幕間:過保護パパ皇帝の『育児予行練習』と、7大魔石の過剰防衛(?)
――サクラコが午睡に入った、ある日の午後。
皇帝のプライベートルームでは、人知れず「国家の存亡を賭けたような緊迫した訓練」が行われていた。
「……くっ、角度が……角度がまだ足りん。これでは赤ちゃんの首に負担がかかるのではないか……!?」
豪華なソファの前で、冷や汗をだくだくと流しながら立ち尽くすギルベルト陛下。
その力強い両腕に恭しく抱かされているのは――侍女に作らせた「新生児とまったく同じ重量・サイズのクマのぬいぐるみ」であった。
「ミリ単位で肘の角度を調整せねば……! 万が一にも俺の筋肉が硬すぎて、我が子に痛い思いをさせたら……俺は自害するしかない……!」
『うぎゃはははは!! 主様、クマのぬいぐるみ抱っこするだけで第三次世界大戦レベルの冷や汗かいてるーーっ!!』
ブローチのサファイアさんが爆笑しながら青い光をバチバチ弾けさせる。
『主様! 腕の力みが強すぎますぞ! もっと熱く、されど羽毛のごとく優しく愛を包み込むのです!!』
新入りの熱血魔石ルビーくんが真熱の赤を明滅させれば、
『緊急事態! 万が一ぬいぐるみ(赤ちゃん)が滑り落ちた時のために、床全面に【ふかふか高反発結界】を重層展開したよ!』
ダイヤくんが半透明の輝く層を部屋中に張り巡らせる。
『ピカーン! ギルベルト陛下の脳内思考を検知しました! 「俺の指が太すぎて赤ちゃんの小さな手を握りつぶしてしまわないか」と大真面目に恐怖しています!』
フローライトくんが真実の光で容赦なくパパの葛藤を暴露し、
『ふむ……パパ皇帝の育児トレーニング、すでに連続3時間突破ですわ。この集中力を国務に向けたら国家予算が3倍になりますが……愛おしいので経費として全額認定しますわぁ!』
シトリンちゃんがジャラジャラと景気の良いそろばんの音を鳴らした。
『あらあら、肩の力を抜きなさませ、ギルベルト様。我が子の抱っこは、理屈ではなく愛の温もりですわよ?』
お母さん魔石のエメラルドさんが優しく緑の光で包み込み、アメジストさんも『ふふ、素敵なパパになりますわね』と温かく見守っている。
「……だんまりを決め込め、貴様ら。俺は至って真剣なのだ。……サクラコと我が子を世界一幸せにするためなら、ぬいぐるみでの1千回連続抱っこ組み手など造作もない……!」
ギルベルト陛下が真剣そのものの鋭い眼光で、再びクマのぬいぐるみの首元を優しく支え直そうとした――その時だった。
「……ギルベルト様? 何をなさっているのですか……?」
パタン、と扉が開き、目を擦りながら部屋に入ってきたのは、目を覚ましたサクラコだった。
「ッ……!??!?」
時が止まった。
クマのぬいぐるみを愛おしそうに抱きかかえ、滝のような冷や汗を流しながらミリ単位の姿勢調整をしていた絶対君主・ギルベルト陛下。
その顔が、一瞬にして耳の根元から首筋まで真っ赤に沸騰した。
「サ、サクラコ……! あ、これは……違っ……いや、違わない……! 俺は……お前が起きるまでの間、我が子を抱く完璧なフォームを会得しようと……その……っ!」
威風堂々とした皇帝の面影はどこへやら、ぬいぐるみを持ったまま口をパパクサさせて挙動不審になる陛下。
サクラコは一瞬目を丸くしたものの、次の瞬間、クスッと可憐に微笑んだ。
「ふふっ……ギルベルト様。練習なんてしなくても、大丈夫ですよ」
サクラコはそっと歩み寄ると、陛下が抱くクマのぬいぐるみを優しく引き取り、代わりに自分の小さなお腹へ、陛下の大きな手を引き寄せた。
「こんなにも前から、私たちとこの子を愛してくださっているんですもの。ギルベルト様は、間違いなく世界で一番優しくて素敵なパパになります」
「サクラコ……」
手から伝わる、愛しい妻とまだ見ぬ我が子の温もり。
ギルベルト陛下の瞳から、すっと張り詰めた緊張が消え、溢れんばかりの愛おしさが溶け出していった。
「……ああ。任せておけ、サクラコ。……俺の全てで、お前たちを守る」
『『『『『『(尊死ーーーーーー!!!)』』』』』』
7大魔石たちの祝福の大歓声と色とりどりの輝きが、幸せに満ちた部屋をどこまでも温かく照らし出すのだった。
(幕間おわり)




