幕間:絶対遮断結界の向こう側と、重愛皇帝の「観察日記」
――翌朝。アルピナ温泉郷の高級離れ、極上露天風呂付き客室。
朝日が柔らかな金色の光を部屋に投げかける中、俺はそっと目を覚ました。
腕の中には、昨夜の火照りがまだ少し残る肌を滑らかにすり寄せて、ぐっすりと眠るサクラコの姿がある。
「……ふっ」
前髪をそっと撫で上げると、サクラコは夢心地のまま「ギルベルト様ぁ……」と小さく呟き、俺の胸元にさらに顔を埋めてきた。
心臓が跳ね上がる。……危険だ。この愛おしさは、毎朝俺の理性を過酷なまでに試してくる。
その時――。
『はいっ! ダイヤ特製【過去最大級の絶対遮断結界】、解除しまーす!』
キィィィィィン……と透明な音を立てて、机の上に置かれたブローチやティアラを包んでいた結界が消え去った。
『おはよーございます、主様! 朝の空気、最高だね! 昨夜の甘々なおしおきタイム、僕たちの結界の防音・防光機能のおかげでバッチリだったでしょ!?』
婚約指輪のダイヤが、チカチカと誇らしげに光を弾けさせる。
『ほんまそれですわ! お姉様の湯上がり美肌効果でアルピナの宿泊予約、早くも**3年先まで満室**になりましたで! 経済効果、帝国国家予算半期分に達する勢いですわぁ!』
黄色のシトリンがそろばんを弾くような音を立てて大歓声を上げた。
『あらあら、二人とも声が大きいわよ? サクラコちゃんが起きてしまうでしょう?』
首飾りのアメジストが、妖艶な紫色の光をぽわんと明滅させながら、くすくすと上品に笑う。
そして次の瞬間、その深みのある紫水晶が、俺の脳内をじっと透視して魅惑的な声で呟いた。
『……ふふっ。けれど皇帝様。サクラコちゃんの可愛い寝顔を見つめながら、貴方が3年前、初めて彼女を遠目で見かけた時の「ストーカー時代の思い出」を回想しているのは、どうか光線を控えめにして差し上げましょうか?』
「……ッ! アメジスト、貴様……!」
俺は冷や汗をかき、完璧なポーカーフェイスを必死で維持しながら低く唸った。
だが、その動揺を逃すようなサファイア(ブローチ)ではない。
『うわあああぁぁぁ! 出たーーー! 新入りのアメジストお姉さん、ナイスアシスト!』
サファイアが青い光をバチバチと大爆発させる。
『主様、脳内で「あの時、王国のパーティーの片隅でクズ元婚約者に虐げられていたサクラコを一目見た瞬間、俺の魂は打ち震えた……! 陰から護衛を化けさせて毎日観察記録をつけていたあの暗黒時代を経て、今こうして俺の腕の中で妻として眠っている……神よ感謝する、尊すぎて涙が出る」って、激重な過去回想が溢れ出していまーす!』
『ええっ!? 主様、サクラコお姉ちゃんを連れ去る(救出する)何年も前からストーカー観察してたの!? 筋金入りすぎるよ!』
フローライトがサクラ色を通り越して真っ赤に発光した。
「……サファイア、フローライト。帰宮したら貴様らを一度、マグマの底に沈めてやる……」
俺が低い低音ボイスで脅すものの、もはや5大魔石となった彼らに恐れる様子は微塵もない。
『あら、お脅しになっても無駄ですわよ、冷徹皇帝様。サクラコちゃんへの愛の深さが重すぎて、お顔の筋肉が「幸せ」で緩みかけていらっしゃいますもの』
アメジストが妖しく光る。
『せやせや! 独占欲リスク1000%突破! 主様の「俺以外の奴にサクラコの素肌を見せたら国ごと滅ぼす」っていう念がビンビン伝わってきますわ!』
シトリンがゲラゲラと笑う。
やかましい。実にやかましい。
……だが、王国の地下牢で孤独に震えていた彼女を連れ去り、こうして世界一賑やかで愛おしい家族(石たち)に囲まれる日々を手に入れたのだと思うと、胸の奥が熱い愛おしさでいっぱいになる。
「……ん……。ギルベルト……様……? おはよ……ございます……」
脳内の大騒ぎを余所に、腕の中のサクラコが、パチパチと長いまつ毛を揺らして目を覚ました。
まだ少し眠たげな、無防備で可憐な笑顔。
『『『『『(尊死ーーーーー!!!)』』』』』
5大魔石の脳内大合唱が響き渡る中、俺は口元を緩め、愛しい妻の額にそっと優しく kisses を落とした。
「おはよう、サクラコ。……今日も、世界で一番愛している」
冷徹皇帝の重すぎる愛と、世界一やかましい魔石たちのハネムーンの朝は、今日も最高の輝きに包まれていた。
(幕間おわり)




