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第5話:その頃、元婚約者は干上がった鉱山で私の名前を叫んでいるらしい

視察から戻った私は、皇宮のひときわ豪華なサロンで優雅なティータイムを満喫していた。


目の前に並ぶのは、最高級のイチゴをふんだんに使った特製タルト。

前世の社畜時代にはコンビニの100円スイーツで満足していた私が、今や宮廷シェフ直製の甘味を堪能している。


「口に合うか、サクラコ。足りなければ、国中の菓子職人を集めさせてもいいが」


対面に座るギルベルト陛下が、お茶を優雅にすすりながら、低く格好いい声で尋ねてくる。

相変わらず冷徹な覇王の顔をしているけれど、その視線は私の口元に付いたクリームに釘付けだった。


「とっても美味しいです、陛下! 毎日こんなに幸せでいいのかしら」


(……本当にこの国に来て正解だったわ。残業もないし、イケメン皇帝陛下が三食おやつ付きで養ってくれるんだもの)


私が満面の笑みでタルトを頬張ると、陛下の胸元のサファイアが、まばゆい光を放ちながら大爆笑した。


『あははは! お嬢さん、今のうちにエネルギーを蓄えておいた方がいいよ!』

『さっき届いた報告なんだけど、サクラコちゃんを追い出した前の国が、今とんでもないことになってるんだって!』


「え? ジークフリート殿下の国が、ですか?」


私が首を傾げると、ギルベルト陛下は「ふん」と鼻を鳴らし、手元の報告書に目を落とした。


サファイアの話によると、私が去った後の王国は、信じられないほどのスピードで自滅しているらしい。

私という「鉱山の声を聴いて危険を察知するストッパー」を失った王国は、新しいヒロインであるマイアの勘だけに頼って、無謀な採掘を強行したのだ。


『マイアって女が「ここにキラキラな宝石がある気がしますぅ」って言った場所を、クズ王太子が馬鹿正直に掘らせたんだよね』

『そしたらそこ、地底に眠る古代の凶暴な岩石たちの巣窟だったんだ! 石たちが大怒りして爆発しちゃったんだって!』


「まあ……。あそこの鉱山の石たち、かなり気が荒くて寂しがり屋だから、優しく声をかけながらじゃないと怒るって、あれほど言っておいたのに」


(……当然の結果よね。私が毎日「いつも魔力をありがとうね」ってなだめてたから保ってただけなのに。素人が力任せに掘り進めたら、鉱山ごと崩落するに決まっているわ)


報告書を読み終えたギルベルト陛下が、氷のように冷ややかな笑みを浮かべる。


「主要な魔力鉱山がすべて崩壊し、あの国は今、深刻なエネルギー不足で機能停止に陥っているそうだ。バカげた話だな、国宝級の聖女をドブに捨てておいて、自滅するとは」


「自業自得、ですね。それで、ジークフリート殿下はどうされているのですか?」


私が尋ねると、サファイアがさらに声を弾ませて、極上の「ざまぁ」な状況を教えてくれた。


『それがさ! 崩落して干上がった鉱山の前で、髪を振り乱して泥だらけになりながら、ワンワン泣いてるらしいよ!』

『「サクラコー! どこだサクラコー! 俺が悪かったから戻ってきてくれー!」って、毎日名前を叫んでるんだってさ!』


「今さら叫ばれても、もう遅いですけれどね」


私は呆れてため息をつき、お茶を一口飲んだ。

あの国には一ミリの未練もないし、むしろブラック企業が倒産したニュースを聞いた時のような、妙な爽快感すらある。


すると突然、ギルベルト陛下がガタリと椅子を鳴らして立ち上がった。

その紅蓮の瞳には、ジークフリートに対する圧倒的な怒りと、隠しきれない独占欲がギラギラと渦巻いている。


「サクラコの名前を気安く叫ぶなど、万死に値する。……もしあの男が我が国に一歩でも近づいたら、国ごと叩き潰してやろう」


『ひゃっほう! 主様、独占欲が爆発してるね!』

『「俺の可愛いサクラコに指一本でも触れたら、あのクズ王太子を生きたまま結界石の刑にしてやる」って、頭の中で恐ろしい拷問計画を練り始めてるよー!』


「ひえっ、陛下! 格好いいですけど、拷問計画は物騒ですからやめてくださいね!?」


私が慌てて止めると、ギルベルト陛下はハッと我に返り、またしても耳まで真っ赤にしてそっぽを向いた。


「……っ、そんなことは考えていない。俺はただ、お前の安眠を邪魔されたくないだけだ」


「ふふ、ありがとうございます。私はもう、陛下の隣からどこへも行きませんから、安心してくださいね」


私がそっと陛下の袖を引っ張ると、陛下は嬉しさを隠しきれない様子で、私の手をぎゅっと握り返してきた。


(……前の国がどうなろうと、知ったことじゃないわ。私はこの温かい手の中で、サファイアさんたちと一緒に、世界一幸せに暮らすんだから!)


こうして、悪役令嬢としての破滅フラグを完全に叩き折った私は、ウブで過保護な皇帝陛下からの、さらに激しい溺愛の嵐に巻き込まれていくことになるのだった。


(第1章・完)

第1章:『運命の救出と、脳内ダダ漏れ冷徹皇帝』


【作者より】

第1章をお読みいただき、本当にありがとうございます!


地下牢で「不気味な無能」と虐げられていたサクラコちゃんですが、隣国の「氷の皇帝」ことギルベルト陛下に華麗に(強引に?)拉致……もとい救出されました!

周囲からは絶対零度の冷徹覇王と恐れられている陛下ですが、サファイアさんの暴露によって**『実は一目惚れしていた重度のストーカー』**というヤバすぎる本性が秒でバレてしまいましたね(笑)。

表向きは冷酷なポーカーフェイスを保ちつつ、脳内では「尊い……っ! 愛おしい……っ! 今すぐ抱きしめたい!」と大暴走している陛下のギャップを楽しんでいただけていたら幸いです!


第2章では、帝国の皇宮を舞台に、サクラコちゃんの前世知識と新しい魔石たちが大暴れします!


もし「ストーカー陛下かわいすぎる!」「サファイアさんの暴露実況最高!」と思っていただけたら、ぜひページ下部の【評価(★★★★★)】やブックマークを押していただけると、執筆の大きな励みになります!

それでは、第2章でお会いしましょう!

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