央で、僕――サファイアは退屈しのぎに魔力を瞬かせた。
(……ふふ、主様ったら。寝言でもサクラコちゃんの名前を呼んじゃって、本当に重症なんだから)
僕はそっと魔力の電波を伸ばした。
目指すは、皇宮の遥か地下深く。幾重もの結界で封印された、暗い宝物庫の最奥だ。
「おい、地下の偏屈な兄貴。そろそろ目覚ましの準備をしときなよ」
僕の細い魔力の声が、暗闇を通り抜けて地底へと届く。
返事はない。けれど、そこに「いる」のは分かっていた。
何百年もの間、誰もその圧倒的な魔力を御することができず、ただ眠り続けている帝国の裏の至宝。
僕がどれだけ鋭い魔力で小突いても、傷一つつけられない、最高硬度の頑固な兄貴だ。
「主様がさ、お前が何百年も待ち焦がれていた、あの『四月の柔らかな風』を連れて帰ってきたんだよ」
暗闇に向かって、僕はニヤニヤしながら言葉を続ける。
あの日、あの冷たい地下牢で彼女に出会った瞬間、僕には分かっていた。
色を持たない、ただ純粋で、世界で一番硬くて気高い輝き。それを受け止めることができる、優しくて温かい魂の波長を、彼女が持っていることを。
「あのクズな前の婚約者はさ、彼女を『色を持たない硬いだけの石ころ』なんて言ってたっけ。本当に滑稽だよね」
(……宝石の本当の価値も知らないなんて。あの一族、近いうちに本当に滅びちゃうんじゃないかな)
静寂が地底に満ちる。
やっぱり起きないのかな、と僕が電波を収めようとした、その時だった。
パキリ。
静寂を引き裂く、硬質で、ひどく冷徹な音が地下の奥底から響いてきた。
大気がわずかに震え、宝物庫の結界が内側から悲鳴を上げる。
『……おい、サファイア。その話、本当だろうな』
脳髄を揺さぶるような、低くて傲慢な少年ボイス。
何百年も閉じられていた、無色の結晶の「眼」が、暗闇の中でうっすらと見開かれた気配がした。
『もし嘘だったら、お前の表面、粉々にスクラッチしてやるからな』
「ひえっ、相変わらず怖いなぁ。嘘じゃないってば。楽しみに待ってなよ、僕たちの新しい女王様をね」
僕は満足して通信を切ると、月明かりの中で小さく身体を揺らした。
舞台装置はすべて整った。
あとは、あの哀れな元婚約者たちが、自分たちの愚かさに絶望する瞬間を見届けるだけだ。
(……クズ王太子、早く来ないかなぁ。主様のブチ切れ顔と、ダイヤの兄貴の初暴れが、今から楽しみで仕方が無いよ!)
(幕間おわり)




