第31話:サクラコの体調不良!? ギルベルト陛下の世の終わりレベルの大パニックと、おめでた発覚!
『世界魔石サミット』の大成功から数週間。
皇宮は平穏を取り戻し、私たちは穏やかで幸せな日々を過ごしていた。
――はずだったのだが。
「サクラコ、今日の朝食の特製スープだ。栄養バランスを完璧に計算させて作らせた。さあ、あーん……」
「ギ、ギルベルト様、スプーンは自分で持てますから……!」
今朝も相変わらずの超過保護モードで朝食を食べさせてくれようとする陛下。
私が苦笑しながらスプーンを受け取ろうとした、その時だった。
「……っ!?」
急激な目眩と、胸の奥からこみ上げてくる強い吐き気。
手から力が抜け、カチャンと小さな音を立ててスプーンが皿に落ちた。
「サクラコ……!?」
「うっ……ごめんなさ……い、急に気分が……」
胸を押さえて口元を覆い、その場に崩れそうになった私の身体を、ギルベルト陛下の強靭な腕が凄まじい速度で抱きとめた。
だが、私の体調変化を感じ取った瞬間の陛下の顔は――血の気が引き、まるでこの世の終わりを目撃したかのように蒼白になっていた。
「サクラコ!? おい、しっかりしろ! サクラコ!! 誰か! すぐに宮廷医を呼べ!! 全員だ! 腕の立つ医者を一人残らずここへ連れて来い!!」
皇宮の廊下中に響き渡る、陛下の怒号。
そしてその瞬間、胸元の6大魔石たちが一斉に悲鳴を上げた。
『うぎゃあああぁぁぁ!! 主様の脳内で過去最大級のビッグバンが発生中ーーっ!!』
サファイアさんがパニックを起こしたように青い光を乱舞させる。
『「俺のせいだ……俺が昨夜サクラコを愛しすぎたせいだ……! もしサクラコに万が一のことがあれば、俺は今すぐ大陸全土を焦土に変えて後を追う……!」って、脳内で3万文字の遺書と破壊計画が同時に執筆されています!!』
『熱い……熱すぎるが、主様のパニックの熱量が凄すぎて俺の体が融解しそうだぁぁ!』
新入りのルビーくんが真っ赤に発光してオロオロし、
『緊急非常事態! サクラコお姉ちゃんを衝撃から守るため、ふわふわクッション結界を展開するよ!』
ダイヤくんが半透明の柔らかい光の層で私を包み込む。
『あわわ……! 主様の心の中、「神よ、俺の命を差し出すからサクラコを救ってくれ」って必死の祈りでいっぱいですわ!』
フローライトくんがボロ泣きするように光を散らした。
数分後、生きた心地のしない顔をした宮廷医が、護衛騎士に担ぎ込まれるようにして部屋へ駆け込んできた。
「き、皇帝陛下! 皇后様はいかがされ――」
「サクラコだ! 急に顔色を悪くして倒れかけた! 今すぐ診ろ! もしサクラコを救えなければ……貴様ら宮廷医の首を全員飛ばす!!」
冷酷な殺気を全開にして医者を脅しつける陛下。
宮廷医はガクガクと膝を震わせながら、私の手首にそっと触れ、脈を測り始めた。
部屋の中に、死のような静寂が流れる。
陛下は私の手を握り締め、まるで世界が滅びるのを待つかのように拳を震わせていた。
やがて――宮廷医がゆっくりと顔を上げた。
その表情から恐怖が消え、温かな微笑みが浮かんでいた。
「……皇帝陛下。お命をお留めください」
「なんだと……!? サクラコは毒でも盛られたというのか!?」
「いいえ、違います。……ご安心くださいませ。皇后様のお体に異常はございません。これは『悪阻』でございます」
「つ……わり……?」
ギルベルト陛下が呆然と口を開ける。
宮廷医は深々と頭を下げ、晴れやかな声で告げた。
「おめでとうございます、ギルベルト皇帝陛下! 皇后様のお腹には、新しい命が宿られております!」
「………………え?」
時が止まった。
ギルベルト陛下は完全にフリーズし、紅蓮の瞳を極限まで見開いたまま、動かなくなった。
次の瞬間――6大魔石が大爆破のような歓声を上げた!
『ギャァァァァァッ!! おめでた!? パパ!? 主様がパパになるのーーーっ!?』
サファイアさんが歓喜の青い光を部屋中に撒き散らす。
『お、おめでたですとぉぉぉ!? サクラコ様と陛下の赤ちゃん……! 我が命に代えても守り抜いて見せるぞーーっ!!』
ルビーくんが感動の涙(真紅の炎)を噴出させ、
『赤ちゃん……! サクラコお姉ちゃんに赤ちゃん! 僕、世界で一番強くて優しい結界のお兄ちゃんになるよ!!』
ダイヤくんが眩しく輝く。
『ええ話や……! これはお祝いですわ! 24金純金製の「黄金のガラガラ」と「ダイヤ散りばめベビーベッド」、国家予算から即刻経費で落としますわぁぁ!!』
シトリンちゃんが大号泣しながらそろばんを叩き、
『ふふっ……我が予言にも出ておりましたわ。健やかで愛らしい、最高の天使が生まれてきますわね』
アメジストさんが艶やかに微笑んだ。
「あ……赤ちゃん……? 私と……ギルベルト様の……?」
私が自分のお腹にそっと手を当てると、まだ実感は湧かないけれど、どこか温かい命の温もりが伝わってくる気がした。
ふと陛下を見ると――絶対零度の氷の皇帝と呼ばれた男が、ボロボロと大きな涙を溢ぼしていた。
「ギ、ギルベルト様……!?」
「サクラコ……っ! ああ……サクラコ……!」
陛下は壊れ物を扱うかのように、お腹を圧迫しないよう私を優しく、優しく抱きしめた。
「俺とお前の……子……。感謝する……神よ……サクラコ……! 俺の命の全てを懸けて、お前とこの子を幸せにしてみせる……!」
「ギルベルト様……私の方こそ、幸せです……!」
その日、感極まったギルベルト陛下によって、皇宮の全使用人および帝国の全城下町へ「お祝いの金貨」が大量に大振る舞いされ、帝国中が空前絶後のお祝いムードに包まれたのだった。




