第22話:温泉の魔導イノベーションと、妖艶な新魔石『アメジスト』の覚醒
「ここが、アルピナの源泉にございます……」
街の案内人に連れられてやってきたのは、街の最奥にある巨大な岩山の中腹だった。
かつては美しい湯けむりが立ち上っていたであろうその場所は、今や赤紫色の怪しいモヤに覆われ、お湯は煮えくり返るほど激しく波立ったり、次の瞬間には凍りついたりと、凄まじい狂い方を見せていた。
「なるほど……。温泉自体の魔力源が暴走して、温度調節が完全に狂ってしまっているのね」
私がじっと源泉を見つめていると、ギルベルト陛下が私の前にすっと立ち、かばうように手を広げた。
「サクラコ、下がるんだ。あのモヤは魔力が濃すぎて、普通の人間なら近づくだけで酔ってしまう」
「大丈夫ですよ、陛下。……私には、みんなの声が聞こえますから」
私は微笑み、足元に転がっていた小さな石ころたち――『温度調整』と『水質浄化』の性質を持つクズ魔石たちにそっと語りかけた。
(みんな、急に魔力が溢れ出してビックリしちゃったんだよね? 大丈夫、私がお部屋(魔導回路)を作ってあげるから、一緒にお湯を綺麗にしてくれる?)
私が前世の「現代スパリゾートの温度管理システム」をイメージしながら魔力を流し込むと、クズ魔石たちが『わーい! お姉ちゃんの手、あったかーい!』『お湯の温度、42度にキープすればいいのね!?』と元気に光り始めた。
その時だった。
源泉の最深部、赤紫色のモヤの奥底から、妖艶でミステリアスな「大人の女性ボイス」が脳内に響き渡った。
『あらあら……。私の気まぐれな魔力に当てられても平気だなんて、面白くて可愛らしいお妃様ね?』
グラグラと揺れる源泉の底から、ぽわんと浮かび上がってきたのは――息を呑むほど美しい、深みのある紫色の結晶。
【真実を見抜く占いと予言の石】――『アメジスト(紫水晶)』だった。
『ふふ、何百年も退屈な温泉の底で眠っていたけれど、貴女のような魅力的な主に巡り逢えるなんて……運命を感じてしまうわ』
アメジストさんが、私の手のひらへとゆっくり舞い降りてくる。
その瞬間、彼女の妖艶な紫色が、私の魔力と溶け合って、うっとりするような美しいパープルゴールドへと変化した。
『うわぁ、また新しい女の子の石だ! しかも、すごく大人の色気がある……!』
ダイヤくんがチカチカと感動の光を弾けさせる。
『あら、サファイアにダイヤに、あらフローライトまで。賑やかでいいわねぇ。……けれど、一番面白いのは、そちらの不機嫌そうな「冷徹皇帝様」かしら?』
アメジストさんは妖しい紫色の輝きをパチパチと点滅させると、ギルベルト陛下の脳内へと、その鋭い予言の力をダイレクトに流し込んだ。
『あらあらいけませんわ、皇帝様。脳内で「湯上がりのサクラコのしっとりした肌を抱きしめたら、俺の理性が保てるだろうか」だなんて……お顔には一切出さずに、そんな淫らでウブな妄想を膨らませていらっしゃるなんて、罪な男ねぇ?』
「……っ! 貴様、サクラコに変な念を送るな……っ!」
ギルベルト陛下が、人生最大級に顔を真っ赤にして、思わず耳を覆った。
あのポーカーフェイスの皇帝陛下が、完全にタジタジになっている!
『あははは! 新入りのアメジストお姉さん、初手から主様の脳内セクシー実況をぶち込んできたー! 最高ー!』
サファイアさんが大爆笑する。
『ちょっとアメジストさん! 主様を煽るのはいいけど、サクラコお姉ちゃんに変な大人の知識を吹き込まないでよねっ!(焦ってピンク色に発光)』
フローライトくんも大慌てだ。
私はクスッと笑いながら、アメジストさんを優しく撫でた。
「アメジストさん、よろしくね。……よし! 魔力源も安定したし、これで極上の『美肌・ヒーリング温泉スパリゾート』が作れるわ!」
こうして、新たな仲間『アメジスト』を迎えた私たちは、廃れていたアルピナの街を、世界最高の温泉リゾートへと生まれ変わらせる改革へと乗り出したのだった。
……だが、そんな私たちの楽しげな様子を、影から苦々しい表情で見つめる「不穏な存在」が近づいていることを、この時の私たちはまだ知らなかった。
(第22話おわり)




