第23話:「田舎の皇后など認めん!」と横槍を入れてきた隣国の傲慢使節と「偽聖女」
アメジストさんの協力と、クズ魔石たちの健気な頑張りによって、アルピナの源泉は見事に安定した。
お湯の温度はいつでも快適な42度。つるつるの肌触りとほのかな温泉の香りが漂う、極上の「美肌の湯」の完成だ。
「すごい……! 肌が手に吸い付くようにモチモチになりますわ!」
「長年悩んでいた腰の痛みが一瞬で消えたぞ……!」
試運転として開放した町営の浴場では、街の人々から歓喜の悲鳴が上がっていた。
前世のスパリゾートを参考に、薬湯コーナーやサウナ風の魔導温室まで作ったおかげで、閑散としていた街には一気に活気が戻りつつある。
「よくやってくれた、サクラコ。お前は本当に……我が国の宝だな」
夕暮れ時。誰もいない見晴らしのいい高台で、ギルベルト陛下が私の肩を優しく引き寄せた。
低い、耳に心地いいイケボで囁かれ、私はドギマギしてしまう。
「い、いえ! 陛下やみんなの力があったからこそです」
私が照れて俯くと、陛下の指先がそっと私の顎をすくい上げようとして――その甘い雰囲気をぶち壊すように、ガタガタとけたたましい馬車の駆動音が響き渡った。
「そこをお退きなさい! 神聖なる『ルミナス神聖国』の使節団のお通りですわよ!」
豪奢だが悪趣味な金ピカの馬車が、街の石畳を暴走するようにやってきて、私たちの目の前で荒々しく停止した。
馬車から降りてきたのは、派手な絹のローブを纏った肥満体の男――ルシアン大使と、やたらとフリルを盛ったドレスを着た高飛車そうな少女だった。
少女は私を一瞥すると、扇子で鼻を覆いながら露骨に不快そうな顔をした。
「まあ、何て不潔な匂い! こんな田舎の秘湯に、まさか帝国のギルベルト皇帝陛下がいらっしゃるなんて……。それに、そちらにいらっしゃるお見苦しい女性はどなた?」
「失礼だな、娘。こちらは我が帝国の皇后、サクラコ様だ」
ギルベルト陛下の声から、一瞬で温度が消え去る。
だが、少女――クロエはフンと鼻を鳴らした。
「皇后? 笑わせないでくださる? 隣国の元悪女で、魔術も使えず地下牢にぶち込まれていた無能令嬢じゃありませんの! そんな女が皇帝陛下の隣に立つなんて、世界の恥ですわ!」
「なっ……!」
言い放ったクロエに続き、ルシアン大使が揉み手をしながら図々しく前に進み出てきた。
「皇帝陛下、単刀直入に申し上げましょう! このアルピナの温泉から湧き出る奇跡の魔力、これぞ我がルミナス神聖国の『神の恵み』に他なりません! このような無能な皇后に管理させるなど言語道断。温泉の全利権を我が国へ譲渡していただきましょう!」
さらに大使は、ドヤ顔でクロエの肩を抱いた。
「そして! 我が国が誇る『真の聖女』であるクロエ様こそ、貴方様の皇后にふさわしい! 無能なサクラコなど今すぐ廃后し、クロエ様を娶るのです!」
(うわぁ……。前世のドラマでもここまでコテコテな悪役、最近は見ないぞ……)
あまりの理不尽な要求と暴言に、私が呆れていると――。
隣に立つギルベルト陛下の全身から、凄まじい「殺気」が解き放たれた。
「……万死に値する」
シュギン、と剣を抜く音が響く。
陛下の紅蓮の瞳が血のように真っ赤に光り、絶対零度の冷気が周囲の空気を凍りつかせた。
(ヤバい! 陛下がガチで二人を細切れにする気だ……!)
しかし、私の胸元や頭上では、魔石たちが恐ろしいほどの余裕で大爆笑していた。
『あははは! 主様ブチ切れー! でもちょっと待って、この自称聖女の脳内、ヤバすぎるんだけど!』
サファイアさんが青い光を弾けさせる。
『うわー、見てよみんな。この「真の聖女」って子、聖水とか言ってるの、ただの市販の安物化粧水に香料混ぜただけのバッタ物だよ!』
フローライトくんが真実の光で一瞬で暴露した。
『ふむ……我が予言の通り、哀れな愚か者たちが自ら墓穴を掘りに来ましたわね』
新入りのアメジストさんが、妖艶な紫色の輝きをパチパチと点滅させながら、優雅に微笑む。
『お姉様、この神聖国の使節団、裏で他国の悪徳商会と組んで「温泉の権利を奪ったら高値で売却する」っちゅうインサイダー取引の書類、胸のポケットに隠持ってますわ! 違約金がっぽり取れます!』
シトリンちゃんがそろばんの音をジャラジャラと鳴らす。
『主様! 斬るのは一瞬待って! サクラコお姉ちゃんの「極上スパ&美容パック」で、こいつらを完膚なきまでに分からせてから地獄に落とした方がスカッとするよ!』
ダイヤくんがノリノリで提案してくる。
私は冷酷な顔で剣を構えるギルベルト陛下の服の裾を、ちょこんと引っ張った。
「ギルベルト様、手を汚すまでもありません。……この『自称・真の聖女』様には、本物の『魔導スパ』の凄さを思い知っていただきましょう」
私が不敵に微笑むと、ギルベルト陛下はハッと正気に戻り、愛おしそうに目を見開いた。
「……サクラコ。お前がそう望むなら、好きにしろ。……終わったら、あやつらをどう料理するかは俺に任せてもらおう」
「偽聖女」と「傲慢使節」をスカッと返り討ちにするための、極上のショータイムが今、幕を開けようとしていた。
(第23話おわり)




