第21話:冷徹皇帝の超サプライズ! 新婚旅行は「秘湯と霊峰の街」への極秘視察です
「……ハネムーン、ですか?」
執務室のふかふかのソファで、私は出された紅茶を前に思わず首を傾げた。
実家の悪徳商会を一網打尽にし、『生活便利魔石』の事業も軌道に乗って一安心していたところだ。
そんな私に向かって、デスクに座るギルベルト陛下は、相変わらず寸分の狂いもない完璧なポーカーフェイスで頷いた。
「ああ。ここ最近、お前には苦労ばかりかけてしまったからな。皇帝としての公務ではなく、妻としてのサクラコを労いたい。……それに、二人きりでゆっくり過ごす時間が欲しかった」
(ひぇっ、さらっと甘いことを言う……!)
低音のイケボで告げられ、私の顔が一瞬で熱くなる。
しかし、そんな陛下のクールな表情の裏側を、胸元のサファイアさんが逃すはずもない。
『あははは! 主様、表面上は威厳たっぷりの皇帝を気取ってるけど、脳内では「二人きりのハネムーン! 混浴! 湯上がりのサクラコ! いや待て、そんな光景を見たら俺の理性が秒で吹き飛ぶのでは!?」って、旅立つ前から大パニックを起こしてまーす!』
サファイアさんが青い光をバチバチと爆発させた。
『主様ウブすぎ! でもハネムーン楽しみー! サクラコお姉ちゃん、いっぱい羽根を伸ばしてね!』
ティアラの上のダイヤくんがチカチカと応援の光を放つ。
『ふん! 旅先でもお姉ちゃんに変な虫がつかないように、僕が真実の光で監視してあげるんだからねっ!(照れてサクラ色に発光)』
新入りのフローライトくんも、相変わらずのチョロツンデレっぷりだ。
『ええ話や……! 行き先の特産品とご当地魔石の市場調査、ウチがばっちりそろばん弾いときますわ!』
シトリンちゃんに至っては、完全に仕事モードである。
「……静かにしろ、お前たち」
真っ赤になった耳の裏を隠すように、ギルベルト陛下がコホンと咳払いをした。
「行き先は、帝国の北端にある霊峰の麓――『アルピナ』だ。素晴らしい絶景と天然の温水(温泉)が湧く土地なのだが……近年、周囲の魔力が不安定で、観光業が完全に廃れてしまっていてな。極秘の視察も兼ねている」
「アルピナ……温泉ですね!」
前世の社畜時代、疲れた身体を癒やすために温泉郷へ行くのが唯一の楽しみだった私は、その言葉に目を輝かせた。
「はい! ぜひ行きましょう、ギルベルト様!」
「……っ。ああ、そう言ってもらえると嬉しい」
私が嬉しそうに頷くと、陛下は愛おしそうに私の頬に触れ、優しく目を細めた。
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数日後。
私たちは極秘の旅行ということで大掛かりな護衛を伴わず、身軽な御用馬車に乗り込んで皇都を出発した。
馬車に揺られること数日。
車窓からの景色は、緑豊かな平原から、雄大な雪山を背景にした美しい渓谷へと変わっていく。
そして到着した「アルピナ」の街は――想像以上に閑散としていた。
「これは……なかなか厳しい状態ですね」
街の石畳は手入れが届いておらず、かつて観光客で賑わっていたであろう旅館や商店街のシャッター(木戸)は閉ざされている。
時折すれ違う住民たちの表情も暗い。
『うわぁ、街全体の魔力の流れがめちゃくちゃだよ。源泉のあたりに、すごく淀んだ重い魔力の塊を感じるね』
ダイヤくんが警戒するように光を曇らせる。
「……うむ。アルピナの温泉は、元々は高いヒーリング効果を持つ魔導源泉だったのだが、数年前から魔力が暴走し、湯が熱すぎたり冷たすぎたりして、まともに使えなくなってしまったのだ」
ギルベルト陛下が険しい表情で街を見渡す。
しかし、前世で温泉リゾートのビジネスモデルや、現代のスパ施設を知っている私にとって、この街は「宝の山」にしか見えなかった。
(豊富な源泉、絶景のロケーション、そして魔力の調整さえできれば……ここ、絶対に極上の温泉リゾートに生まれ変わるじゃない!)
社畜時代の企画立案魂が、ふたたびメラメラと燃え上がってきた。
「ギルベルト様、まずはその魔力が暴走しているという『源泉』へ案内していただけますか?」
「サクラコ? 危険かもしれないぞ」
「ふふ、大丈夫です。私には、最強のパートナーたちがついていますから!」
こうして、私たちのハネムーン兼・温泉リゾート開発プロジェクトが、賑やかに幕を開けたのだった。
(第21話おわり)




